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【掌編小説】勝ち負け
勝ち負け
神宮 みかん
「どう思うこの試合?」
会長が私に訊ねた。答えはわかっている。ただ、それは会長が求める答え出ないこともわかっている。だから、私は敢えて会長をこの会場に連れてきた。
私は熟考した末、問いを問いで返した。
「どう思うって何がでしょうか?」
私は会長の回答ありきの答えを待った。だが、会長は私の返答を無視し、試合に眼をやり続けていた。
試合は終盤に差し掛かり結果は決まっている。私は会長の機嫌を損ねてはまずい、と仕方なく、言った。
「このゲームカウントでこの点差。勝敗は決しています」
「そうだろうな。勝敗はな」
会長はそれだけ言うと、また口を閉じ、コートを見つめ始めた。
丁度、ボールは繋がりネットを挟み行き来するラリーになった。この場面のみ切り取ってみれば、我が社がスポンサーになっている緑のユニホームの群馬グリーンウィングスは躍動し、ボールにくらいつく一進一退の攻防と思え、好ゲームと言える。
しかし、結果はいつも同じ。例のごとく最終的には相手のアタックによってウィングスの得点に至らなかった。そして、良くないパターンであるが、その場面をさかいにグリーンウィングスが連続失点をきし始めた。
「協賛を止めたいのか?」
会長が唐突に私に言った。私は単刀直入に言った。
「はい。止めようと思います。確かに、グリーンウィングスは群馬のチームです。応援する意義はあります。でも、うちは中小企業です。数万円ならともかく、数十万のお金を出すことは非常に苦しいです。また負けが込んでいます。その為でしょう。取引先との話題の中でグリーンウィングスの話題は全く会話にのぼりません。これでは宣伝効果が出ていません。だから、止めようと思います」
会長は私があまりにも批判的に言った為だろう。驚いたように言った。
「確かに。現状はそうだ。ただ、本当にそうだろうか」
会長は私に問いかけた。
「お前のいうようにうちの会社は従業員百人超の中小企業だ。自社でスポーツチームを持つことは不可能に近い。つまり、スポーツを通して会社をまとめることができない。だから、こうしてグリーンウィングスに協賛し従業員にチケット等を安く提供し、会社を一つにする一助にできればと考えている」
「でも、今の状態では会長が目指す役割を果たすことがあるのでしょうか?」
私の問いに会長は穏やかに答えた。
「そもそも強い必要があるのか? 大事なものであれば真剣に応援するのではないだろうか」
私はこの言葉にはっとなった。強ければファンが多いという前提は必ずしも真ではないと思えたからだ。
「すみません。会長の言う通りですね。地元に愛されているかどうかですね」
「ああ。その通りだ。だから俺は応援し続けようと思っている。ま、それが正解かどうかはわからないがな」
「ところで、会長はバレーボールがお好きなのですか?」
会長は鼻でわらった。
「俺たちのころのスポーツは野球しかなかったよ。どいつもこいつも少年野球で練習していた。時代は変わったもんだ」
「では、会長はバレーボールのルールを知らないのですか?」
「わからないよ。お前だって同じだったのだろう。いつから勉強したんだ」
図星だった。だが、付け焼刃ではあるが、協賛を止めるかどうかを会長に相談し、結論を出そうとした先週から勉強していたのは事実だった。
会長は言った。
「お前は必死にルールを勉強して少しでも俺を楽しませようとしている。だから、俺はお前を社長にした。どんな時でも人をもてなしたいという気持ちは営業の原動力だ。協賛を止める、止めないはお前が決めろ。俺はどっちでもいい。さて、群馬ミートさんの勝利チームへ授与されるお肉が出てきた。試合が終わる」
私ははっとなり言った。
「会長はどうしてそれを知っているのですか?」
「スポンサーだからな」
私はその会長の言葉に全身が震えた。