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シナリオの書き方まとめ(消滅都市の事例より)

以下、シナリオの書き方についてチームメンバーに伝えるべく、2015年に書いた社内資料になります。

この資料では「守れなかった約束」というサイドストーリーの前半を例にとって、どういう順番で物事を考えるべきかをまとめています。
※ストーリーは検索すれば出てくるので、興味がある方はぜひ。

汎用的に使えるテクニックかと思うので、よかったら参考にしてみてください。


準備

実際に手を動かす前に考えるべきこと。

① 感情を最も強く動かす瞬間を明確にする

主人公は子供たちとの約束を守れなかったという後悔を抱えている。
もしかしたら恨まれているかもしれない。
が、そんな子供たちのタマシイに「ありがとう」と言われる。

ここが思い浮かばなければ、何も始まりません。

この瞬間を「果たして主人公は過去に向き合い、後悔に蹴りをつけることができるのだろうか?」と言い換えてみると、それが物語のセントラルクエスチョンになります。

ユーザーはこの「セントラルクエスチョン」が解決される瞬間を見たくて物語を先に進めていきます。

なので、セントラルクエスチョンに言い換えることのできない「瞬間」は、物語のピークになり得ないとも言えます。

② 感情のピークを盛り上げるために必要なシーンを考える

・子どもたちと仲良くなっていくための過程を描写する
・抱えている後悔の内容を描写する
・恨まれているのではないかという誤解が生まれた過程を描写する

個人的には、ここが最も作家性の出るフェーズだと思っています。

物語の整合性を全く気にせずに、とにかくシーンや単語を洗い出す。
単語を洗い出したら、単語と単語を無作為に組み合わせて、心に響くワードを探してみる(ハヅキ+レポート = ハヅキレポートって素敵じゃない!?)

シーンは情景でもいいし、セリフの羅列でもいい。

空を見上げていて巨大な球根が浮かんでたら面白いなと思ったら、それをメモ。
素敵なセリフを、やりとりを思いついたら、それをメモ。

使うか使わないかはわかりません。
とにかく数を出してみることが大事です。

※アナザーエデンを作っている(クロノトリガーなどで有名な)加藤さんが弊社にいるのですが、シナリオの断片となるセリフをチャットで書いているのを見ていて、ああ、こうやってゼロ⇒イチの手がかりを掴むのは自分だけではないのだなあと、妙に安心したのを覚えています。

プロット整理

まずは全体構造を整理します。

① 各話の概要を「1行で」まとめる

1. 過去に後悔を抱えている主人公が、孤児院の調査に乗り出す
2. 前向きになれない主人公を、もう1人の主人公が叱咤激励する
3. 過去を口にしはじめた主人公、かつて孤児院に起きた異変を感じとる
4. ボスと主義主張をぶつけ合いながらのバトル

物語なんてそんなシンプルなものじゃない、という意見もあるかもしれないですが、いったん1行でまとめてみるというのは大事だと思っています。

単純なストーリーの中に、深みが込められているというのが最も良いストーリーだと思っています(そう思っていても複雑になっちゃうものなので、自戒を込めてそう考えるようにしてました)

② シナリオを駆動させる「コンフリクト」を明確にする

1. 過去を語らない主人公A / 興味深々の主人公B
  ⇒ 主人公Bの興味を、読み手の興味と一致させる

2. 前向きになりきれない主人公A / 前を向かせようとする主人公B
  ⇒ 主人公Bの気持ちベクトルを、読み手のベクトルと一致させる

3. 過去は過去だと主人公A / 過去に向き合うべきだと主人公B
  ⇒ コンフリクトを最も高めつつ、解消させる

4. コンフリクトが解消した状態でラストバトル

コンフリクトは推進力、というのが自分の主張です。

特に主人公キャラクターたちが、それぞれに異なる意見をもち、それをぶつけ合わせることで、物語は強い推進力を持ちます。

筆が進まないときは、登場人物たちのコンフリクトが弱いのかもしれません。
同じ脳を持った2人の会話を見せられても、それは時間の無駄でしかない。

ひとつの事象に対して、別々の人物が、100%同じ考えを持つことはあり得ません。
その「考えの違い」を深掘りすることが、人物と向き合うということです。

③ 先が読みたくなる「謎」と「クリフハンガー」を設定する

1. 主人公Aの過去になにがあったのか。約束とは?
  ⇒ クリフハンガー:過去の後悔とは?

2. 孤児院に隠された謎。院長が詮索を避ける理由とは?
  ⇒ クリフハンガー:存在しない(データから抹消された)孤児院

3. 孤児院に隠された謎の真実とは?
  ⇒ クリフハンガー:響く院長の声

4. (バトルに集中させるため謎は用意しない)
  ⇒ クリフハンガー:更なる黒幕の存在

シナリオのプレイ率は残酷にデータとして出てきます。

先を見てもらいたいのなら、そのために努力をしなければなりません。
この「謎」や「クリフハンガー」について考えるときも、先の雑多なメモが非常に役立ちます。

そして、それについて考えることが「自分自身の作っている世界がどのような世界なのかという秘密を解き明かすこと」に繋がっていきます。
(これこそが、物語を編んでいく醍醐味だと思います)

キャラクター作り

主人公たち以外のキャラクターについて考えます。

① ボスキャラクター(敵役)深掘りをする

院長
・未来の幸せより、今の幸せの方が重要。
・お金がなければ、孤児院の子どもたちは今を生きることすらできない。
・今の幸せのためになら、未来を犠牲にしても仕方がない。
・子どもたちを、人体実験の材料として提供する。

敵だからといってサイコパスにすればいいというものではありません。

正義の逆は、また別の正義。
共感できないにせよ、ロジックが通っている必要はあります。

② 脇役キャラクターの深掘りをする

・無口で人見知りだけど、だんだん主人公に心を開いていった女の子
・基本的に大人を信用していない男の子
・食いしん坊で素直な男の子

先のメモから使えそうなものをピックアップしていきます。
キャラクターを配置し、深掘りしながら、それぞれを脳内で互いに会話させていくことで、世界が出来上がっていきます。

シナリオ作成

実際のシナリオ制作に入っていきます。

① プロットを細分化する

敵が出てくるタイミングをキーに、その間で何を語るのかを決める。
・バトル=プレイヤーの能動的な行動
・ここを無視してシナリオを設計すると、感情が乗り切らない
・そのため、プロット細分化はバトルを軸に行う。

音楽を事前に振り分けておく。
・音楽は言葉よりも感情に近い。
・プロット細分化の段階で音楽にアタリをつけておくことで完成度が高まる。

② 細分化したプロットを「エピソード」に落とす

ユーザーに伝えたいことを、エピソードとして詳細化していく。

感情を動かすことが目的なので、自分の人生を振り返ってエピソードをひねり出すのが一番の近道。
悲しかったこと、楽しかったこと、愛情を感じたときのこと…過去の出来事を思い出しながらエピソード化していくと良い。

NG例:
「先生は慈愛に満ちた人だよ。ただ、ちょっと俺たちを愛しすぎているのがときどき重くも感じるかな」
「先生も子供の頃、俺たちと同じように孤児として育ったらしいんだ。だからか、俺たちに自分を投影してるんだと思う」
OK例:
① 先生が慈愛に満ちた人であることを示すエピソード
  ⇒ 例:熱を出しているのに遠足のため早起きしてお弁当を作ってくれた

② 愛しすぎているのをときどき重く感じるエピソード
  ⇒ 例:無理がたたって起きてこなくなってしまった先生。そこまでしなくてもいいのにという子どもも一部いたりなど

③ 先生もまた孤児として育ったことを知るエピソード
  ⇒ 例:子どものひとりが悲しんでいるのを慰めようと、秘密を漏らす先生。「このこと、みんなにはナイショよ」「なんで?」

※構成上全てをエピソードとして伝えることはできませんでしたが、ここを思考しておくことは人物に厚みを持たせるためにとても重要です。

③ 中身を執筆する

・口に出したとき言いやすいセリフにする(実際に読んでみると良い)
・説明セリフやおうむ返しの質問で会話を成立させると楽なので逃げてしまいがちになるが、安易にそれを選ばず、その人物がそういう状況に置かれたら何を言うかを本気で考える。

④ 読み返して調整する

1人の人物に焦点を当てて、感情の流れに違和感がないかをチェックする⇒それを全登場人物ぶん繰り返す。

次にユーザーの「知識」に焦点を当てて、知らない情報が出てきていないか、理解できるかをチェックする(バトルを経ても理解可能か)。

最後にユーザーの「感情」に焦点を当てて、流れを整理する(バトルを経ても感情が分断されることがないかをチェックする)

参考文献

このへんの本が非常にためになります。
物語を書いたり、物語について考える方におすすめです。


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