テキサスBBQ食べある記 - Burns Original BBQ
アメリカ有数の大都市ヒューストン。この街はなんとなく苦手だ。
前回滞在した時は、夜遅くに宿泊先へ戻る途中で遭遇したチンピラが、隠し持っていた拳銃をチラ見せしてきた。そしてその直後、車の運転中に、暴走族が信号を無視して猛烈なスピードで一般道をレースしている中に巻き込まれ、死ぬほど怖い思いをした。
そんな思い出のあるヒューストンに、久しぶりに来てみた。仕事と読書に没頭したくて、オースティンをしばらく離れることに。日本で生活していたら、栃木か箱根あたりの温泉宿にでも泊まり込んでいたと思う。
電話で仕事の打ち合わせをお昼前に終え、時間に余裕がある午後。たまたま宿のすぐ近くに、良い噂を聞いたことがあるBBQ店があったので、お昼ご飯に立ち寄ってみた。
ヒューストンの中心街からちょっと北西に行ったところにあり、国道のI-610の北側でI-45の西隣に位置するこの住宅街は黒人がマジョリティ。落ち着いた雰囲気ではあるものの、所得が低い地域であることは明らかだ。軽くドライブしてみると、道沿いの排水溝に使い古したソファーやタンスなどの家具が捨ててあるし、ボロボロの家もちらほら。今回訪問したBurns Original BBQは、そんな静かで道の狭い住宅街の中にあった。
1973年創業のこのお店は、テキサスBBQの基準でいえば「老舗」といって差し支えない。当初はRoy氏が自宅の私設車道や裏庭で肉を調理して販売していたらしい。1988年に今の場所に移ったが、2009年に創業者のRoy Burns氏がお亡くなりになり、2010年には建物の老朽化などが原因で閉店してしまう。Royの子供たちもそれぞれ別の場所で自分の店を開いていたらしい。
そんな中、Royのお孫さんたち（その一人は元ロサンゼルス・ドジャーズに所属していたプロ野球選手のカール・クロフォード）が出資して痛みきっていた建物を修復し、自分の店をやっていた子供達も戻ってきたことで、店は2012年に復活。それ以来、昔通りに繁盛しているようだ。
平日の午後2時に来たせいか人は少ない。でもお客さんはそれなりにいる。仕事を抜けて昼食を取りに来ている方や、もう仕事はしてなさそうなご高齢の方。そのほとんどは黒人で、自分がいた30分程度の間に見かけた黒人でない客は白人男性が2名ぐらい。お客さんや店員を眺めていると、このお店が近所の住民に愛されているのがなんとなく伝わってくる。
注文したものは紙袋で手渡し。雑に見えるけど、これは実はかなり親切なやり方だと思う。店内で食べても食べきれず余った分を持ち帰ることなんて、BBQならよくあること。それをラクに持ち帰れることを想定したような渡し方だと解釈している。頼んだものに食パン1枚と自家製BBQソースもついてきた。
今回はブリスケット、自家製ソーセージ、リブの3点セットを注文。サイド（要はおかず）を2品選べるそうなので、茹でたサヤインゲンとダーティーライス（ルイジアナ州発祥の炊き込みご飯のような米料理）を選択。どちらもオースティン周辺のBBQ店では滅多に見かけないメニュー。この記事を書いている時点では、サヤインゲンやダーティーライスがヒューストンでは一般的なのか、それとも黒人系アメリカ人が手がけるBBQならではのものなのか、ちょっと見当がつかない。
リブが特に美味しかった。肉に噛みつきながら骨を引っ張れば肉がスーッと離れ、キレイに取れる。これは美味しく（そして正しく）リブを調理できている証拠。食べやすいように一口サイズにカットされているRoy Burns氏オリジナルレシピのソーセージも塩分や油分、旨味と辛味のバランスがよく、なかなか食べ応えがあった。
昨今のアメリカでは各都市で乱開発が進んでいて、特に街と隣接する農地や市内の低所得層のコミュニティがその対象となっている。市街地の再開発による地価の高騰などにより、もともといた住民が立ち退きを強いられてコミュニティが変貌していく、といったことがどんどん起きている。Burns Original BBQが店を構えるAcre Homesエリアは、そのような開発の波にしぶとく抵抗し続けている地域らしい。
そんな中で、周辺の住民のみならずテキサス各地、さらにはオーストラリアやフランスからもお客さんが訪れている。決して気取らず、40年以上続く自分たちならではのBBQを提供している。とても好感が持てる店だった。
ちなみにこのお店は、今年自殺した有名シェフのアンソニー・ボーディンが手がけていたNetflixの人気番組「Parts Unknown」（邦題: アンソニー世界を駆ける）でも紹介されていたらしい。その時の映像が店内のテレビに延々と映し出されていた。
ぜひともまた訪れたいお店なのは間違いない。次回は、もっと賑わっているような時間帯に来てみたい。
ごちそうさまでした。