牛のゲップが地球温暖化に大きく影響
パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO₂排出量をゼロにする」ことが目標になっている。これがいわゆるカーボンニュートラルだが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO₂排出量を46%削減することを目指している。
その目標実現のために「家畜の影響による温室効果」が大きな問題となっている。温室効果というと、自動車や飛行機の排気ガスや、化石燃料を使った火力発電などを想起しがちだが、畜産によって排出される温室効果ガスの影響は小さくない。畜産において、どのプロセスが温室効果に影響していて、影響力はどのくらいなのか、解決方法はあるのだろうか。
畜産の影響による温室効果は、主にメタンの排出が課題となっている。メタンの地球温暖化への寄与は、同量のCO₂の28倍にあたるとIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は試算している。牛をはじめとする「反すう動物」のげっぷからメタンが発生する全ての家畜のげっぷ・おならからメタンが発生するわけではない。牛は人間には消化できない植物を食べることができるが、これは消化管内発酵と呼ばれるプロセスによって胃の中の細菌が植物のセルロースを分解・発酵することで消化を可能にしている。そして、このプロセスを経てメタンが発生し、げっぷやおならとなって大気中に放出される。このような消化管内発酵ができる動物は「反すう動物」と呼ばれ、牛、ヒツジ、ヤギ、シカ、ラクダが該当する。畜産の用途で飼われている反すう動物は圧倒的に牛が多いため、牛から発生するメタンが課題とされている。その一方で、家畜の排せつ物から発生するメタンは、牛だけでなくどの家畜からも発生する。
メタンの削減は国際的にも枠組みができ始めている。米国と欧州連合(EU)が共同で進める「グローバル・メタン・プレッジ」では、世界全体のメタン排出量を2030年までに20年比で少なくとも30%減らす目標を掲げるなど、動きが活発化している。
畜産のメタン削減についてはまだ革新的な技術が確立しているわけではないが、有望な事例もある。3-ニトロオキシプロパノール(3NOP)と呼ばれる化合物を牛の飼料に加えると、牛のゲップに含まれるメタン量が30%まで削減できるという研究が報告されている。ただ、30%削減するためには最低でも1日1度この化合物を与える必要があるなど、実用化に向けた課題の解消には時間がかかりそうだ。
牛を食べることをやめれば手っ取り早くメタンを減らせるかもしれないが、世界で年間7,200万トンの牛肉を消費する人間の暮らしを変えるのは簡単ではない。世界中で牛肉の消費の在り方ついて議論が続く中、ニュージーランドは牛と羊の「げっぷ税」の導入を検討していると発表した。BBCの報道によると、実現すれば動物のゲップが課税されるのは世界初となる。世界でも有数の畜産大国であるニュージーランドは、「人より羊の数の方が多い」と言われるほど羊や牛を多数有する。人口約500万人に対して、約2,600万頭の羊と約1,000万頭の牛が飼育されており、合計すると人間の7倍近い羊と牛が暮らしている。計画は2025年から、牛や羊を飼う農家がげっぷの排出量に対して税を支払うというもの。現在は計画案の段階で、税を算出するために単一の計算式が使用される予定だ。集められた税金は、今後の研究費などに充てられる。
2009年には、ニュージーランド農業温室効果ガス研究センターを設置し、いち早くメタン削減に向けた取り組みを進めてきたニュージーランド政府。今回のゲップ税を決意した背景には、2021年にイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26の合意がある。酪農や畜産が主要な産業であるからこそ、2030年までに温室効果ガスの排出量を30%削減するという目標達成に向けて、さらにギアを上げる。ニュージーランドのジェームズ・ショー気象変動相はBBCの取材に、「メタン削減の必要があることは間違いなく、効果的な排出権取引制度は、削減を達成する上で重要な役割を果たすはずだ」と語っている。
しかしながら、げっぷ税が導入されると、肉の値段にも影響が及ぶ可能性が高い。いきなり食べるのをやめるのはハードルが高いかもしれないが、気候変動に配慮した食生活をするクライマタリアンのように、週3回の牛肉を週1回に減らすだけでも環境負荷は減らせる。ゲップ税のニュースが、一人でも多くの人に「自分にできることは何か」を考えてもらうきっかけになってほしい。
※ クライマタリアンとは?
毎日食べる食材やメニューの選択に注意を払うことで、「少しでも気候変動の悪化を食い止められればいい」と考える人のこと
「クライマタリアン」という語を初めて知ったので、いつかクライマタリアンについての記事を書いてみたい。
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