日記③:違和感から即座に推測できなかった話
日ごろは、稽古やトレーニング、読書やYouTube鑑賞、アルバイトをして過ごしている。今は夏休みなので大学の授業もない。YouTubeでは、その時々で興味のある動画を見る。武道や格闘技、お笑い、切り抜き、一般の方のチャンネルなど様々だ。
最近では、ある夫婦のチャンネル(みゆみゆチャンネルさん)をよく見る。旦那さんは耳の不自由な方で、奥さんは健聴者である。動画では、奥さんは声を出して話すと同時に、手話で会話をする。旦那さんは、もちろん音が聞こえないので、手話を見て理解するとともに、口話(話者の口の動きを読み取る方法)で内容を把握する。話をするときは手話と部分的な発話を用いている。5歳の娘さんもしばしば動画に出てくるが、しばしば指文字(手の形を文字言語に対応させた視覚言語)で言いたいことを表現しながら、口を大きく動かして話している。
言語での会話は空気に伝わる音(振動)で意思疎通を図る。それに対して手話や口話は視覚を通すコミュニケーション方法である。文字も視覚言語ではあるが、それとは異なり言語を即座に指の形や動きで表現するところが、手話の興味深いところだなと思っている。
動画で夫婦や親子の会話を見ていると、その自然な日常にとても穏やかな気持ちになる。特にYouTuberが行うような企画をしているわけでも、その要素が強いわけでもないが、それぞれの自然な振る舞いとお互いの個性が調和しているところが、見ていてとても心地よい。
ここで話は少し変わる。アルバイトでレジ業務をしていたときの出来事である。
僕は雑貨屋で働いているが、その店舗では現金やクレジットカード、交通系の電子マネー等で決済ができる。クレジットカードの場合は、こちらで設定してカードを読み取る端末の画面が光ったら、お客様ご自身でカードを差し込んでいただく形式になっている。画面が光る前にカードを差し込んでしまうと、決済ができない。
いつものようにレジでお会計をしていた。ある女性のお客さんはクレジットカードを取り出し、僕が端末の設定をする前にカードを差し込んでしまった。決済ができないので、一度カードを取ってただくよう何回か説明したが伝わっていない様子だった。僕がカードを取る素振りをして、端末から抜いてもらい、再度カードを読み込んで会計を済ませた。そのお客様は、最後まで一言も発しなかった。
人間はお互いの意識で意思疎通を図る部分がある。身体操作や音声などの具体性を伴った方法とは別に、それぞれの意識を把握してコミュニケーションを取る。その意識にずれがあった。
とても綺麗な方で、不愛想な方でも全くなかった。ただ、おそらく僕の話していることが伝わっておらず、その女性も状況がよく把握できていなかったことに違和感を覚えた。その時のことを思い返し、お会計後すぐに、耳の不自由な方だったのではないかと思った。
このようなご時世であるため、従業員もマスクを着用している。そのため、耳の不自由な方にとっては口話で話の内容を理解することができない。もちろん聴覚能力は難聴や失調など程度は様々であり、特に発話の能力に関しては先天性か後天性かによって影響が大きく異なる。したがって、当然ながら状況を判断すること、意思疎通を図ることが困難な場合もあるわけだ。
以前、男性の方の接客をした際、耳に補聴器をされていたので、対応を工夫することができた。しかし今回の女性の方は、耳が髪の毛で見えなかったため、補聴器をされているかが分からなかった。実際にそのお客様が耳の不自由な方であったと断言することはできないが、その時の雰囲気を思い返すとその推測は正しいのではないかと思う。
レジ業務は基本的に同じ操作なので、機械的な労働になりがちだ。とはいうものの、この一件においては、ちょっとした違和感から推測して、工夫した丁寧な対応ができたかもしれない。
失礼な態度を取ったわけではないが、相手の状況を感覚的に把握する修練を日々稽古で行っているという観点(合気道歴5年)からは、まだまだ人間として未熟だなと思う。そしてYouTubeを通して、耳の不自由な方に対する知識が少しはあったにも関わらず、即座に状況を判断し行動できなかったところも、反省している。
2021年8月29日