見出し画像

そしてアイコは疎開した(0)

満員の車内で、隣の人の体が少し強く当たった。

それだけのことなのに、違和感と気怠さが入り混じった不快な気分が、どろどろと私の規則的な行動に押し寄せてきた。

この完成された通勤というシステムからはじまる、順調だった私の日常が、これまでとても自然に忘却してきた身体性を感じてしまった途端に、適応できなくなるのは、ある種の驚きだった。

お隣さんも、そのまたお隣さんも、しずかにスマホの画面を見ているけど、内心はきっと穏やかではないだろうと、いまは感じざるを得ない。

ここにいる誰もが享受している完璧までのシステムの中では、ある時は選ばれ、ある時は淘汰されて。

欲して、欲されることが何よりも大切で、常に前に出ることを迫られる。

この都市の戦いは壮大にして、酷い戦争のよう。


私はこれから毎日、少しの時間だけ疎開しようと思う。


それは私の中に閉じた、私だけの思考。


バラバラになった時間と、存在が重なり合うタイミングを見つけるために遮断するのだ。


こうして私は疎開する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?