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雑草という草はない:牧野博士と昭和天皇の想い

 1500種類以上の新種を発表し、40万点以上の植物標本を採取した「日本植物学の父」牧野富太郎博士は、明治から昭和まで活躍した。「雑草という草はない」という名言で知られているが、実はこの言葉、長く出典となる資料が見つからない状態が続いており、牧野博士が本当に言ったのか不明のままだった。しかし、2022年8月、牧野記念庭園記念館の学芸員らの調査の結果、ついに出典が見つかったと高知新聞が報じた。時代小説で知られる作家の山本周五郎が、戦前、牧野博士に取材した際、その言葉を聞いたと話していたのだ。山本周五郎は作家として売れる前、1925(大正14)年から1928(昭和3)年にかけて、帝国興信所(現在の帝国データバンク)を母体とする雑誌「日本魂(にっぽんこん)」の編集記者を務めていた。牧野博士にインタビューしたとき、当時20代だった山本周五郎が「雑草」という言葉を口にしたところ、牧野博士はなじるような口調で次のようにたしなめたそうだ。

「きみ、世の中に〝雑草〟という草は無い。どんな草にだって、ちゃんと名前がついている。わたしは雑木林(ぞうきばやし)という言葉がキライだ。松、杉、楢(なら)、楓(かえで)、櫟(くぬぎ)——みんなそれぞれ固有名詞が付いている。それを世の多くのひとびとが〝雑草〟だの〝雑木林〟だのと無神経な呼び方をする。もしきみが、〝雑兵〟と呼ばれたら、いい気がするか。人間にはそれぞれ固有の姓名がちゃんとあるはず。ひとを呼ぶばあいには、正しくフルネームできちんと呼んであげるのが礼儀というものじゃないかね」

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