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【犬の短篇2】指輪と首輪

男と女が出会ったのは、散歩中だった。


すれ違った瞬間、
二人が連れていた犬どうしが吠え合った。
それをきっかけに、簡単な会話を交わした。
男と女は思った。
またこの人と会いたい。

男と女は、なるべくすれ違えるように
散歩のコースや時間を選ぶようになった。
そして、すれ違うたびに笑顔で挨拶を交わした。

男と女は連絡先を交換し、
待ち合わせて一緒に散歩するようになった。
ただ並んで歩くだけで楽しかった。
一緒に散歩する日が月に一度から
週に一度になり、毎日になった。

男と女は、犬を連れてドライブに行った。
砂浜を嬉しそうに走る犬たちを眺めながら、
二人はキスをした。

男と女は、急速に仲を深めた。
ある日、散歩の途中に男は女にプロポーズをした。
女は嬉しくて涙を流した。

男と女は、美しい庭園で結婚式を挙げた。
二匹の犬に見守られながら、二人は指輪を交換した。

男と女は、新しい家で生活を始めた。
庭には、真新しい犬小屋を置いた。
これからこの人と一緒に暮らせる。
二人は希望に胸を高鳴らせた。

男と女は毎日、仲良く並んで散歩をした。
ただそれだけで、二人は最高に幸せだった。

数年後。
男と女の間に男の子が生まれた。
男の子は大きくなるにつれて、
二匹の犬と兄弟のように仲良く遊んだ。

その頃から、
男と女は子育てに疲れ、
小さなことで口論をするようになった。
お互いのことを見向きもしなくなった。
毎日の日課だった散歩が週に一度になり、
月に一度になり、やがて無くなった。

ある日、女は偶然、男の浮気の証拠を見つけた。
噛みつき合い、引っ掻き合い、泣きわめいた末、
男と女は離婚した。

そして男と女は、別々の道を歩くことになった。
おそろいの指輪を捨てて。





オスとメスが出会ったのは、散歩中だった。

すれ違った瞬間、
オスとメスは激しく吠え合った。
生理的に大嫌いな相手だったのだ。
オスとメスは思った。
もうこの犬とは会いたくない。

オスとメスは、なるべくすれ違わないように
別の散歩コースに行くように飼い主にせがんだが、飼い主は聞いてくれなかった。
そして、すれ違うたびに嫌悪の視線を交わした。

飼い主たちが一緒に散歩するようになり、
二匹も一緒に歩かなければならなくなった。
ただ並んで歩くだけで苦痛だった。
一緒に散歩する日が月に一度から
週に一度になり、毎日になった。

オスとメスは、ドライブに連れていかれた。
砂浜で噛みつき合い、引っ掻き合い、
激しく鳴き合った末、二匹は生キズを負った。

オスとメスは、急速に仲を深める飼い主たちの姿に危機感を深めた。
ある日、飼い主の男が何か言って、女が涙を流すのを二匹は目撃した。
オスとメスは、二人の仲が悪くなったと思って喜んだ。

オスとメスは、庭園でずっと座らされて苦痛だった。
二人の飼い主たちの手で、二匹はおそろいの首輪をつけられた。

オスとメスは、新しい家に連れてこられた。
庭には、犬小屋がひとつあった。
これからこいつと一緒に暮らすのか。
二人は絶望にうちひしがれた。

数年後。
オスとメスに恐ろしい敵が登場した。
男の子の赤ちゃんだ。
男の子は大きくなるにつれて、二匹の犬にちょっかいを出してくるようになった。
ある日、男の子にいじめられていたメスを、
オスは体を張って守った。
共通の敵の存在が、オスとメスの間に絆を生んでいった。

オスとメスは毎日、仲良く並んで散歩をした。
ただそれだけで、二匹は最高に幸せだった。

しかしその頃から、
なぜか飼い主たちの機嫌がいつも悪くなった。
オスとメスのことを、見向きもしなくなった。
毎日の日課だった散歩が週に一度になり、
月に一度になり、やがて無くなった。

ある日、オスとメスは、ある作戦を決行した。
飼い主たちの気を引こうと、物置きの箱をわざとひっくり返した。
箱の奥から出てきた何かを見て、女は顔色を変えた。

なぜかわからないが、
男が荷物をまとめて出ていった。
そして、家に平和が訪れた。

今日もオスとメスは、並んで道を歩いている。
おそろいの首輪をして。


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