自己紹介(3):学術論文の書き方(上)
自己紹介(2)を書いた後、もう少し付け加えたいことが出てきました。
管見ですが
諸事情あって学術論文を読む機会がよくあります。国際いけ花学会の副会長ですし、ある国際学会の査読委員もしばらく担当したことがあります。
学問の世界は広大ですが、私の専門とする領域は非常に狭いものです。教育心理学(博士号)、日本学(修士)、美術(修士)といった文系の中の小さな分野です。その狭い分野の経験しかない者の管見に過ぎないのですが、日本語の文系の論文はもっと面白く、ワクワクするようなものであるべきではないでしょうか。
大学生の論文や博士論文だけでなく、先生方の論文でも、もっと楽しませて欲しいなあ、と思うことがあります。もちろん、そんな批判めいたことを口にできる立場ではないのですが。
もしかすると私が受けた学問の訓練(修士以上)がオーストラリアの大学においてですので、日本の学術の特殊な事情に不明であるというようなことがあるのかもしれませんが。
ですから、以下の文章は要注意です。「何も知らない未熟な奴が、たわけた事を言っている」と叱られても仕方ないレベルの独断と偏見。それでも構わないという方だけ、お読み下さい。恐縮しつつ、遠慮がちに続けます。
つまらない論文の共通項
時に、立派なタイトルの論文でありながら、つまらない、というものもあります。最近、つまらない論文の共通項が分かってきました。一言で言えば、抽象的思考がゆるい。
事実の羅列で終わっているようなもの。集めたデータの報告が長々と続くのは、申し訳ないですが、読むのが大変。考察はどこだろう?と。
事実の集積、あるいは調査の結果を分析し、グループ分けし、比較し、パターンを見つけ、理論をすくい上げると言った分析や抽象的思考の面白さがない。それをリサーチ・メソドロジー(研究方法)と言いますが、メソドロジーの習得は論文を書く前提です。
あるいは、ある事実(または調査の結果)を分析する段階に、分析ツール(理論)を持ち合わせていないために、思考が支離滅裂になっていたりします。文芸評論めいた著作によくあるケースです。
文系で研究を志す方は、リサーチ・メソドロジーはきちんと勉強しましょう。余裕があれば基礎的な哲学、数学などの勉強も役立つでしょう。
論文の書き方
Googleで調べると、「論文の書き方」ということで、たくさんのアドバイスが見つかります。よく見かけるのは論文の構成から説明していくもの。
序論
文献レビュー
方法
調査
結果
分析
考察
結論
などが一般的な構成パターンでしょうか。
私見では、ここで最重要なのは「文献レビュー」です。
【必読!】文系学生のための卒論・修論の書き方
https://www.zakki-weblog.com/entry/dissertation-writing
というサイトによると、文献レビューとは、以下のように説明されています。
「関連する過去の文献や論文、理論を、その分野の学術的流れや歴史なども含めて要約し、批判的に検討する。用語の定義などもここで。」
ポイントは
「その分野の学術的流れや歴史」というところが大切です。ここを踏まえていなければ、論文は存在する意味がありません。修士論文や博士論文でも、ここがないに等しいというものもあるようです。
実は、「なぜ学術的な流れや歴史が重要なのか」という質問をしてくる方を、納得させるのはかなり難しい仕事になるでしょう。それがないと、独りよがりなレポートになってしまうからです、と言っても分からない方には分かってもらえないかもしれません。
序論では、その論文の「重要性」を読者にアピールすることになります。「読んで下さいね。面白いんですから」と。そして、その「重要性」を裏付けるのが、この文献レビューの役割。そうした関係で序論と文献レビューは繋がります。
こうした読者サービス、呼び込み営業精神のない論文を読ませられるのは、ちょっと、なんと言いますか、結局、何が言いたいの?となります。
拙論の解説
ここで他の人の論文を持ち出して批判や評価をしたりするのはかばかられますので、近年出版された私の小論文を参考に説明を続けます。今までのところ私の出版物はほとんどが英文なので、私にとっては数少ない日本語で書いた論文のひとつです。
2022. 新保逍滄、第二次大戦前後の生け花場における自由花運動の相対的位相「はじめて学ぶ芸術の教科書、伝統文化研究編」井上治、森田都紀(編)、京都芸術大学芸術学舎
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自己紹介(3):学術論文の書き方(下)に続きます。
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