見出し画像

悪魔の兵器「地雷」~ウクライナの地雷撤去に数十年かかる見通し~

 2018年、韓国の平昌(ピョンチャン)で開催されたパラリンピックのスキー競技に、地雷で両足を失ったジョージアの元負傷兵が選手として出場していた。彼は、7年前の夏、ジョージアの兵士として、アフガニスタンで反政府武装勢力と闘う部隊に所属し、タリバーンに殺される女性や子どもを目の当たりにした。そして、タリバーンが潜むとされる建物に足を踏み入れた瞬間、地雷が爆発し、一瞬にして両足を失った。病院で目を覚まし、変わり果てた自身の姿に絶望したが、その後のリハビリ中に、自分と同じ境遇の負傷兵が懸命にスポーツに取り組んでいる姿に鼓舞され、自身も何かに挑戦しようとパラ五輪を目指した。パラリンピックは、第二次大戦後、負傷兵のリハビリのために開催されたスポーツ大会が起源だという。

 地雷は「悪魔の兵器」と呼ばれる。命を奪うより、手や足を吹き飛ばすことで、負傷兵の救出・搬送により戦力を割き、その被害の状況を目の当たりにした兵士の戦意を削ぐことが地雷の主目的である。地雷の恐ろしいのは、兵器としての価格が安く、仕掛けるのが容易であることから、戦争中に大量に広く埋設され、戦争・紛争が終わって平和が戻っても、その威力や危険性は何十年も続き、平和に暮らす市民を襲い、復興を妨げるところにある。地雷はまさに、誰かが自分のことを踏んでくれるまで、土の中でじっと待ち続けているのだ。
 対人地雷禁止条約が発効されて25年が経過した。2001年に「ZERO LANDMINE」を掲げ、全世界で2011年までの10年間で「地雷ゼロ」を目指そうという機運が高まった。25年前、全世界で埋設もしくは保持されていた地雷はおよそ1億1千万個と推定されていたが、今では、およそ5千万個まで減少したとみられている。世界的に見ると、条約が発効した20年前の地雷による年間死傷者数は約9千2百人、これが、条約締約国の地雷除去や廃棄によって、2013年には約3千5百人まで減少したのだが、2016年の死傷者数は8千6百人と条約の発効時に次ぐ多さだ。地雷による被害が増えているのは、中東やウクライナで続く紛争の影響と指摘されている。

 地雷被害大国であるカンボジアは、「地雷ゼロ」という目標がとても達成できないと、フン・セン首相が2015年までに「地雷犠牲者ゼロ」にするという新たな数値目標を掲げた。しかし、これも達成されないまま現在に至っている。カンボジアの救急病院で地雷被害者にインタビューしたことがある。農作業中に畑に仕掛けられていた地雷を踏み、足を吹き飛ばされ、搬送されたばかりの30代の男性だった。「ノー・プロブレム(何の問題もありません)。普通のことですよ。」…その発言に驚愕した。カンボジアの農村部では、親戚の中に一人は地雷被害者がいるという現実が、あってはならない「普通」をこの国に生み出している。カンボジアでは、都市部の農地の地雷撤去は終わっているが、タイとの国境に近い農村部や山間部は手つかずの状態だ。地雷は今も農村部の開発を阻み、深刻な貧富の格差を生む要因となっている。

 ロシアによるウクライナへの侵攻では、1975年当時にカンボジアで使用された地雷と全く同じロシア製の地雷が使用されている。約1か月前にダムが決壊して起きた洪水により、ロシアが設置した地雷も流され、その除去には数十年かかると予測される。6月27日、国連のグテーレス事務総長は2022年の1年間でロシアのウクライナ侵攻により死傷した子どもは約1400名にのぼると指摘した。さらに、ウクライナによるロシアへの攻撃を防ぐために、少なくとも約90名のウクライナの子どもを捕虜とし、「人間の盾」として使用しており、「ロシアによる重大な侵害の多さに愕然としている」と指摘した。そして、国連のグテーレスジム総長は、ウクライナへの侵攻を続けるロシアを「子どもの人権侵害国」に指定した。国連の常任理事国が指定されるのは史上初めてのことだ。 

 パラリンピックで活躍した地雷被害者は確かに素晴らしい。しかしながら、地雷被害のない世界が一日も早く訪れること…これがオリンピックの精神が目指す真の平和ではないだろうか。

いいなと思ったら応援しよう!

合同会社Uluru(ウルル) 山田勝己
私の記事を読んでくださり、心から感謝申し上げます。とても励みになります。いただいたサポートは私の創作活動の一助として大切に使わせていただくつもりです。 これからも応援よろしくお願いいたします。