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生活保護受給中に相続発生!相続放棄は勝手にできるのか?



1. はじめに

生活保護を受給している中で親族が亡くなり、自分が相続人となるケースは少なくありません。その際、多くの人が「借金や財産の処理が面倒だから、相続放棄をすれば問題ない」と考えがちですが、実は注意が必要です。

相続放棄は、家庭裁判所に申立てを行うことで、自分が相続人としての権利を放棄する手続きですが、生活保護受給者がこれを行う場合にはいくつかの重要なポイントがあります。なぜなら、生活保護制度では「利用できる資産や収入は活用する」ことが原則とされているため、福祉課に相談せずに相続放棄をすると「本来使える財産を意図的に放棄した」と判断され、生活保護の打ち切りや返還請求の対象になる可能性があるからです。

また、相続放棄には**「3ヶ月以内」**という厳格な期限が設けられており、福祉課の対応を待っている間に手続きを進められないと、意図せず相続を承認したことになってしまうリスクもあります。そのため、相続放棄を考えたときには、まず福祉課に相談し、適切な手続きを進めることが非常に重要です。

この記事では、生活保護と相続放棄の関係を整理し、具体的な手続きの流れや注意点を詳しく解説します。生活保護を継続しながら適切に相続放棄を行うために、ぜひ最後までお読みください。


2. 生活保護受給者が相続人になった場合の影響

生活保護を受給している人が親族の死亡によって相続人になると、遺産の内容によって生活保護の支給に影響を及ぼす可能性があります。相続には、預貯金や不動産といったプラスの財産もあれば、借金などの**マイナスの財産(負債)**も含まれます。どちらのケースであっても、福祉課の対応を考慮せずに独断で手続きを進めると、生活保護の継続に支障をきたすことがあるため、慎重に進める必要があります。

相続財産は「収入」と見なされる可能性がある

生活保護制度においては、「利用できる資産や収入は活用すること」が原則とされています(生活保護法第4条「補足性の原則」)。そのため、相続によって財産を取得すると、たとえ少額であっても収入と見なされ、生活保護の減額や停止の対象となる場合があります。

例えば、以下のような財産を相続した場合には、福祉課が生活保護の支給を見直す可能性があります。

  • 預貯金(少額でも生活費に充当するよう求められる)

  • 不動産(自宅以外の土地や建物がある場合、売却を指示されることがある)

  • 生命保険の死亡保険金(相続財産として扱われることがある)

このような資産を相続した場合、福祉課に報告せずに受け取ると「不正受給」と見なされる可能性があるため、必ず事前に相談することが重要です。

相続財産が負債の場合

一方で、相続する財産が負債(借金)である場合、相続放棄をするのが一般的な選択肢になります。相続放棄をすれば、相続人としての権利も義務もすべて放棄されるため、故人の借金を引き継ぐ必要がなくなります。しかし、生活保護受給者が相続放棄をする場合にも福祉課への相談が必要です。理由としては、以下のようなリスクがあるためです。

  1. 福祉課が「相続財産を放棄した」と判断すると、生活保護費の支給停止につながる可能性

    • たとえ負債が主であったとしても、福祉課が「相続財産の詳細を確認しないまま放棄した」と判断することがある。

    • その場合、「利用できる資産を放棄した」として生活保護の支給が見直される可能性がある。

  2. 相続放棄の手続きの進め方によっては、生活保護受給に影響を及ぼす

    • 福祉課が財産の詳細を確認する前に相続放棄をすると、後から「本当に負債しかなかったのか?」と追及されることがある。

    • 生活保護受給者であることを理由に、相続放棄が正しく行われたかどうかの調査が行われることもある。

したがって、生活保護を受給している人が相続放棄を検討する場合は、必ず事前に福祉課へ相談し、「負債しかないため相続放棄を考えている」と伝えることが望ましいです。その上で、相続放棄の手続きを進め、最終的な結果を福祉課に報告することで、生活保護の継続に悪影響を及ぼさずに済みます。


3. 相続放棄を勝手に進めるリスク

生活保護受給者が相続放棄を考える際、福祉課に相談せずに勝手に手続きを進めると、思わぬ問題が発生する可能性があります。特に、相続放棄は「生活保護を受給しながら財産を意図的に放棄した」と判断されると、生活保護の打ち切りや返還請求のリスクが生じるため注意が必要です。

福祉課への相談なしに相続放棄をするとどうなる?

相続放棄をすると、法律上は「最初から相続人ではなかった」ことになります。しかし、生活保護制度では、相続財産があるならそれを活用するのが原則(生活保護法第4条「補足性の原則」)です。そのため、相続放棄をしたことで以下のような問題が起こる可能性があります。

  1. 「利用できる財産を故意に放棄した」と見なされるリスク

    • 相続財産があるにもかかわらず、福祉課に報告せずに相続放棄を行うと、「本来受け取れる資産を意図的に放棄した」と判断される可能性があります。

    • その場合、「生活保護の必要性が低下した」と見なされ、支給停止や減額の対象となることがあります。

    • さらに、「生活保護を受給しながら資産を放棄した」と判断されると、過去に受け取った保護費の返還を求められる可能性もあります。

  2. 「遺産の有無を確認せず放棄した」と見なされるリスク

    • 財産の調査をせずに相続放棄を行うと、福祉課から「本当に遺産がなかったのか?」と疑われることがあります。

    • 生活保護受給者が相続放棄をする場合、相続財産が負債であることを証明する書類の提出が求められることがあるため、事前の調査が不可欠です。

    • もし、後から相続財産が発見された場合、「相続放棄の判断が不適切だった」として、生活保護の返還請求が行われる可能性もあります。

相続放棄には3ヶ月の期限がある

相続放棄には、被相続人(亡くなった人)の死亡を知った日から3ヶ月以内という法的期限があります。この期限を過ぎると、自動的に相続を承認したことになり、負債があった場合でもそれを引き継ぐことになります。この3ヶ月の期間内に、以下のような手続きを完了させる必要があります。

  1. 故人の財産や負債の調査(預貯金・不動産・借金などの確認)

  2. 家庭裁判所への相続放棄の申立て

  3. 福祉課への相談と報告

しかし、生活保護受給者の場合、福祉課の確認を待っている間に3ヶ月の期限が過ぎてしまうリスクがあります。特に、福祉課が「相続財産の証明書」や「名寄帳(不動産の所有状況)」などの提出を求めると、それらの書類の取得に時間がかかることがあります。その結果、相続放棄の期限に間に合わず、負債まで相続してしまう危険性があります。

福祉課の確認を待っている間に期限切れになるリスク

相続放棄を考えている場合、福祉課の指示を待っているだけでは間に合わない可能性があるため、以下のような対策を取ることが重要です。

  1. 相続放棄の期限が迫っている場合、家庭裁判所に「申述期間延長の申立て」を行う

    • 申述期間延長の申立てを行うことで、相続放棄の期限を延ばすことができる。

    • 延長が認められれば、生活保護の手続きを並行して進める余裕が生まれる。

  2. 福祉課と並行して相続放棄の手続きを進める

    • 福祉課の指示を待つのではなく、「相続放棄の期限があるので、手続きを進めつつ相談する」というスタンスが重要。

    • 具体的には、財産調査を行いながら福祉課に報告し、並行して家庭裁判所に相続放棄の準備を進める。

  3. 財産調査を早めに進める

    • 「名寄帳」(不動産の所有状況)や「残高証明書」(預貯金の有無)を早めに取得し、相続財産の内容を把握する。

    • 「負債しかない」と分かった時点で福祉課に報告し、相続放棄を進める意思を伝える。


4. 福祉課に相談すべき理由

生活保護を受給している人が相続放棄を検討する場合、福祉課に事前に相談することが極めて重要です。相続財産があるかどうかにかかわらず、福祉課に報告せずに相続放棄を行うと、生活保護の支給に影響を及ぼす可能性があります。事前に財産調査を行い、その結果を福祉課と共有することで、手続きをスムーズに進めることができ、余計なトラブルを回避できます。

財産調査を事前に行い、福祉課と共有することでスムーズに手続きできる

相続放棄をする前に、まずは故人の財産状況を正確に把握することが重要です。なぜなら、相続放棄は「財産がない」または「負債がある」ことを理由に行う手続きであり、本当に相続すべき財産がないのかを確認しなければ、生活保護の支給に影響が出るリスクがあるためです。

財産調査では、以下のポイントをチェックします。

  1. 名寄帳の取得(不動産の有無を確認)

    • 故人が不動産を所有していたかどうかを調べるため、市区町村役場で「名寄帳」を取得します。

    • 名寄帳に不動産の記載がなければ、故人がその自治体内で不動産を所有していないことが証明できます。

  2. 預貯金の確認

    • 故人の金融機関口座の残高証明を取得し、預貯金の有無を確認します。

    • 預金があれば、福祉課にその金額を報告し、相続の影響を検討します。

  3. 負債の有無を確認

    • 故人が借金をしていた場合、契約書や督促状、金融機関からの通知などを確認します。

    • 負債の方が多いことが明確であれば、相続放棄をする正当な理由になります。

福祉課に「負債しかないため相続放棄を予定している」と事前説明すると理解を得やすい

相続放棄をする場合、生活保護の観点からも**「なぜ相続放棄をするのか?」を福祉課に明確に説明することが大切**です。福祉課に対して、「遺産を故意に放棄していない」ということを伝えるためにも、以下のように説明すると理解を得やすくなります。

  • 「名寄帳を取得し、不動産を所有していないことを確認しました。」

  • 「預貯金を調べましたが、ほとんど残っていません。」

  • 「借金が○○円あり、相続すると負債を背負うことになるため、相続放棄を予定しています。」

  • 「そのため、家庭裁判所に相続放棄の申立てを行う予定です。」

このように、財産調査の結果を福祉課に共有し、合理的な理由を説明することで、「利用できる資産を意図的に放棄した」と見なされるリスクを回避できます

相続放棄後のトラブル回避

相続放棄をした後も、福祉課に対して適切な対応を取ることが重要です。特に、「遺産がないため相続放棄をした」と報告するだけではなく、「財産調査の結果、負債のみであったため相続放棄をした」と具体的に伝えることがポイントになります。

相続放棄後に福祉課から問い合わせがあった場合でも、事前に財産調査の結果を福祉課に報告していれば、問題になりにくくなります。逆に、福祉課への相談を怠ると、「本当に遺産がなかったのか?」と追及される可能性があり、生活保護の支給が見直されるケースも考えられます。

事後報告ではなく、事前相談がポイント

生活保護を受給している人が相続放棄をする場合、**最も重要なのは「福祉課に事前に相談すること」**です。相続放棄をした後に報告すると、「なぜ勝手に手続きしたのか?」と疑われ、不要なトラブルにつながる可能性があります。

また、福祉課が財産の調査を求めてくることもあり、その対応に時間がかかると相続放棄の3ヶ月の期限を超えてしまうリスクもあります。そのため、福祉課に相談しながら、相続放棄の手続きを並行して進めることが重要です。


5. 生活保護受給者の相続放棄の正しい手順

生活保護受給者が相続放棄を行う場合、正しい手順を踏むことが重要です。相続放棄には3ヶ月以内という期限があるため、福祉課との調整を適切に行いながら、確実に手続きを進めることが必要です。ここでは、相続放棄をスムーズに行うための具体的な手順を解説します。


① 福祉課に相談する

まず、相続放棄を予定していることを福祉課に伝え、手続きの方針を確認します。福祉課に相談せずに相続放棄を行うと、「利用できる財産を故意に放棄した」と判断され、生活保護の打ち切りや返還請求のリスクが生じる可能性があります。そのため、必ず事前に相談することが大切です

福祉課への相談時に伝えるポイント

  • 「故人の財産調査を進めており、相続放棄を検討している」

  • 「相続財産が負債である可能性が高いため、相続放棄を予定している」

  • 「相続放棄の手続きが3ヶ月以内に必要なため、早めに進める必要がある」

  • 「財産調査が完了次第、詳細を報告する」

福祉課に相談することで、相続放棄を進めても生活保護の継続に問題がないかを確認できるため、トラブルを防ぐことができます。


② 故人の財産調査を行う

相続放棄をするには、故人の財産状況を正確に把握することが不可欠です。特に、福祉課に対しても財産の有無を説明する必要があるため、次の書類を収集し、財産の有無を確認します。

財産調査に必要な書類

  1. 名寄帳(不動産の有無を確認)

    • 市区町村役場で取得し、故人が不動産を所有していたかを確認。

    • 不動産がないことを証明できれば、相続放棄の正当性が強まる。

  2. 金融機関の残高証明書(預貯金の確認)

    • 故人の銀行口座の有無を調べ、預貯金の状況を把握。

    • 預金がないことが分かれば、福祉課にも説明しやすい。

  3. 借金の証明書(負債の有無を確認)

    • クレジットカード会社、消費者金融、銀行などの督促状や契約書を確認。

    • 負債がある場合、相続放棄が適切な選択となる。

財産調査が完了したら、福祉課に結果を報告し、相続放棄の方針を再確認します。


③ 相続放棄の手続きを進める(家庭裁判所へ申し立て)

財産調査の結果、負債があることが確認できたら、家庭裁判所に相続放棄の申立てを行います。相続放棄は被相続人(故人)の死亡を知った日から3ヶ月以内に手続きを完了しなければなりません。

相続放棄の申立ての流れ

  1. 申立先

    • 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てる。

  2. 必要書類

    • 相続放棄申述書(家庭裁判所の指定書式)

    • 被相続人の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)

    • 申立人(相続放棄する人)の戸籍謄本

    • 被相続人の住民票除票(または戸籍の附票)

    • 財産調査の結果を示す書類(借金の証明書など)

  3. 申立費用

    • 収入印紙800円+郵便切手(裁判所ごとに異なる)

  4. 手続きの注意点

    • 相続放棄の期限(3ヶ月)に注意し、早めに手続きを行うことが重要。

    • もし3ヶ月の期限が迫っている場合は、「申述期間延長の申立て」を行うことで、期間を延ばせる。

    • 相続放棄が受理されたら、裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届く。

家庭裁判所の手続きが完了したら、相続放棄が正式に認められます。


④ 福祉課に結果を報告する

相続放棄が受理されたら、その結果を福祉課に報告し、生活保護の継続手続きを行います。福祉課への報告を怠ると、「本当に負債しかなかったのか?」と疑われ、生活保護の支給見直しや、不要な調査が入る可能性があります。

福祉課への報告内容

  • 「相続財産を調査した結果、負債しかなかったため、相続放棄を行った」

  • 「相続放棄の手続きは家庭裁判所で正式に認められた」

  • 「相続放棄申述受理通知書」を福祉課に提出する

このように、福祉課に適切に報告することで、相続放棄が正当な理由によるものであり、生活保護の継続に問題がないことを明確にできます


6. まとめ

生活保護を受給している人が相続放棄を考える場合、福祉課への相談が必須です。相続放棄をすること自体は法律で認められた手続きですが、生活保護制度では「利用できる資産は活用すること」が原則とされているため、福祉課に相談せずに相続放棄をすると、生活保護の停止や不正受給と見なされるリスクがあります

また、相続放棄は故人の死亡を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。福祉課の確認を待ちすぎると、期限が切れてしまい、結果的に相続を承認したことになってしまう可能性があるため、迅速な対応が求められます

生活保護を継続しながら相続放棄を適切に進めるためには、事前に財産調査を行い、福祉課と情報を共有しながら手続きを進めることが最も安全な方法です。名寄帳や預貯金の有無を確認し、負債しかない場合にはその証拠をそろえた上で、福祉課に「相続放棄を予定している」と伝えることで、余計なトラブルを避けることができます。

安全に相続放棄を進めるためのポイント

相続放棄を考えたら、まず福祉課に相談する
財産調査(名寄帳・預貯金・借金)を行い、相続の状況を正確に把握する
相続放棄の期限(3ヶ月)を守り、期限が迫っている場合は「申述期間延長の申立て」を検討する
福祉課に調査結果を共有し、相続放棄後の手続きも適切に進める

これらの対策をしっかり講じれば、生活保護の支給停止や減額のリスクを回避しながら、スムーズに相続放棄を行うことができます。生活保護を受給しながらの相続放棄は慎重に進める必要があるため、福祉課と家庭裁判所の両方と連携しながら、計画的に対応することが重要です。

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