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大谷翔平と「チーズはどこへ消えた?」

 メジャーリーグで大活躍の大谷翔平選手。WBCでも大活躍し、決勝戦では最後のバッターを三振にとっての劇的な優勝であった。
 その大谷翔平選手は読書家であることが知られている。その愛読書のひとつが『チーズはどこへ消えた?』だと知った。『チーズはどこへ消えた?』はアメリカ合衆国の医学博士・心理学者であるスペンサー・ジョンソンが著した童話風の自己啓発書だ。1998年にアメリカで出版され全世界で累計2800万部を超えるベストセラー。日本でも累計400万部以上のロングセラーとなった。この本には、大谷翔平選手の行動原理となるがものがあるのだろうか? あらすじを見てみよう。

 ある国では小人のヘムとホー、ネズミのスニッフとスカリーが、迷路で食料のためのチーズを探しまわっていた。ある日、苦労してチーズステーションCで大量のチーズを見つけた。ところがある朝、二匹のネズミが着くと、チーズがなくなっていた。ネズミは毎朝変わったことがないかを調べていて、チーズが古くなっていたことも知っていたので、特に驚かなかった。二匹のネズミはすぐさま新しいチーズを探しに飛び出した。

 二人の小人はチーズがないことに気づくと、いつも通りチーズがあるものだと思っていたのでとても驚いて言った。「チーズはどこへ消えた?」
 そこから二人の小人は周囲を調べてチーズがなくなった原因を調べることや、チーズが戻ってくるのを待つことなどその場所から動くことはしなかった。「チーズを探しに行くべき?」…時間が経ち、小人のホーは「出かけよう!」と口にしました。しかし、ヘムは「ここは居心地がいいんだ。探しに行ってチーズがなかったらどうするんだ?」と、聞く耳を持たない。もちろんホーは行動しても何も変わらないかもという不安があったが、見つけている自分を想像したら「最後にはチーズは見つかるに違いない」と勇気が出てきたので、ついに迷路にチーズを探しに行く決意をする。

 迷路に足を踏み出したホーは今までいた場所を振り返り、「なぜすぐに立ち上がり、チーズを探さなかったんだろう?」と思い先に進む。ホーは本当に迷路に行くべきか不安になったが、壁に言葉を書きつけしばらく見つめた。
 『もし恐怖がなかったら何をするだろう?』
 いまになってわかるのは、何が起きているかを注意してみていたら、変化に備えていたら、あんなに驚くことはなかっただろうということだ。これからは変化が起こるのを予想し、いつ変化が起きるか本能的に感じとり、それに適応する準備をしようと思った。
 『つねにチーズの匂いをかいでみること、そうすれば古くなったのに気が 
 つく』
 ヘムは迷路に出る見切りを付けただろうかと考え、自分が迷路に踏み出したときのことを思い出しさらにヘムに向けて壁に書きつけた。
 『新しい方向に進めば新しいチーズがみつかる』
 ホーは気づいたら恐怖がなくなっていて、気分がよくなった。その理由がわかったので壁に書きつけた。
 『恐怖を乗り越えれば楽な気持ちになる』
 ホーはいっそういい気分を味わうため、心の中でチーズをより細かいところまでイメージし、そしてまた壁に書きつけた。
 『まだ新しいチーズがみつかっていなくてもそのチーズを楽しんでいる自
 分を想像すればそれが実現する』
 ようやくチーズステーションを見つけたので中に入ってみると中はすでに空っぽだった。もっとはやく見切りをつけていれば、ここでたくさんのチーズをみつけることができたのにと思った。
 『古いチーズに早く見切りをつければ、それだけ早く新しいチーズが見つ
 かる』

 迷路にチーズを探しに出てからホーの考えはかわった。以前は、変化は間違っていると思っていたが、今は予期していようがいまいが、変化は起こるのが自然なことだとわかったのだ。そしてまた壁に書きつけた。
 『従来通りの考え方をしていては新しいチーズはみつからない』
 人は考えを変えると行動が変わることを知った。すべては、どう考えるかにかかっているのだ。
 『新しいチーズをみつけることができ、それを楽しむことができるとわか
 れば人は進路を変える』
 さらに考えたことを書きつけた。
 『早い時期に小さな変化にきづけばやがて訪れる大きな変化にうまく適応  
 できる』
 そしてついに見たことのない量のチーズを見つける。そこにはネズミのスニッフとスカリーの姿もあった。

 ホーは今までのことを振り返った。
 ・変化は起こる。変化を予期せよ。
 ・小さな変化に気づくこと。そうすれば、やがて訪れる大きな変化にうま 
  く備えることができる。
 ・変化に素早く適応すること。遅れれば適応できなくなる。
 ・変化を楽しむこと。
 ・問題を複雑にしすぎないこと。恐ろしいことばかり考えて我を失っては
  いけない。
 そして最大の障害は自分自身の中にあるということ。自分自身が変わろうとしなければ好転しない。
 ホーはヘムが自分自身の手で居心地の良さから抜け出し恐怖を乗り越えてこの場所までくることを願った。自分で変化することを選ぶことを。

 メジャーリーグで二刀流という新しい道にチャレンジしてきた大谷選手の行動原理は、確かにこの『チーズはどこへ消えた?』の中に読み取れる。大谷選手は常に信念をもち、新たなチャレンジを続けている。安楽な居場所を求めず、古い成功体験にしがみつくことなく、状況の変化に応じて、自分を変えていくことを恐れない。変化を楽しむことで、野球を楽しみ、人生を謳歌している。しかも、誰にでも優しく、気遣いができ、その紳士的な振る舞いによりファンから最も愛されているメジャーリーガーである。そんな大谷選手の活き活きした姿が、バッティングが、ピッチングが多くの人たちの心を魅了する。
 つい先日、大谷ファンにとってはショッキングな情報がもたらされた。右肘靱帯に深刻な損傷が見つかり、ピッチャーとしては今季絶望だが、指名打者としては出場を続けるという。『チーズはどこへ消えた?』の愛読者である大谷選手は、最大の障害は自分自身の中にあるということを自覚し、自分自身がさらに変化することでこの窮地を好転させることだろう。大きな逆境を抱えて私だったらへこむ状況にありながらも、大谷選手はロッカールームで飄々と口笛を吹いているという。さすがだ。


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