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舌のトレーニング?〜キニナル彼女が気になる私 ⑨〜
病気?性格?
発達障害?その人らしさ?
変わる?変わらない?
そのままでいい?何かしていかなきゃダメになる?
いつもハザマで揺れる、娘と私の日々。
娘は歯科矯正に通っている。
小学生のころからだから、結構長い。
中学生になった今、一人で通ってもよさそうなものだが、毎回払う額が割と多いし、なんだかんだで私も付いていっている。今日も、待ち時間の暇つぶし用の本をもって、一緒に家を出た。
お母さん、どうぞー。
本人の治療が終わった後、呼ばれる。
「抜歯したところや、前歯の隙間が、いっこうに埋まらないんです。」
はあ。
「舌で押しているからと思われます。」
はあ。
「模型で説明しますね。」
歯科衛生士さんが模型をとりに行っている間、私はイライラしていた。気になって触るのが、模型見たからやめられるとは思えない。本人にきくと、案の定、全く覚えがない。意識してください、といわれても、ね。
そこはお母さんが。
何度となく繰り返されてきたフレーズ。
寝てる間に舌で前歯押すの止めるとか、さすがにお母さんは無理です。
さっきの歯科衛生士さんが、模型をもって私たちの前に座った。
「いつもの治療と、並行して、舌のトレーニングをやっていきます。」
舌のトレーニング?
「食べ物を持ってきていただいて、食べるところを観察します。レントゲンもとります。」
薄い冊子を出して説明を始める。
あるんだ、舌のトレーニング。
表紙を見て、ウキウキしている自分がいる。
意識、我慢、みたいな、一番彼女が無理なことじゃなく、系統だった「トレーニング」なるものの安心感。そして、冊子がある、ということは、結構同じような人が多いってことかな。
中を見ると、目標が書かれている。
舌の筋力をつける?
冊子には、舌の筋力が弱いから下顎に落ちる、と書かれていた。
筋力ついても触るのは止めれんのちゃう?
歯科衛生士さんの説明の区切りで、私はまたいつもの説明を始めた。
「あのー、筋力ついても、ウチの子は気になったら触ってしまうクセが。手とかも‥。」
「装置を触る方結構多いんです。」
大丈夫ーあるあるだから、的反応。その反応がウチらにはあるあるなんですが。
ちょっと気になるけど、やめれる人とかのレベルじゃないし。脳の特性とか、伝わりにくくて、結局わざとサボってる、とか、もっとサポートを、と言われ続けてもう10年だよ。
心の中でため息をついていると、歯科衛生士さんは、笑顔で説明を続けた。
「舌の正しい動かし方をトレーニングします。」
「筋力ついたら、舌を別のところに押しとくとかですか?」
「舌先の正しいポジションが、あるんです。」
なーぬー!!!?
冊子の次のページに、その位置が!
舌をまるめない、とある。
「先をつけるのではない?」
「はい、丸めず、この位置に先が来るよう上顎に平らにつけます。」
凄い明確に定義されている正しい舌の位置にビビる母。残念ながら、私も娘も常に前歯の裏に舌ついてるよ。
「これは生まれつき出来てる人はいるのですか。」
「はい、押すクセがない人は、できてます。」
できてない事ばかりなのに、私のさっきの不機嫌は、どこかへ行った。
どうしたらいいか、自分達の目指すところがどこか、ハッキリしているからかもしれない。
「ちょうど末の息子も前歯がガタガタすきっ歯で、舌で前歯押すなあ、と思っていたところで。」
聞かれてもないのに、喋ってしまう。
「是非ご家族で取り組んでいただいて。」
歯科衛生士さんもなんか嬉しそう。
きっと、このトレーニングに、そんなに食いつくと思っていなかったね。
帰りの車の中で、クールにスマホを触り続ける娘とは対照的に、自分はやたら多弁だった。
彼女、もう受験なのになあ。
やる事が増えて面倒臭いはずなのに、やったらどうなるのか、ワクワクが止まらない母であった。