膝関節機能改善のキーワードと評価・介入
こんにちは!ライターの樋口です。
臨床+では、12月は各関節のこれだけは欠かせない機能に対する評価や機能改善のための介入方法をテーマにこの1年を締めくくります。
この記事では、膝関節機能をテーマにまとめていきます。
これまで臨床+では、多様な膝関節疾患に対する評価法や介入方法についてご紹介していきました。
なんと15記事もありました!!
疾患ごとの評価・治療の違いは勿論あります。しかしながら、それぞれの記事で出ていた共通のキーワードがいくつかあります。
膝関節機能(局所)としては
患部外の機能(全体)としては
これらが共通したキーワードとして挙げられます。
下肢の関節において膝関節は股関節と足関節に挟まれている関節であることが特徴的です。
knee-in&toe-out、knee−out&toe-inなどの膝のアライメント異常が、膝自体の問題というよりも膝を挟んだ上下の関節の問題と言われることも多いです。
患部外の機能が及ぼす膝関節への影響については
上記二つの記事で詳しく解説されておりますのでご参照ください。
今回の記事では膝関節機能(局所)のキーワードについて解説しつつ、私が臨床で行っている介入方法ついて解説いたします。
Ⅰ.疼痛部位と圧痛点
疼痛部位や圧痛による病態の判別は、治療をすすめる上でストレス要因や炎症部位を明確にしていく為に重要です。どこが痛いかを聞いた際に指1本で示せる場合(finger sign)はその部位に原因がある可能性が高いです。一方で、手掌で示すような広い範囲の疼痛である場合はそこに疼痛の原因が存在するだけでなく、神経原性の疼痛である可能性もあります。
疼痛部位や圧痛点だけでは断定できないため、整形外科テストや動作時痛などの評価と合わせることで、より疼痛の原因の評価が正確になります。
Ⅰ-1.膝前面の圧痛点
膝蓋骨周辺の組織、 鵞足腱の付着部、 内側の関節裂隙部には圧痛点が数多く存在します。その中で最も好発する組織は膝蓋下脂肪体です。 ただし、 膝蓋下脂肪体の圧痛所見を的確に行うには、圧刺激の加える方法を理解しておく必要があります。
①膝蓋下脂肪体は、膝関節を伸展すると前方に押し出されて逃げ場を失うため、圧刺激 を確実に加えることが可能となる。
②膝蓋下脂肪体は、 膝関節を屈曲すると後方 (十字靭帯側) に逃げるスペースが確保され てしまい、 圧刺激を的確に行うことはできません。
③膝関節を屈曲させても圧痛を認めた場合は、 膝蓋下脂肪体ではなく膝蓋腱、膝蓋支帯、 浅・ 深膝蓋下滑液包に起因した症状であることに留意しましょう。
Ⅰ-2.膝後面の圧痛点
膝窩部の解剖図と好発する圧痛部位を示します。 膝窩部の中央には脛骨神経が走行しているため、圧痛所見を抽出する際には同神経を同定してから行うとよいです。
大腿部後面から膝窩部にかけて走行する内側ハムストリングスと外側ハムストリングスは圧痛の好発部位です。 内側ハムストリングスでは、半腱様筋は筋腱移行部で認めることが多く、半膜様筋は筋実質部から停止部位にかけて広範囲に認める特徴があります。 また、外側ハムストリングスである大腿二頭筋長頭は、筋腱移行部で認めることが多いです。 この筋の深層には大腿二頭筋短頭が位置し、実質部から停止部位にかけて広範囲に認める特徴がある。 内・外側ハムストリングスをそれぞれ掻き分けると、その深層に腓腹筋の内側頭と外側頭が位置します。この筋は筋腱移行部から起始部にかけて広範囲に認め、 内側頭によくみられます。さらに深層には膝窩部を斜走する膝窩筋が位置し、 筋実質部は好発部位です。
Ⅱ.FT・PF関節アライメント
膝関節はFT関節とPF関節があり、それぞれ静的アライメントと動的アライメントを評価します。動的アライメントについては膝蓋骨トラッキングの解説で後述します。
Ⅱ-1.静的アライメントの評価
①TF関節
(臨床+|武田純一:股関節からみた変形性膝関節症より許諾を得て引用)
①PF関節
膝蓋大腿関節や膝OAの方では膝蓋骨Lateral shift、脛骨外旋位であることが多いです。
これらを引き起こす筋として、大腿筋膜張筋・外側広筋のspasmや短縮による腸脛靭帯の緊張、外側膝蓋支帯の組織間の滑走性の低下などがあります。
腸脛靭帯はガーディー結節だけではなく膝蓋骨を外側から内側に向かって走行する繊維があることや、外側広筋が起始していることからも膝蓋骨・脛骨のアライメント、Qアングルに関与していると言われています。
大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の伸長性はオーバーテスト変法を用います。下側の股関節を屈曲位で固定して行うことで骨盤の前傾・下制による代償をなくすことで、テストの再現精度を得ることができます。
また、オーバーテストは膝関節疾患だけではなく、股関節や骨盤・脊椎疾患などでも頻繁に使用しています。以下の記事で詳しく解説されておりますのでご覧ください。
外側広筋の評価
膝OA患者の骨盤後傾を呈する典型的姿勢(次の章Ⅲで解説)においては、内側広筋は弱化しやすく、外側広筋は緊張しやすいと言われています。上記の選択的収縮を考慮して弱化している筋には反復的な収縮を、緊張している筋に対しては伸長位で選択的に収縮を促すことで動的なストレッチングとして介入することができます。
オーバーテスト、外側広筋の評価も持続的に実施すれば各々のストレッチングになりますが別の方法も紹介します。
大腿筋膜張筋の柔軟性改善
筋の収縮弛緩を利用したアプローチを紹介いたします。
屈曲・外転の自動介助運動の最終域で股関節内旋の自動運動を行う。この動作を5回程度反復的に繰り返す。これは筋攣縮に対して有効的です。
これに加えて中臀筋・小臀筋の収縮弛緩を利用したアプローチも行うことが多いです。これらの筋力低下が原因となり代償的に大腿筋膜張筋が働くことで緊張が高まっている症例がいます。また腸脛靭帯と中臀筋が連結していることから中臀筋の緊張が高まってもオーバーテストが陽性になることがあります。
中殿筋の柔軟性改善
外転の自動介助運動の最終域で股関節外転の自動運動(筋の収縮幅をひろげるため最終域での収縮を強調する)を行う。この動作を反復的に繰り返します。
外側広筋、腸脛靭帯に対する介入でアライメントが改善しない場合は外側膝蓋支帯の評価、介入を行います。
外側膝蓋支帯は多層構造をしています。 これらの線維は、腸脛靭帯から分岐したものと、外側広筋・中間広筋から分岐したものによって構成されています。 この解剖図から、外側膝蓋支帯の多くは膝蓋骨と連絡していることが分かります。
外側膝蓋支帯は伸縮性をほとんど認めない組織です。 しかし、 炎症や外傷後に外側膝蓋支帯の組織間が癒着・瘢痕化すると、滑走性は大きく失われ膝蓋骨や脛骨の生理的な運動にブレーキをかけてしまい、 可動域制限や疼痛発症の要因となります。
治療ではこれらの組織学的特徴を考慮する必要があります。 具体的には外側膝蓋支帯を一塊として把持し、ダイレクトストレッチングを加えることで、 組織間の滑走性を維持・獲得していきます。
後述するハムストリングスもアライメントに関与しているので評価・介入の参考になさってください。
Ⅲ.screw home movement(SHM)と膝蓋骨トラッキング
Ⅲ-1.screw home movement(SHM)
screw home movement(SHM)とは脛骨大腿関節FT関節における膝伸展に伴う脛骨外旋運動のことを言います。膝関節の最終伸展30°の範囲で約10°の外旋の外旋が起こります。
代表的なSHMの異常例としては、膝OAが挙げられます。
膝OA患者の中で多い姿勢として骨盤後傾を取ることが多いとされています。骨盤後傾により運動連鎖によって大腿の外旋が起こります。荷重位で膝を伸展する際、膝関節には終末伸展時に10°の下腿外旋が生じるscrew home movement(SMH)が生じますが、骨盤が後傾していると膝伸展時に大腿の内旋が生じず、骨盤後傾位では大腿が外旋してしまうため、この運動を作り出すことができません。そのため、大腿外旋よりもさらに下腿を外旋させて膝を伸展します。
Ⅲ-2.SHMの評価
OKC、CKCともに評価します。OKCでの評価が異常な場合は膝関節局所の問題があることを疑い、靭帯・関節アライメント・筋と関節包の評価を行います。CKCでの評価においてのみ異常な場合は隣接関節、骨盤・体幹機能の評価を行います。
Ⅲ-3.OKCでのSHMの評価
Ⅲ-4.CKCでのSHMの評価
CKCでは足部が固定されるため大腿骨が脛骨に対して内旋することでFT関節が相対的に回旋します。
Ⅲ-5.膝蓋骨トラッキング
健常例では屈曲に伴って膝蓋骨は「Medial shift」「Medial spin」が起こります。patellofemoral pain(PFP)では膝蓋骨が「Lateral shift」「Lateral spin」といった膝蓋骨トラッキング不良(Patella mal-tracking)を生じます。
Ⅲ-6.OKCでの膝蓋骨トラッキングの評価
動画では両手で評価してしまうと膝前面が隠れてどのように評価しているかがわからなくなってしまうため片手で膝蓋骨の動きを触知しています。
Ⅲ-7.CKCでの膝蓋骨トラッキングの評価
SHM、膝蓋骨のトラッキングエラーの介入はTF関節・PF関節のマルアライメントの介入で行った内容を行うと改善されることが多いです。
Ⅳ.膝関節の屈曲拘縮
Ⅳ-1.膝関節の屈曲拘縮
歩行動作への影響
歩行動作における膝関節は、二重膝作用 (double knee action) があり、 一歩行周期中に 2回の屈伸運動を繰り返しています。 この二重膝作用は、 衝撃防止や重心点の垂直移動の振幅の調整を図っています。また、 膝関節の伸展が制限されると、歩行における初期接地時に膝関節伸展位をとれなくなります。それによって、足底全体での接地となり、ヒールロッカー機能が消失します。
膝関節伸展制限は、 これらの作用消失とともに跛行を出現させます。 加えて、大腿四頭筋の過剰な筋活動が強要されるとともに、 遠心性収縮の繰り返しにより疲労しやすく、長時間の歩行が困難になります。
他関節(股・足) への影響
膝関節伸展制限が隣接関節に与える影響として、 股関節を屈曲位にして代償する場合と、骨盤後傾とともに胸腰椎の後弯で代償する場合とがあります。 足関節では、下腿前傾に伴う背屈位をとる場合があります。
長期間にわたり隣接関節の代償肢位が継続すると、 股関節、足関節、体幹、 頭部に至る アライメント不良を招き、 歩行をはじめとした諸動作の困難感や二次的疼痛の発生を招くことになります。
Ⅳ-2.膝関節の屈曲拘縮の評価
単関節筋の評価は、多関節筋の影響を除くために股関節伸展位での膝関節の伸展可動域を評価します。この評価は伸張性改善のためのストレッチングとして有効です。
滑りの評価は、筋の短縮・攣縮を起こし緊張が高まる事で筋腹を滑らせる際に抵抗感を感じます。癒着等の滑走不全が起こっていても同様です。臨床ではこの滑りを内外側に4.5回往復する間に移動量が改善する事が多いです。移動量の改善に供なって筋の伸張性が改善されるため、治療としても使っています(様々な筋に対して有効です)。
この評価も、伸張性改善のためのストレッチングとして有効です。
各筋に対しての治療はこの操作に加えて、最終域での反復的等尺性収縮運動が有効です。
Ⅴ.まとめ
今回の記事では膝関節機能(局所)のキーワードについて解説しました。
関節局所の病態を把握するためにも、局所の評価介入を出来るようになることが役に立つことは多いと思います。
しかしながら膝は、他関節の影響を受けやすい関節です、膝関節にばかり注目せず、包括的に評価・介入することで解決につながると思います。
今回のnoteがみなさまの臨床活動の一助になれれば幸いです。最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
○ライター紹介
個人Twitter:@Sho_Higu
運営団体Twitter:@N_Reha_Labo
運営団体HP:https://n-rehabilitation-labo.jimdofree.com/
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