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正岡子規もクリントン大統領も絶賛した歌人:橘曙覧

 橘曙覧たちばなあけみという歌人の存在を初めて知った。橘曙覧は、現在の福井県の大商家の後継者であったが、その仕事が自分にあっていないと自らその地位を捨て、清貧を友とし、名も利も求めず、ひたすら歌だけを詠んだ人である。
 だが、その歌詠みの才能は天才といわれるほどで、幕末の四賢人といわれた福井藩領主・松平春嶽公が、その才能を惜しんで仕官することを再三要請したが、そのたびに断り、市井の中でひっそりと自然を愛し、家族を慈しみ、孤高の中で生きた人だった。
 世をすねた変わり者のように思えるかもしれないが、曙覧は変人ではないし、説教くさい隠遁者でもない。どの村やどの町にもいそうな、ごく普通のおだやかな人柄だったという。<字数2,976文字>
 
 橘曙覧の歌としてもっとも有名なものに「たのしみは」で始まる『独楽吟どくらくぎん』というものがある。これを読めば、曙覧の人柄はもちろん、今日の私たちが忘れてしまっていた「幸福」を31文字の歌で教えてくれるのだ。

 たのしみは 珍らしきふみ 人にかり
                始め一ひら ひろげたる時
 たのしみは 妻子むつまじく うちつどひ
                頭ならべて 物をくふ時
 たのしみは 常に見なれぬ 鳥の来て
                軒遠からぬ 樹に鳴きしとき
 たのしみは 心にうかぶ はかなごと
                思ひつづけて 煙草すふとき

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