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「システム」と「人肌」

居心地の良い職場とはどんなところだろうか。充実した設備や開放的な空間など物理的な環境が左右することもあれば、人間関係が居心地の良さに関与する場合もあるだろう。また、組織のシステムがどれほど厳密に整備されているのかということも、一つの要素であるかもしれない。

組織のシステムとは、人間が職場で効率的に働くためのものだ。一人ひとりの役割やスタッフ同士の連携、オペレーション、また個人の報酬や評価の設計もシステムとして機能する。これらのシステムは、組織の理念や価値観、方針に基づくわけだが、組織の発展段階によっては整備されていない期間も当然ながら存在する。組織の規模を大きくする際、それらの要素を直ちにスタッフに共有し、浸透させることは難しい。また、既存のものから全く新しいものへと変化させる際には、その移行期間において白紙の時期がある。その間はスタッフの士気や効率性が著しく低下する。

では、そのような期間が過ぎ去り、制度が厳密に敷かれた後の職場とはどのようなものだろうか。ここで「居心地の良さ」という観点が問われるように思う。すなわち、システムが充実しているだけでは、人は「心地よい」と思わないということだ。

効果的なシステムが導入されていると、人はシステムに依存するようになる。人間が働く環境として、精神的な心地よさの水準を上げるにはどうしたらよいかを一人一人が考えて、行動しなければならないのだが、そうはならない。物事を自分ごととして捉えることをせず、システムが上手くいっているか否かで判断してしまうからだ。何か円滑に機能しないことがあれば、それをシステムエラーだと認識してしまう。

いかにシステムが優れていようとも、精神的な「居心地の良さ」は最終的には人間の「肌感覚」が深く影響する。特に人の行動がシステムの一部に組み込まれている場合は、相手の感情を汲み取ることを忘れてはいけない。他人と接するからには、コミュニケーションの責任はシステムではなくその人にある。そのような部分においてはシステムはとても脆い。人は感覚的に相手の機械的な応対を察知する。

人間関係のシステム化は、組織を持続させ、仕事を効率的にする上では強固で有効だが、それだけでは亀裂の入りやすいものとなる。それとは反対に「居心地の良さ」を生み出すものには、しなやかさがある。曲がってしまうことはあっても決して壊れることはない。

最近はこの違和感を感じることが多い。システムと人肌のバランスがやはり重要なのだろう。両者が共存している職場、システムのない職場、システムのみが機能している職場、色々な環境に身を置いた経験を振り返って、そう思う。人間が賃金を対価とした労働として働くことを無理に価値づけるのであれば、システムと人肌は重要な役割を担っているのだろう。

2022年6月7日

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