現代の奴隷制「児童労働」を終わらせる英雄
2014年にノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんは有名だが、同年に平和賞を受賞したカイラシュ・サティーアーティさんのことはあまり認知されていない印象を受ける。1980年代より奴隷的な労働に従事させられる児童を救出して、教育を施すと行った活動を開始し、その功績が讃えられてのノーベル平和賞受賞である。インド出身者によるノーベル平和賞受賞は1979年のマザー・テレサ以来となる偉業である。
カイラシュさんは、2016年に来日し、講演を行っている。
世界中のあらゆる問題は四半世紀前には想像もできなかったレベルで密接つながっている。 1年365日24時間、地球の裏側とネットでつながっている今の世界は、かつてとは全く異なる様相を呈している。たとえば、四半世紀前に一体誰がグローバル・テロリズムの多発を想像できただろうか。お互いにつながっているからこそ、経済、環境、人口の問題など、人類の抱えるどんな課題も単独で解決することは不可能で、世界的な規模で取り組まないといけない。 ほかの国で起きている問題を、関係のないこととして見過ごすわけにはいかない。カイラシュさんはそう語った。
地球上の人口の4割は18歳未満が占めているが、世界では1億6800万人が児童労働をさせられている。身近な洋服や靴、サッカーボールが子どもたちの労働によってもたらされた産物かもしれない。日本でも消費者一人ひとりがこの問題に取り組めると語った。発展途上国などで児童労働が多いのは、子どもの労働に支えられているビジネスが多いためとされる。カイラシュさんは、製品が児童労働によって作られていないことを認定する国際非営利団体を設立しており、「子どもの労働によると思われる製品や原材料を取り扱わないのが撲滅につながる。各国の協力が必要だ」と呼び掛けている。
私も講演の最後によく使う「ハチドリのひとしずく」という寓話をカイラシュさんも「自分にできることから始めよう」というメッセージとして使っていることを知った。子どもの頃に聞いた童話に、大火事になった森に向かって、水に濡れた小枝をくちばしにはさんで飛んで行くハチドリの話がでてくる。「そんなことをしても火なんか消せるわけないよ」と言って笑うライオンに向かって小さなハチドリが言うのである。「わたしは、わたしにできることをしているのです」。世の中を変えるためには大きな力を持っていないといけないということはない。友達への口コミでも、SNSへの投稿、シェア、何でもいいので、どんな小さなことでも、何かを実行することで、確実に世の中は良い方向に一歩前進するのだと語った。
また、何かを成し遂げるため、世界を変えるための3つ「D」があると次のように語られた。
1つ目は“Dream”だ。何かを変えたいなら大きな夢を持ってほしい。何かをを変えるのは夢から始まる。アジアや南米、アフリカなどの人たちを救おうとすることにもつながるからだ。
2つ目は“Discovery”だ。皆さんには社会のために何かをしたいという熱意がある。自分が秘めている能力、力を発見し、世界のリーダーとなり、様々な問題を解決してほしい。
最後は“Do”だ。今から行動を起こし、もっと公平で正義ある世界にしていこう。
カイラシュさんは、児童労働への反対を訴えて、世界中を練り歩くグローバルマーチを展開した。地球二周分を歩き、18歳未満の有害な労働を禁じる国際労働機関(ILO)の条約採択にもつなげた。まさに、現代の奴隷制度と呼ばれる児童労働の撲滅に努める英雄だ。