組織施策もマーケティング思考を入れるとうまくいく
皆さんは組織施策を導入する際、どのようなアプローチを取っていますか?
私も経験があるのですが、半年や1年といった長期スパンで人事施策を検討し、いざ導入となると大規模な説明会や研修を実施し、その後はなかなか見直しができないという状況に陥りがちです。
今回は、このような課題を解決するために、マーケティング思考を組織施策に取り入れる方法についてお話しします。
マーケティング思考とは?
私自身はマーケティング部門出身であることもあり、「9割の施策は効果が出ない」という大前提に立っています。つまり、満を持して打った施策という独りよがりなサンクコストはできるだけ排除したいという考えです。
マーケティング思考の本質は、「複数の施策を走らせて、効果があるものだけを残していく」というアプローチです。例えば、Webマーケティングでは、複数の広告パターンを用意してA/Bテストを行い、効果の高いものを見極めていきます。
この考え方を組織施策に応用することで、より効果的な施策の導入が可能になると考えています。
組織施策で重要な2つの成果
組織施策を考える際には、以下の2つの成果を意識しています。
すぐに出る成果
数値で測定できる明確な効果です。
例えば以下のような施策を例に挙げてみます。
新しいワークルールの導入により、営業する時間が固定され、結果的に売上が向上する
3年間働いたらいくら、みたいな時限的な退職金を設定することで離職率を下げる
じわじわ出る成果
施策を打ったとしても短期的に効果は出ないものの、体感的に長期的なKPIにヒットする効果です。(よくROI大丈夫か?と聞かれるのはこちらの施策です)
年一回の表彰式を定めることによって離職率を下げる、売上を上げる
職住近接を狙って地域手当を付与することで離職率を下げる
なぜ組織施策でのPDCAが難しいのか
組織施策でPDCAを回すことが難しい理由として、以下の3つがあるように思います。
評価サイクルが長い
人事評価が半年〜1年単位で行われるため、施策の効果測定に時間がかかります。加えて、評価期間中に施策を打つと、各人のKPIの組み直しを余儀なくされることがあり、現場にストレスがかかります。(事務作業、1on1が増えるなど)施策同士が干渉しやすい
例えば「休日は絶対に出社しない」というルールを設定すると、休日の社内イベントが開催できなくなるなど、施策同士が干渉し合うことがあります。(非常に卑近な例で恐縮です)
このため、シンプルなルール設定で動いている組織でない限り、いくつかのルールが干渉することになるため、役員会での動議が必要になったりとPDCAを回すことに大きなコストが発生します。大きな説明コスト
新しい施策を導入するたびに全社への説明が必要となり、変更のたびに「また変更か…」という不満が出やすくなります。
また、運用責任者を定めておく必要もある上、そのルールが細かく適用範囲を定めておかないと、その組織施策の対象者がわからなくなることもあります。
例えば、「売上100%を達成すると5万円もらえる」というインセンティブ制度があるとしましょう。
一部のメンバーは種まき期の新規事業を担っているので売上が上がらない、なんてことがあると、かえって不満につながることもあります。
解決へのアプローチ:6つの具体策
では、これらの課題を実際に踏まえて、実際に私が取り組んでいるマーケティング的アプローチをするためにどのような手順を踏んでいるかをご紹介させていただければと思います。
1. パイロット制度の活用
まずは小規模なチームで試験的に施策を導入します。
例えば、新しい会議ルールを特定の部署で先行導入し、その効果を測定します。成功事例を作ることで、全社展開時の説得材料として活用できます。
パイロットの期間は大体1ヶ月くらいでくるくる変えていくことが多いです。
意外に短いと思った方もいるかもしれません。
成功する施策は実践し始めてすぐにユーザー(というか社員)が「成果が上がりやすくなった」もしくは「生活が豊かになった実感がある」という感想を持つことが多いです。この手応えを元に施策のCheck - Actionを回すことにしています。
実施しても社員の誰も気づいていない施策は後回しでいい気がしてます。
2. "ちっちゃい施策"の導入
大きな変更を小さな単位に分割して導入します。「残業ゼロ」という大きな目標ではなく、まずは「週1回ノー残業デー」から始めるといった具合です。小さな成功体験を積み重ねることで、組織の受容性が高まります。
全体通して言えることでもありますが、「やったけど効果検証してない」なんてことは結構あるあるです。
特に、小さい施策はやったかやってないか曖昧になったために結局放置、なんてこともザラなので、できればプロジェクト管理者をしっかり決めて運用したいところです(自戒)
3. データドリブンな評価システム
個人的には最重要なパートです。
月次や四半期での短期KPIを設定し、従業員エンゲージメントサーベイを定期的に実施します。数値データだけでなく、現場の声も含めた多角的な効果測定を行います。
体重計に乗らずにダイエットするのが難しいのと同様に、何らかの指標がないと絶対に施策がうまくいかないです。というか、役員側がうまくいった実感を持てないので、結果として現場もうまくいってるかわからない、といった具合です。
フロンティアではミキワメのエンゲージメントサーベイを使っています。
月一回、社員には負担ですがアンケートに答えてもらい、組織の状態を把握して、組織施策はもちろん、人事異動対象者を見つけ出したり、特定の部署で発生しているハラスメントなどの課題を早期に検出できるように心がけています。
あとは、社員との気軽な会話の中で今の課題点や、生活の上で問題に感じていることは定期的にヒアリングし、できるだけ同じ目線での組織施策を打てるように努めています。
ただ、データもヒアリングもそうなんですが、「生の一次情報」(と勝手に呼んでいます)にはあまり価値がありません。
「その課題は全体として組織の一般的な課題なのか」
「その課題に加えて周辺領域の課題もまとめて解決できるような、美味しい施策はないのか」
など省工数&効果大な施策を帰納的に導けるか、という点が非常に重要であり、ここにマネージャーとしての腕が試されます。
4. フレキシブルなルール設計
原則は定めつつも、状況に応じて柔軟に対応できる余地を残します。例えば、「原則として休日出社は禁止だが、四半期に1回までの特別イベントは許容する」といった具合です。
個人的には、最初の要件定義をじっくり煮詰めるよりも、「ルール自体を柔軟に運用しますよ」と合意した状態で施策をガンガンやる方が性に合っています。
ただ、柔軟だからといってスタッフ間の解釈の差によってルールの運用を変えるのはNGだと考えます。
特にお金周りの施策についてはしっかりコミュニケーションしないと「支給される給与の額が私だけ少ない」などトラブルに発展することもあるので注意が必要です。
5. 戦略的なコミュニケーション
要は社内広報です。
組織のルールがコロコロ変わるとメンバーは不安を覚えます。変更の理由と期待される効果を明確に説明し、施策の実験的な性質についても予め伝えておきます。
細かい話ですが、社内広報についてはできればメールやチャットではなく、朝礼など口頭で話した方がいいです。一方的な張り紙的通知では、通知されるタイミングが非同期的であり、解釈がさまざまになりやすいというのが理由になります。
また、伝えた際の現場の反応もその施策を推し進めるかどうかを決めるにあたって重要な要素です。
まとめ:小さく始めて、大きく育てる
組織施策にマーケティング思考を取り入れる際の鍵は、「小さく始めて、大きく育てる」というアプローチです。
完璧な施策を一度に導入しようとするのではなく、小さな実験を重ねながら、組織に合った最適な形を見つけていくことが重要です。
失敗を恐れずに実験的なアプローチを取り、その結果を適切に測定・評価する。このサイクルを回し続けることで、より効果的な組織施策の実現が可能になるのです。
皆さんも、ぜひ自社の組織施策にマーケティング思考を取り入れてみてはいかがでしょうか?