「天地無用」って何だろう?
宅配便で届いた段ボール箱に「天地無用」というシールが貼ってある場合、その荷物をどのように扱うべきかご存知だろうか。私は、これまでの仕事の関係で、荷物を受け取ることが多かったため、「天地無用」の意味を知っていたのだが、初めて「天地無用」というシールの貼られた荷物を手にした人は意味が分からないだろう。文化庁が「国語に関する世論調査」でこの言葉についてアンケートを取ったところ、約3割の人は「上下を気にしないでよい」という意味だと回答した。荷物は大丈夫だったのだろうかと心配になった。<字数:1,881文字>
「天地無用」とは、運送業界で使われていた「天地入替無用」(上下を入れ替えてはいけない)、「天地転倒無用」(上下があるから横に倒してはいけない)という表現が、間に入っていた言葉が省略され、「天地無用」とぴいう言葉が一般化したのだ。
文化庁が平成25年度の「国語に関する世論調査」で、「天地無用の荷物」という例文を挙げて、「天地無用」の意味を尋ねたところ、結果は次のとおりだった。
〔全体〕
(ア)上下を気にしないでよい・・・・・・・・・29.2%
(イ)上下を逆にしてはいけない・・・・・・・・55.5%
(ウ)(ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・ 1.8%
(エ)(ア)や(イ)とは全く別の意味・・・・・ 4.2%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9.3%
全体の調査結果を見ると,本来の意味である(イ)「上下を逆にしてはいけない」を選んだ人の割合(55.5%)が,本来の意味ではない(ア)「上下を気にしないでよい」を選んだ人の割合(29.2%)を26ポイント上回っている。また、「分からない」と回答した人が1割弱となっている。年齢別に見ると、16~19歳を除く全ての年代で、本来の意味である「上下を逆にしてはいけない」の割合の方が高くなっている。ただし、最も低い60代でも25.2%の人が「上下を気にしないでよい」を選んでおり、どの年代でも4人に1人以上の割合で本来とは逆の意味で考えていることが読み取れる。「天地無用」は、本来、誤解があってはならない注意喚起の言葉なのだから、見過ごせない結果であるとも言える。
では、「天地無用」を「上下を気にしないでよい」という意味で受け取る人が多いのには、どのような理由があるのだろうか。「無用」という言葉の意味を調べてみる。
②の語例にも挙がっているように「天地無用」の「無用」は「してはならないこと」という意味だ。この「無用」の用法は、かつては注意書きなどに見られることがよくあったが、現在は「落書き禁止」、「立入禁止」など、「禁止」という言葉の方が用いられたり、もっと丁寧に「…しないでください。」、「…は御遠慮ください。」などと書かれたりするようになっている。そのために、「無用」という言葉に「してはならないこと」という意味での使い方があること自体が分かりにくくなっているのだ。
また、「無用」の意味が「してはならないこと」であると分かっていたとしても、「天地してはならない。」では、意味が通じない。「天地無用」は、「天地を逆にすること無用」、「天地を入れ替えること無用」のように、下線部に当たる内容が省略された言い方になっているのだ。字面だけを見ても、そのことは分からないから、本来の意味で読み取るのは難しい。「落書き」や「立入り」とは違って、「天地」という言葉自体には「してはならない」というような内容がない。「逆にする」という省略部分に気が付かなければ、「無用」の意味は上記①の「役に立たないこと。いらないこと。」や③の「用事が無いこと。」に取られかねない。その結果、「天地はいらない=上下は気にしなくていい」、「天地に用事はない=天地は関係ない」などと解釈されることになりやすいと考えられる。
「天地無用」という言葉は、いつも荷物を取り扱っているような人や、あらかじめ意味を知っている人にはごく当たり前のものだろうが、初めてそれを見た場合には解釈が難しい表現だ。反対の意味だと考えている人と意味が分からないという人を合わせると4割近いという結果がでている。トラブルを避けるためには、分かりやすく言い換えたり、表示を工夫したりするなどの配慮が必要なのかもしれない。「天地無用ってどういう意味?」と日本語を学ぶ外国人に問われても説明できない。日本語って難しい。
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