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「身寄りがない」「お金がない」でも葬儀はできる?「行旅死亡人制度」の仕組みと手続きガイド



1. はじめに

身寄りのない人が亡くなったらどうなる?

私たちは誰しも、いつかは死を迎える運命にあります。しかし、もし身寄りがいない人が亡くなった場合、その後の対応はどうなるのでしょうか?また、生活保護を受けている人や経済的に厳しい人が親族の葬儀を執り行う余裕がない場合、どうすればよいのでしょうか?

葬儀には、火葬・納骨・手続きなど、多くの費用がかかります。特に生活保護を受けている方や低所得者にとっては、これが大きな負担となります。また、遠方に住んでいる親族が亡くなった場合、「葬儀の手配ができない」「費用を負担できない」といった問題に直面することも少なくありません。

このような状況に対応するために、日本には**「行旅死亡人(こうりょしぼうにん)」**という制度があります。これは、身元不明者や身寄りのない人が亡くなった場合、自治体が最低限の葬儀(火葬・埋葬)を行う制度です。自治体が費用を負担するため、遺族や関係者に経済的な負担がかかることはありません。

この制度を理解しておくことで、もし身近な人が亡くなった際に、**「自分に葬儀を行う経済的余裕がない」**と悩むことなく、適切な対応を取ることができます。本記事では、行旅死亡人の制度の詳細や、手続きの流れ、遺族の対応について詳しく解説していきます。


2. 行旅死亡人とは?

行旅死亡人の定義(行旅病人及行旅死亡人取扱法)

「行旅死亡人(こうりょしぼうにん)」とは、身元不明のまま亡くなった人、または身寄りがいない・親族が葬儀を行えない人が死亡した場合に、自治体が火葬・埋葬を行う制度の対象となる死亡者を指します。これは、「行旅病人及行旅死亡人取扱法」(明治32年制定)に基づいて処理されるもので、国家や自治体が公的に対応する仕組みが定められています。

通常、死亡者の火葬や埋葬は、親族が手配し、費用を負担します。しかし、何らかの事情で親族が対応できない場合、行政が最低限の葬儀を行う必要があるため、行旅死亡人として扱われることになります


対象となるケース

行旅死亡人として扱われるのは、次のような場合です。

  1. 身元が分からない人が死亡した場合

    • 道端や公園、施設などで身元が分からないまま亡くなった人

    • 身分証がなく、警察の捜査でも身元が特定できない人

    • 遺族が見つからない、または連絡が取れない場合

  2. 身寄りがいるが、誰も葬儀を行わない場合

    • 相続放棄をした場合

      • 故人に借金があるなどの理由で、相続人が相続放棄し、葬儀も拒否した場合

    • 経済的理由

      • 親族が生活保護受給者で葬儀費用を負担できない場合

      • 遠方に住んでおり、移動や葬儀の手配が困難な場合

    • 高齢者の単身死

      • 施設や自宅で単身で生活していた高齢者が亡くなり、引き取り手がいない場合

    • 刑務所や福祉施設での死亡

      • 受刑者や施設入所者が亡くなった際に、親族が引き取りを拒否した場合

このような場合、自治体が死亡者の火葬・埋葬を行うことになります。


通常の死亡者との違い

行旅死亡人として扱われる場合と、通常の死亡者とでは、対応が異なります。

通常の死亡者
葬儀手配:親族が行う
火葬・埋葬の費用:遺族・相続人が負担
遺骨の管理:親族が引き取る
遺品の処理:親族が対応

行旅死亡人
葬儀手配:自治体が行う
火葬・埋葬の費用:自治体が負担
遺骨の管理:共同墓地に埋葬される場合が多い
遺品の処理:自治体が処分または売却

特に重要なのは、親族が火葬を行わない場合、自治体が最低限の火葬・埋葬を行うが、遺骨を引き取れるとは限らないことです。自治体によっては、遺骨を一定期間保管した後、共同墓地に埋葬する場合があり、後から遺骨を引き取りたい場合は早めに交渉する必要があります。


  • 行旅死亡人とは、身元不明者や親族が葬儀を行えない死亡者を自治体が火葬・埋葬する制度の対象者を指す。

  • 相続放棄や経済的理由で葬儀ができない場合も、自治体が火葬を実施することがある。

  • 通常の死亡者と異なり、葬儀費用は自治体が負担し、遺骨は共同墓地に埋葬されるケースが多い。

  • 遺骨の引き取りを希望する場合は、早めに自治体に申し出ることが重要。

次の章では、「行旅死亡人の手続きの流れ」について詳しく解説します。


3. 行旅死亡人の手続きの流れ

行旅死亡人として扱われる場合、自治体が手続きを進めることになります。その流れは、遺体の発見から火葬・埋葬まで、すべて行政が管理する形となります。以下、その具体的な手順について説明します。


(1) 遺体の発見と行政への報告

行旅死亡人として扱われる最初のステップは、遺体の発見と行政への報告です。

① 遺体の発見と確認

  • 病院、警察、施設職員、通行人などによって遺体が発見される。

  • 事件性がないかどうか警察が確認し、身元の特定を試みる。

  • 身分証や所持品などを調べ、可能であれば身元を特定。

② 身元や親族の調査

  • もし身元が特定できた場合、警察や自治体が親族に連絡。

  • 親族が見つかっても、経済的理由や相続放棄によって葬儀を行えない場合、自治体が行旅死亡人として処理。

  • 親族がまったく見つからない場合、一定期間捜索した後、行旅死亡人として自治体が対応する。


(2) 自治体が葬儀を手配

親族が葬儀を執り行わない、または対応できない場合、自治体が簡易的な火葬を手配します。

① 火葬のみの簡易葬儀

  • 行旅死亡人の葬儀は、通常は火葬のみが行われる

  • 葬儀社による通夜や告別式はなく、最低限の火葬のみが実施されることが多い。

  • 自治体によっては、簡単な読経や献花が行われる場合もあるが、形式的な葬儀は行われない。

② 遺体の安置と埋葬の準備

  • 行旅死亡人と判断された後、自治体の指定する施設(霊安室・火葬場)で安置される。

  • その後、火葬の手続きが進められ、共同墓地に埋葬されるケースがほとんど


(3) 費用の負担

行旅死亡人の葬儀費用については、基本的に自治体が負担しますが、故人の財産の有無によって費用回収の可能性が異なります

① 行旅死亡人の葬儀費用

  • 自治体が最低限の火葬費用を負担。

  • 葬祭扶助の範囲内で実施されるため、家族の経済的負担はなし

  • 一般的な葬儀より費用は抑えられ、約15万〜20万円程度が自治体の負担となることが多い。

② 遺産がある場合の費用回収

  • 故人に財産がある場合、自治体は葬儀費用を遺産から回収できる

  • 預貯金や不動産などの資産が残っている場合、自治体が相続人を探し、費用の請求を行う。

  • 相続人が相続放棄していれば、自治体が財産から回収し、相続人に請求はされない


(4) 遺骨の扱い

火葬後、遺骨は通常、親族がいれば引き取ることが可能ですが、行旅死亡人の場合、遺骨の引き取りは難しくなる場合が多いです。

① 共同墓地への埋葬

  • 多くの自治体では、火葬後の遺骨を合同の無縁仏墓(共同墓地)に埋葬する

  • 遺族がいない場合、無縁仏として合葬されるため、個別の墓を作ることは基本的にない

② 遺骨を引き取りたい場合

  • 火葬前に自治体へ「遺骨を引き取りたい」と申し出ることが重要。

  • 自治体によっては、一定期間保管し、その間に親族が申し出れば引き取れるケースもある。

  • ただし、一度共同墓地に埋葬されると、後から引き取るのは極めて困難。


  • 行旅死亡人の手続きは、警察や自治体による身元確認後、親族が対応しない場合に自治体が葬儀を手配する流れとなる。

  • 火葬のみの簡易葬儀が行われ、葬祭扶助の範囲内で自治体が費用を負担する。

  • 故人に遺産がある場合、自治体が葬儀費用を回収する可能性がある。

  • 遺骨は共同墓地に埋葬されるのが原則で、後から引き取ることは難しいため、希望がある場合は早めに自治体へ申し出ることが必要。

次の章では、「行旅死亡人と葬祭扶助の違い」について詳しく解説します。


4. 行旅死亡人と葬祭扶助の違い

葬儀費用を負担できない場合、日本には**「行旅死亡人制度」「葬祭扶助」**という2つの公的支援制度があります。しかし、それぞれの制度には異なる適用条件があり、どちらを利用できるかは状況によります。

本章では、行旅死亡人と葬祭扶助の違いを詳しく解説し、どの制度を利用すればよいのかを説明します。


生活保護受給者の葬儀費用は「葬祭扶助」で対応可能

生活保護を受給している人や低所得者が親族の葬儀を行う場合、**「葬祭扶助」**という制度を利用できます。これは、生活保護制度の一環として提供されるもので、最低限の葬儀(火葬)を公費でまかなう仕組みです。

このため、生活保護を受けている人が親族の葬儀を行う際に、葬儀費用の負担が難しい場合は、行旅死亡人制度ではなく、葬祭扶助を活用することが適切です。


葬祭扶助とは?

葬祭扶助とは、生活保護受給者や低所得者が亡くなった場合、最低限の葬儀を行うために支給される制度です。

葬祭扶助のポイント

申請できるのは「遺族」または「故人と特別な関係がある人」
生活保護受給者または低所得者に対して適用される
最低限の葬儀(火葬のみ)が対象
葬祭扶助の支給額は自治体によって異なるが、15万~20万円程度
申請には役所の審査が必要


葬祭扶助の利用条件

  • 故人が生活保護受給者または低所得者であること

  • 申請者が「遺族」または「特別な関係者」であること

  • 故人の自治体の福祉課に申請し、承認を受けること

  • 事前に役所の許可を得たうえで葬儀を行う必要がある(葬儀後の申請は不可)

✅ 申請の流れ

  1. 故人が住んでいた自治体の福祉課に連絡

  2. 葬祭扶助の申請書を提出し、審査を受ける

  3. 審査が通れば、自治体の指定業者で火葬を行う

  4. 費用は自治体が葬儀業者に直接支払うため、遺族の負担はなし

注意! 葬儀を済ませた後に申請すると、葬祭扶助が適用されないため、事前に自治体に相談することが重要です。


行旅死亡人との違い

葬祭扶助と行旅死亡人は、どちらも経済的に困難な場合の葬儀支援として機能しますが、適用条件が異なります。

葬祭扶助
申請できる人:遺族または故人と関係のある人
故人の条件:生活保護受給者、低所得者
手続きの必要性:遺族が自治体に申請
葬儀の実施者:遺族が手配(役所の指定業者)
費用の負担:役所が負担(15万~20万円)
遺骨の扱い:遺族が引き取る
遺品整理:遺族が行う

行旅死亡人
申請できる人:自治体が自動的に判断
故人の条件:身元不明、または遺族が葬儀を拒否
手続きの必要性:自治体が手続きを進める
葬儀の実施者:自治体が手配
費用の負担:自治体が負担
遺骨の扱い:共同墓地に埋葬されることが多い
遺品整理:自治体が処理

✔️ 葬祭扶助が適用されるケース

  • 遺族が葬儀を執り行う意志があるが、費用を負担できない場合

  • 生活保護受給者や低所得者の葬儀を行う場合

  • 役所に事前に申請し、審査に通ることが条件

✔️ 行旅死亡人が適用されるケース

  • 身寄りがいない、または親族が葬儀を拒否した場合

  • 相続放棄によって親族が葬儀を行わない場合

  • 病院や福祉施設で身寄りがなく亡くなった場合

  • 自治体が自動的に手続きを進めるため、遺族が申請する必要はない


どちらを選ぶべきか?

葬儀を執り行いたいが費用がない → 「葬祭扶助」を申請する
親族が葬儀を拒否・対応できない → 自動的に「行旅死亡人」として処理される

葬祭扶助を利用する場合は、故人が生活保護受給者または低所得者であることを自治体に確認し、事前に申請をする必要があります。
一方、行旅死亡人の場合、遺族が何もしなくても自治体が火葬を行いますが、遺骨の引き取りが難しくなる可能性があるため注意が必要です。


生活保護受給者や低所得者の葬儀費用は「葬祭扶助」でカバーできるが、申請が必要。
行旅死亡人は、親族が葬儀を行わない場合に自治体が自動的に手続きを行う制度。
葬祭扶助は「遺族がいる場合」に適用され、行旅死亡人は「遺族がいないor葬儀を拒否した場合」に適用される。
遺骨を引き取りたい場合は、葬祭扶助を利用するか、行旅死亡人の手続きが進む前に自治体に相談するのが望ましい。

次の章では、「遠方の親族が亡くなった場合の対応」について詳しく解説します。


5. 遠方の親族が亡くなった場合の対応

遠方に住んでいる親族が亡くなった場合、すぐに駆けつけることができない、あるいは葬儀の手配が難しいことがあります。特に、経済的に負担できない場合や、故人の生活拠点が自分と異なる自治体にある場合、どのように対応すべきかが問題になります。

このような場合、まずは故人が住んでいた自治体に相談し、葬祭扶助や行旅死亡人の手続きを確認することが重要です。本章では、具体的な対応方法について解説します。


(1) まずは自治体に相談

① 相談先:故人が住んでいた自治体の福祉課や市役所

遠方に住む親族が亡くなった場合、まずは故人が住んでいた市区町村の福祉課または市役所の担当窓口に連絡します。

連絡する目的

  • 故人の葬儀をどのように進めるべきかの確認

  • 「葬祭扶助」が利用できるか、または「行旅死亡人」として扱われるかの判断

  • 自治体が手配する葬儀の流れ、火葬のタイミングを知る

相談時に伝えるべき情報

  • 故人の氏名・生年月日・住所

  • 自分と故人の関係(親族か、後見人か)

  • 自分が葬儀を行う意思があるかどうか

  • 経済的な理由で葬儀費用を負担できない場合、その旨を明確に伝える

② 「葬祭扶助」または「行旅死亡人」の手続き確認

  • 葬祭扶助が利用できる場合 → 遺族が自治体を通じて申請し、最低限の火葬を行う

  • 行旅死亡人として処理される場合 → 親族が対応しない場合、自動的に自治体が手配する

⚠ 注意点

  • 自治体に相談する前に勝手に葬儀を進めると、公的支援が受けられなくなる可能性がある

  • 葬祭扶助を利用する場合は、必ず事前に役所の承認を得ること

  • 行旅死亡人として処理される場合、遺骨を引き取るかどうかを事前に確認する


(2) 自治体に任せる場合

遠方に住んでいると、物理的・経済的な理由から、親族が葬儀を執り行うことが困難なケースがあります。この場合、自治体にすべてを任せることができます。

① 行旅死亡人として処理される可能性

  • 遺族が葬儀を行わない場合、自治体が行旅死亡人として火葬を手配

  • 火葬後、遺骨は自治体の管理となり、共同墓地に埋葬されるケースが多い

  • 自治体の対応が決まり次第、連絡が来ることもあるが、基本的には自治体が判断して進める

② 自治体の火葬・埋葬の流れ

  1. 遺体は一時的に自治体の指定施設(霊安室・火葬場など)に安置される

  2. 身寄りがいない、または遺族が葬儀を行わないと判断されると、自治体が火葬を手配

  3. 火葬後、遺骨は一定期間自治体で保管されるが、その後、共同墓地に埋葬される

③ 役所に確認すべきポイント

✅ 火葬の予定日(どれくらい時間がかかるか)
✅ 遺骨を引き取りたい場合の手続き
✅ 遺品の処理(引き取るものがあるかどうか)

⚠ 注意点

  • 遺族が一度も連絡を取らないと、自動的に行旅死亡人として処理される

  • 遺骨の管理は自治体によって異なり、一定期間後に合葬される場合がある

  • 後から遺骨を引き取りたい場合は、火葬前に申し出る必要がある


(3) 遺骨の引き取りを希望する場合

行旅死亡人として処理された場合、原則として遺骨は共同墓地に埋葬されます。しかし、遺族が遺骨を引き取りたいと希望する場合、早めに自治体に申し出ることが必要です。

① 火葬前に役所に申し出る

「遺骨の引き取りを希望する」と事前に伝える
火葬後の遺骨がどこに安置されるのか確認する
役所の方針によっては、一定期間なら遺骨を保管してもらえる可能性がある

火葬後すぐに申し出ないと、遺骨がすぐに合葬されてしまい、後からの引き取りが難しくなる

② 遺骨の引き取りは自治体の判断による

  • 自治体によっては、遺骨を親族に引き渡さない方針の場合がある

  • 火葬後の一定期間内なら引き取れる可能性があるが、期限を過ぎると共同墓地に埋葬されてしまう

  • 自治体によってルールが異なるため、火葬前に必ず確認することが重要


遠方の親族が亡くなった場合、まずは故人の住んでいた自治体に相談することが最優先。
自治体に任せる場合、行旅死亡人として処理され、火葬・埋葬が行われるが、遺骨を引き取れなくなる可能性がある。
遺骨を引き取りたい場合は、火葬前に自治体に申し出ることが必要。後からの交渉は難しいため、早めの対応が重要。

このように、遠方の親族が亡くなった場合でも、自治体の対応を利用することで、葬儀を行わずに済ませることが可能です。ただし、遺骨の引き取りや手続きについては、事前に自治体としっかり相談することが大切です。

次の章では、「相続放棄と行旅死亡人の関係」について詳しく解説します。


6. 相続放棄と行旅死亡人の関係

親族が亡くなった際に相続放棄をすると、葬儀や遺体の引き取り義務はどうなるのか?行旅死亡人として処理されるケースでは、相続との関係が気になる方も多いでしょう。ここでは、相続放棄をした場合の影響や、遺体の引き取り、葬儀の負担について詳しく解説します。


相続放棄しても、葬儀や遺体の引き取り義務は残るのか?

① 相続放棄と葬儀の義務は別の問題

  • 相続放棄をすると、故人の財産・負債を一切相続しないことになります。

  • しかし、葬儀や遺体の取り扱いは、「相続の権利・義務」とは別の問題として扱われるため、相続放棄したからといって、遺体の引き取り義務が完全に消えるわけではありません

② 相続放棄しても遺体の引き取りは可能

  • 親族が遺体の引き取りを希望する場合、相続放棄をしていても引き取ることが可能です。

  • ただし、遺体の引き取り=葬儀の費用負担が発生するわけではないため、費用をかけずに対応したい場合は、行旅死亡人として自治体に処理を依頼できます。

③ 相続放棄をすると、故人の借金や未納金は引き継がない

  • 相続放棄を行うことで、故人の借金、未納の税金、賃貸契約の保証義務などは一切引き継がれなくなる

  • したがって、葬儀や遺体の引き取りをしなければ、負担は生じない。

⚠ 重要ポイント

  • 相続放棄をしても、遺体の引き取りを希望することは可能

  • ただし、引き取る場合、葬儀や火葬の費用を負担しなければならない

  • 費用負担が難しい場合は、行旅死亡人として自治体に手続きを任せる選択も可能


遺品整理をすると「単純承認」とみなされるリスク

相続放棄をした場合、絶対にやってはいけないことが1つあります。それは、遺品整理を行うことです。

① 「単純承認」とは?

  • 相続放棄をした後に、故人の財産に手をつけると、「単純承認(相続を受け入れた)」とみなされる可能性がある。

  • 単純承認が成立すると、相続放棄の効果が失われ、故人の借金や未納金などの負債もすべて引き継ぐことになる。

② 遺品整理が「単純承認」とみなされるケース

  • 故人の現金・預金を引き出す

  • 遺品を勝手に売却する

  • 故人の家財や不動産を処分する

  • 形見分けとして遺品を持ち帰る

注意点

  • 遺品整理のつもりで個人の荷物を片付けたり、形見分けをすると「財産を処分した」と見なされ、単純承認と判断される可能性がある

  • 相続放棄をする場合、遺品には一切手をつけず、役所や専門家に対応を依頼することが重要


相続放棄と行旅死亡人を組み合わせた最適な対応

親族が亡くなった場合、相続放棄を考える人が取るべき最適な対応は次のようになります。

相続放棄をして負担を避ける方法

  1. 家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出(3か月以内)

  2. 故人の財産や負債には一切手をつけない

  3. 役所に「行旅死亡人」として自治体が葬儀を行うよう依頼

  4. 遺骨の引き取りを希望しない場合、自治体にそのまま埋葬を任せる

  5. もし遺骨を引き取りたい場合は、火葬前に申し出る


相続放棄をしても、遺体の引き取りは可能。ただし、費用負担が発生するため慎重に判断することが必要。
相続放棄をすれば、故人の借金や未納金を引き継ぐ必要はない。
遺品整理を行うと「単純承認」となり、相続放棄の効果が無効になる可能性があるため注意。
葬儀費用を負担できない場合は、行旅死亡人として自治体に手続きを任せることができる。
遺骨の引き取りを希望する場合は、火葬前に自治体に申し出る必要がある。

このように、相続放棄と行旅死亡人の手続きをうまく活用することで、負担を最小限に抑えながら、適切に故人を見送ることができます。

次の章では、「まとめ:葬儀ができなくても、対応策はある」について解説します。


7. まとめ:葬儀ができなくても、対応策はある

「親族が亡くなったが、葬儀を行うお金がない」「遠方のため対応が難しい」「相続放棄を考えているが、葬儀や遺骨の扱いが気になる」このような場合でも、日本には行旅死亡人制度や葬祭扶助といった公的支援制度があるため、負担を最小限に抑える方法があります。

ここまで解説してきた内容を踏まえ、重要なポイントを改めてまとめます。


✅ 行旅死亡人制度があるため、お金がなくても自治体が最低限の葬儀を行う

  • 身寄りのない人や、親族が葬儀を負担できない場合、自治体が火葬・埋葬を行う制度がある。

  • 遺族が経済的に厳しい場合も、行旅死亡人として自治体に手続きを任せることが可能。

  • 費用は自治体が負担するため、遺族に金銭的な請求はされない(ただし、故人に遺産があれば費用回収の可能性あり)。

  • 火葬のみの簡易葬儀となり、一般的な通夜や告別式は行われない。

  • 火葬後、遺骨は自治体の管理下に置かれ、一定期間の保管後に共同墓地に埋葬されることが多い。


✅ 遠方の親族が亡くなった場合は、まず自治体に相談し、葬祭扶助が利用できるか確認

  • 葬祭扶助は、生活保護受給者や低所得者が葬儀費用を負担できない場合に適用される。

  • 故人が住んでいた自治体の福祉課に連絡し、葬祭扶助が利用できるか確認する。

  • 葬祭扶助が適用される場合は、役所の指定する業者を通じて最低限の火葬を行うことが可能。

  • 申請前に葬儀を済ませると葬祭扶助が適用されないため、必ず事前に相談することが重要。

  • 葬祭扶助が使えない、または遺族が葬儀を行えない場合、行旅死亡人として自治体が手続きを進める。


✅ 相続放棄をしても遺体の引き取りは可能だが、遺骨の引き取りは早めに交渉する必要がある

  • 相続放棄をしても、遺体の引き取りを希望することは可能(ただし、葬儀費用は自己負担)。

  • 相続放棄をすれば、故人の借金や未納金を引き継ぐことはないが、遺品整理をすると「単純承認」とみなされるリスクがあるため注意が必要。

  • 遺骨の引き取りを希望する場合は、火葬前に自治体に申し出ることが重要。

  • 自治体によっては、一定期間遺骨を保管し、その間に申し出れば引き取れるケースもあるが、期限を過ぎると共同墓地に埋葬される。

  • 一度共同墓地に埋葬された遺骨を後から引き取ることは、非常に困難なため、早めの交渉が必要。


💡 本記事のポイント

「葬儀を行うお金がない」→ 行旅死亡人制度を活用すれば自治体が最低限の火葬を手配する
「遠方で葬儀の手配ができない」→ 故人の住んでいた自治体の福祉課に相談し、葬祭扶助や行旅死亡人制度を確認する
「相続放棄をしたいが、遺体の扱いが心配」→ 相続放棄しても遺体の引き取りは可能。ただし、遺品整理を行うと単純承認とみなされる可能性があるため注意する


✅ まとめ

  • 行旅死亡人制度があるため、遺族が対応できなくても自治体が最低限の葬儀を行う

  • 遠方の親族が亡くなった場合は、まず自治体に相談し、葬祭扶助が利用できるか確認する

  • 相続放棄をしても遺体の引き取りは可能。ただし、遺骨の引き取りを希望する場合は早めに交渉することが重要

  • 遺品整理を行うと「単純承認」とみなされ、借金などの負債を相続するリスクがあるため注意が必要

このように、経済的に葬儀が難しい場合でも、適切な公的制度を活用すれば、遺族の負担を最小限に抑えながら故人を見送ることができます。
いざというときに慌てないためにも、こうした制度の仕組みを理解し、事前に自治体と相談しておくことが大切です。


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