「全てのゲームは、ここに集まる。」という嘘。
昔、プレイステーションという怪しいゲーム機があった。
ゲームタイトルは麻雀とか将棋とかがほとんどで、ときどきラインナップされるリッチなタイトルも格ゲーやレースゲームしかなくて、RPGが大好きな僕にとってそれは、世の中の隅っこで誰かが触れているのかもしれない、それだけに過ぎないニッチなハードだった。
ネオジオCDとか、3DOとかの仲間でしょ、と思っていた。
あの頃は僕だけじゃなく、誰もがそう思っていただろう。
でも、風向きは変わる。
プレイステーションはCMで高らかに宣言したのだ。
「全てのゲームは、ここに集まる。」
何言ってんの、という感じだった。
こんなハードに、全てのゲームが集まるわけないじゃん。
全てのゲームっていうのはさ、ドラゴンクエストとか、ファイナルファンタジーのことを言うんだよ。
プレイステーションのCMは、決まったサウンドロゴと共にはじまる。
思い出してみれば、ちょっとクスッと笑える、ユーモラスな実写CMが多かった。
一方で「次のスーファミ」は機能性を売りにしていた。
64って何? しらねーの? 64ビットなんだよ。
スーファミの30倍すごいんだぜ。
プレステの4倍だぜ。
でも、プレイステーションは胸を張る姿勢を崩さない。
「いくぜ、100万台。」
「すごいことになってきた。」
「いくぜ、200タイトル。」
スーパーファミコンの4000万台に対して、おいおい「いくぜ」って、と今なら思う。
でも、その勢いはなんだかかっこよかった。
すごいことになってきたのかもしれない、と思った。
そして、FF7が発売され、ドラクエ7のプレイステーションでのリリースが発表される。
なぜドラクエをPSで? という記者の質問に、当時の社長は答える。
「ドラクエは最も普及しているハードで出す」のだと。
たった2年だ。
たった2年で、世界は塗り変わってしまった。
これらの広告を手がけた小霜和也さんは、その後もたくさんのヒットを生んでいる。
そして、2014年からは、3年おきに、3冊のとても優れた本を残している。
これらは広告の話でありつつ、生き様の話でもある。
世界は「言葉」で変えることができる。
僕はそれを、幼い頃にプレイステーションから教わった。
そして、小霜さんの本から教わった。
いつか一緒に仕事ができたなら、という憧れの人だった。
せめて講演などでお声かけすればよかった。
亡くなられたというニュースを見てから、僕を作り上げてくれた言葉たちを見返している。
そこにある強さを、僕はいま持てているだろうかと考える。
未来を見て、未来を語ること。
それが現在からの地続きであると、強くイメージできること。
イメージできる人たちを増やしていくこと。
そして、言葉で世界を変えること。
生きた証を残すこと。
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