気がつくと、彼女の方が上手くなっていた〜キニナル彼女が気になる私⑨〜
それは軽く衝撃だった。
私より、上手いじゃん。
私は、彼女は料理ができないと、勝手に決めつけて将来を不安に思っていた。そして、人に指導できるほど料理が上手いわけでもない自分のことも、思い出した。
先日、夕食にオムハヤシを作った。
娘が最近、料理をちょこちょこしてくれ、この時も、オムハヤシのオムレツを、やりたい!とフライパンを握った。
彼女自身は、あまり卵は食べないのだが、卵料理はやりたがる。オムライスの卵を焼く所や、スクランブルエッグ。その形の自由さや、鮮やかな黄色が、彼女の創作欲をかき立てるのかもしれない。
彼女の2つ下の妹は、卵料理は手は出さない。自由度が高く失敗するかも、と思うとできないらしい。逆に、決まったことや失敗しないことはサクサク進められる。
そんなJC二人で台所に立って、コソコソキャッキャしながら料理は進んでいく。思春期は先が読めないけれど、今日は機嫌良くやってくれそう。
さて、ハヤシはできた。
オムハヤシ、オムライスにハヤシかけるんじゃなく、ふわとろオムレツのせてハヤシかけるやつにしない?
彼女は、この提案の意味が最初分からず、何度も、薄く卵を広げてご飯巻いて、となっていたが、ケチャップライスは作らず、ハヤシライスにオムレツのせる、と言うと、合点がいったようだった。
混ぜて巻くと、良いんだよね。どっかで見た。
携帯電話でSNSサイトの画像を見まくっているのか、彼女は色んな情報を持っている。作り方も見たらしい。
でも卵の量がね…。
フライパンはでかいけど、ウチは人数多いし、1人に使えるの、卵1個半なの。
最初、フライパン全面に1個半分広げると固まってしまう!という私と、フライパン全面に広げてたって!という彼女が対立。
嫌な空気が流れる。
以前ならここで彼女はやーめた、となっていたのだが…。
彼女は、自分が前に見た料理動画を探し出した。そこにいた3人で彼女のスマートフォンを覗き込む。画像は、勢いよく卵を混ぜまくってふわとろになっていっている。フライパンの大きさもウチのと同じくらい。
でもこの量は…1.5個じゃなくない?
動画に重ねた白字は、1人前、卵3個。
私が、3個分を2人で分けて作る、と卵液を3個分で作っていたのも、彼女には分かりにくかったようだった。
彼女は、あーそうか、とやや落胆した表情。
小さいフライパンぐらいの大きさに、広げて混ぜたらできるかな、でも、失敗したら食べるの嫌やろし…。
次女は、お母さん作って、というので、私が、次女の分を焼いてみた。あまり広げず、と思っても、火加減が難しく、混ぜているウチに固まってきて慌てて巻いてごはんにのせた。切り開くと、半分トロリ、半分は卵焼きだった。
それを見て、彼女は、自分には、無理かも、という表情をした。
私の、作ってみて。
失敗しても、いいよ、という意味だが、この時、なんとなく、彼女がやったら違うかも、と思ったのだ。私でできないのに、彼女じゃ無理だろ、と思わずに。
彼女は、火加減を弱火にしてフライパンを温め、少し卵液を入れて焼けそうか確かめた。卵液を流し込む。
やっぱり、全面に広がる。
けれど、レシピどおりに混ぜて巻いていき、ご飯の上にのせて、包丁を入れると、さっき私が作ったのより、トロリとしていた。
トロトロやん!美味しそう〜。
こいつ、マジで料理私より上手いかも。
センス?
私は嬉しさ半面焦ったが、振り返れば私も一人暮らしするまで料理したことは殆どなかったし、子どもが出来て毎日3食作るようになって、家の中では料理できる方なだけなのだ。
彼女に対して抱いていた将来への不安が、さらさらと流れていく。物はよく落とすし、手伝いも中々しない。準備が遅くて時間が守れない。絵を描くこと以外何も出来ない。
私は、勝手に決めつけて、変わってきている彼女をみていなかった。
結局は、私の将来が不安だっただけ。
ただいまー。
夫が仕事から帰ってきた。
お父さんの分、卵3個で作って。
彼女は嬉しそうに卵を割り、何度も手を洗いながら、卵液を作った。
温めたフライパンに、それを勢いよく流しこむ。混ぜて卵をまとめていく姿は、ちょっと職人ぽかった。
予想通り、さらにふわトロオムレツ。
ハヤシをかけてテーブルに置く。仕上げに乾燥パセリを散らしている。
美味しい。お店みたいやで、ほら。
昨日の自分と今日の自分はもう違う。
それを何度も知ることで、明日の自分が今とは同じじゃないことを信じられる。
明るい方へ歩いていて、ちょっと開けた場所に出たような、そんな感じがした。