あとは洗脳を解くだけ
(このストーリーはあくまでフィクションです)
嘘が通れば何でもできる。
「どうしたらうまくやれると思う?」
「はい。それには、まず彼らを徹底して信じ込ませることです。
どんなに現実が大変でも、そこに座って見ている間は夢の中に居られるような、そんな世界をその中に創り出すのです」
10年が経過した。
国中の人々はそれに夢中になっていた。
その中には幸福や笑い、人生のドラマがあった。
世界のあらゆる情報、友情や愛、すべてを見ることができた。
そこには人間の限界を超えて挑戦するスポーツマンやファイターもいたし、苦境を乗り越えて世界を救うヒーローもいた。
瞬時に国中のさまざまな事件や情報も知ることができるようになった。
そこに登場する人たちは輝いていて、誠実そのものであった。
皆がその前に座り、人によっては一日中それをあこがれの目で見続けた。
子どもたちはこう考えた。
「大人になったら、自分もああやって人々のために情報を伝えるんだ」
「私は歌や踊りで人々を楽しませるわ」
すべて状況は整った。
もう誰一人として、それが嘘をつくことがあるなどと思う者はいなかった。
おかしな話が報じられて、たまに少し疑問を挟む人がいても
「そんなわけないじゃないか」とその者が笑いものにされた。
彼らはもう疑えない。
ある時、一人の男が急死した。
その男は、前の夜こんなことを訴えていた。
「この国は外国の一味の言いなりで政治をやっている。みんなのお金は巧妙に全部そこに流れているんだ」
「奴らはとにかくお金を根こそぎ持っていこうとしている。騙されるんじゃない。このままだととんでもない事になるぞ」
だが、無論そんなことを信じる人は一人もいなかった。
むしろなぜ社会的地位のある彼が、そんな嘘を突然言い出したのか不審に思う者が多かった。
「きっとやましい事でもしていたんじゃないか」
「ああいう訳の分からないことを言う大人になるんじゃないぞ」
そんな会話さえ見られた。
「そろそろ、いいんじゃないですか」
「そうだな」
「どちらにせよ、彼らはもう疑えないからな」
お金は無限に…
「もう少し金が欲しいな」
「はい。そう言われると思って、新しい仕組みを考えてあります」
「どんな仕組みだ」
「この国の人々は少々丈夫過ぎますね。長生きして税金を払ってくれるのはいいけれど・・・」
「病院で長く療養してもらえば、そこから・・・ね。どうでしょうか。」
「なるほど。利権を入れて吸い上げるんだな。お前はやはり天才だ」
「やり方は任せる」
「でも待てよ、それだと病人からしかお金は集められないな」
「いやいや、実はいい方法があるんですよ。健康な人からもお金を集める方法がね・・・」
数年後、公民館や体育館に列を作って並ぶ人々の姿が見られた。
「無料でこんなことしてくれるなんて安心よね」
「そうね、これで怖い事ないわね」
嘘を重ねる。
「やつら本当に考えるって事をしませんね」
「無料だって喜んでますが、自分たちが国に払うお金からその何倍もがっぽり取られているって気づかないんだから・・・」
「でもあいつらをどうする」
「ああ、あの反対運動している奴らですね」
「放っておいていいんじゃないですか。誰も耳なんか貸しませんよ」
「だって毎日のように『みんなの安心のために』ってやってるでしょ。そのおかげで反対する人は、今や悪人扱いですから」
「だけど驚いたね。そんなセリフで8割もの人がああして列を作って協力するんだから。命知らずもいいところだ」
「いやあ、ボスも騙されました?」
「そんなに本当に並ぶわけないでしょう。嘘ですよ、嘘」
「なんだと、それも嘘だったのか。やるなあ」
「一回嘘を流して信じさせれば、後は何だって信じますよ」
「『あの優しい笑顔のお兄さんやお姉さんが嘘を言う訳ない』って思うんです」
「本当にこの国の人間はお人よしですね」
「ああ、そのようだ」
その時、ビルの裏口のドアからけたたましい音が響いた。
「な、なんだ!」
「ボス、逃げてください!」
「やばいぞ」
抜けるような青空
「そろそろかな」
「ああ、そろそろだ」
「順に暴露していくのだ。どんなにひどい嘘で人々を操作していたのかが良くわかるようにな」
「はい」
「大変な闘いだったが、かの国でも逆転劇がようやく叶って、こっちも何とか窮地を切り抜けたな」
「はい。もうボスがいない以上奴らに力はありません」
「でも、人々の目が覚めない事には何も始まりませんから・・・」
「そうだよな」
「それにしても・・・」
「戦争であんなに洗脳されたのに、また同じことをされて気が付かないなんて、本当にお人よし過ぎだ」
「まったくです。でもそれでも愛すべき人々だと私は思います。本当に悪いのは彼らじゃないんですから」
「そうだな」
「でも・・・それももう終わりですね」
「うん」
「見てください。今日は青空が本当にきれいですよ」
「ああ。いい一日になりそうだ」
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