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ラムサール条約で保護されるべき藤前干潟がゴミだらけに…

 名古屋の海にラムサール条約の「国際的に重要な湿地」に登録された「藤前干潟」がある。藤前干潟はシギ・チドリ類やカモ類などの渡り鳥たちの重要な中継地であり、訪れる人々の心をなごませる自然豊かな干潟だ。また、渡り鳥にとって重要な場所であるだけでなく、名古屋市民が循環型の社会をめざすきっかけとなったのが藤前干潟だ。藤前干潟は2022年11月にラムサール条約登録20周年を迎えた。今回は藤前干潟とはどんなところなのか、藤前干潟がラムサール条約に登録されるまでの経緯や干潟の保全がなぜ必要なのかを学んでみたい。

 2021年の夏ごろだっただろうか。息子が自由研究の課題としてマイクロプラスチックの問題を選んだため、一緒に藤前干潟を訪れたことがある。当日は残念ながら満潮で干潟そのものを見ることはかなわなかったが、海岸に打ち上げられた恐ろしい量のプラスチックごみには正直驚いた。ラムサール条約に指定された干潟の現状はあまりにもプラスチックごみに汚染されていたのだ。目を凝らしてよく見ると直径5㎜以下のマイクロプラスチックも多数発見することができた。

1.藤前干潟とは?

 そもそも干潟ってどんな場所なのだろうか。潮が満ちているとき(満潮)は水面下にあり、潮が引いたとき(干潮)にあらわれる平らな砂地や泥地がひろがっている遠浅の浜のことを「干潟」」という。河川などによって運ばれてきた土砂が海岸や河口部などに堆積してできる。「干潟」では、河川から運ばれる土砂に含まれる豊富な栄養素のおかげで多くの生きものが生息している。「干潟」は、多くの生きものの住みかやえさ場となり、人が自然とふれあう場所をあたえてくれる。藤前干潟は名古屋市港区と海部郡飛島村にまたがる場所にあり、伊勢湾に流れ込む庄内川、新川、日光川が合流する河口にある。飛来する渡り鳥たちにとっては、323ヘクタールもの面積がある都会に残された貴重な湿地で、ラムサール条約に登録されている。その広さはバンテリンドームナゴヤ約67個分にもなる。藤前干潟にはゴカイ類、カニ類、貝類など多くの底生生物が生息しており、干潮時にはそれらをえさとする渡り鳥のシギやチドリなどの姿が多くみられる。藤前干潟は渡り鳥たちにとっても大切な場所なのだ。

2.「ラムサール条約」って何?

 1971年2月2日、国際会議において「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」が採択された。この条約は、国際会議が開かれたイランの都市ラムサールにちなんで「ラムサール条約」と呼ばれている。ラムサール条約とは、重要な干潟や湿地とそこにすむ動物や植物を世界のみんなで守っていこうという取り決めのことだ。日本では藤前干潟をはじめ53か所の湿地が登録されている。

 戦争の終わった1945年以降、名古屋の経済をたてなおすため、名古屋港では工業用地としての利用や大規模干拓で埋め立てが進み、最後にかろうじて残されたのが藤前干潟だ。
 1981年、名古屋市は年々増え続けるごみの処理に対応するため、今まで使用していた処分場に代わって、藤前干潟に新しいごみの埋め立て処分場をつくる計画をたてた。しかし、藤前干潟は渡り鳥をはじめ多くの生きものが生息する大切な場所であったため、埋め立て中止を求める市民の声が高まった。名古屋市のごみ量は増え続け、1998年度にはついに100万トンに迫まった。「増え続けるごみの処理が大切か、それとも渡り鳥の休憩場所が大切か 」、名古屋市の出した結論は「ごみの処理も渡り鳥もどちらも大切」というものだった。そして、1999年1月に埋め立て計画を中止したのだ。でも、それでごみがなくなるわけではない。2月には「ごみ非常事態宣言」を出し、ごみ量を2年間で20万トン削減するという大きな目標にむけて市民、事業者、行政が一体となり徹底的な分別・リサイクルに取り組んだ。その結果、2年後にはごみ量が76.5万トンとなり「ごみ非常事態宣言」に掲げた目標を達成することができたのだった。その後もごみ減量の努力を続けた結果、今では埋め立て量も10分の1近くまで減っている。環境省は2002年11月1日、藤前干潟を国指定鳥獣保護区に指定し、埋め立て、干拓、工作物の設置などを制限することによって干潟を守っていくことにした。そして、この干潟が日本有数の渡り鳥の中継地として国際的にも重要であることから、2002年11月18日、ラムサール条約の「国際的に重要な湿地」に登録され、現在に至っている。

3.藤前干潟の環境を守るためにわたしたちにできること 

 藤前干潟には渡り鳥の休憩場所や生いきものの生息場所、水質をきれいにするなどの役割がある。海の汚れの原因となっている有機物や栄養塩類は干潟の微生物によって分解され、この微生物は干潟に生息する貝やカニ類などの底生生物に食べられ、その底生生物は渡り鳥や魚類に食べられる。こうした干潟の生きものの「食べる・食べられるの関係」( 食物連鎖)が海の浄化
に役立っているのだ。
 その一方で、藤前干潟には海や河川から漂着したペットボトルやびん、プラスチックごみ、使えなくなったつり針や糸などのごみもみられる。飛来した野鳥や泳いでいる魚がつり糸に絡まるなど、こうしたごみが干潟の生きものたちの生活を脅かし、最終的には干潟の生態系をこわすことになるのだ。藤前干潟にかかわるさまざまな生きものの生活を守るためにわたしたちにできることはなんだろうか。

 藤前干潟は守らなければならない貴重な場所であると同時に、さまざまな発見もできる楽しい場所だ。藤前干潟周辺には、野鳥観察館や稲永ビジターセンター、藤前干潟活動センターなどの施設があり、見たり聞いたりしながら楽しく藤前干潟を学ぶことができる。

4.藤前干潟に行く

 藤前干潟について、施設で勉強したり、野鳥や干潟の生きものを観察したり、イベントに参加するなど、藤前干潟のことを知るところから始めてほしい。

 最近の藤前干潟では海や河川からのペットボトル、ビニール袋、発泡スチロールなどの漂着ごみや不法投棄などが非常に多く見受けられ、干潟に生息する生きものやわたしたちの生活にも悪影響を及ぼす可能性がある。とくに漂着ごみには、わたしたちの生活から出されたごみが多く含まれる。陸地で捨てられたごみが雨や風などで河川に流れ込み海に流れつく。藤前干潟のごみを増やさないため、自然環境を守るため絶対にごみや資源のポイ捨てを止めなければならない。

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合同会社Uluru(ウルル) 山田勝己
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