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【おしえて!キャプテン】#44 時の壁をぶち破れ!コミックファンから見た『マーベル・ライバルズ』


2025年を迎えて既にもう一カ月が経とうとしていますが、
皆さんいかがお過ごしでしょうか。

さて、吉川 悠さんによる「おしえて!キャプテン」今年最初の更新は、マーベルのゲームに関するコラムとなっております!

ゲームが好きな方も、コミックが好きな方も、またはキャラクターが好きな方も、楽しめる内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください!


文:吉川 悠


今回はコミックそのものから少し離れて、NetEase Games社の無料プレイTPS『マーベル・ライバルズ』について、コミックファンからの視点で紹介します!
※今回は動画多めになっているので、音声ONできる環境で読まれることをお勧めします。

『マーベル・ライバルズ』は中国のNetEase社が作ったTPS(3人称視点のシューティング)で、PS5・xbox Series X/S・PCに対応した6人のチーム同士が競い合う対戦型オンラインゲームです。

プレイヤーが操作するキャラクターの性能が役割に合わせて個性化された、いわゆるヒーローシューター*と呼ばれるジャンルの作品で、キャラクターたちの特定の組み合わせによって特別なシナジー効果が発生するなど、深い戦略性も備わっています。

*プレイヤー自身が個性的なキャラクターを操作して、チーム主体の戦闘を行うマルチプレイヤーゲームのこと。「必殺技」が設定されていたり、「ロール」と呼ばれる役割に合わせてキャラクター特性に特徴づけがある。

ビックリするほどかっこいいのに、ゲーム内に収録されてないトレイラー!

正式リリースが、昨年12月5日だったため、東京コミコン直前で慌ただしかった筆者は初動に乗り遅れてしまったのですが、試しにプレイしてみたところ、ゲームとしてもマーベル関連メディアとしても非常によくできていると感じました。

この原稿を書いている時点で筆者はまだ10時間も遊んでいませんが、全体で見るとSteamでの「最もプレイされたゲーム」では4位にランクインしており、発売後1カ月以上経過したタイトルとしては、かなりの勢いを保っているようです。

対応機種の問題でまだ遊べる環境にない人も多いかもしれませんが、次項からはコミック読者の目から見て、気がついたところをピックアップしていこうと思います。
※ゲームの詳細に一部触れる内容がございますので、未プレイの方はご注意ください

過去も! 未来も! 頂点に立つはドゥームなり!

絶大な力を手にしたドクター・ドゥームと、彼の未来の姿であるドゥーム2099の激突によって「時空のもつれ」が発生し、マルチバースは大混乱に陥ってしまった。新しい世界と未知の危機が生み出される中、あらゆる次元から集められたヒーローとヴィランたちは両方のドゥームを倒し、マルチバースを救うための戦いに身を投じる……!

上記が『マーベル・ライバルズ』の大まかなあらすじですが、ゲーム内で各キャラクターの説明を読むとそれぞれにかなり凝ったストーリーが用意されているのがわかります。

しかも一人一人に、他のキャラクターとの絡みを描く小説が用意されているんですが、どうも何らかの条件でアンロックされると続きが見られる仕様になっているようです。(全容を繋ぎ合わせれば、壮大なストーリーになっているのかも……?)

また、ストーリーにのみ登場する非プレイアブル(プレイヤー操作ができない)なキャラクターもかなり作り込まれているので、コミック読者なら「おっ、あのキャラが!?」となることも間違いないでしょう。

特に筆者は『スパイダーバース:スパイダーゼロ』(小社刊)に登場したスパイダーゼロが登場していることにはかなり驚きました。(だってあの子……コミックではまだ10回程度しか登場してないキャラなのに……!)


滅んだ次元の生き残りであり、大いなるウェブの管理者であるスパイダーゼロ。
消えてしまった出身世界の思い出の品でジャケットを装飾している。


さらに、今月から追加されたマップ、ドクター・ストレンジのサンクタム・サンクトラムにはストレンジの愛犬バッツも登場しています。

公式による新マップの紹介。0:23あたりにバッツを抱えたストレンジの肖像画が見える。

ゲーム内でスパイダーマンを選んでバッツに近づくと、「よう、センセー(ストレンジ)が俺にデイリー・ビューグルを読んでくれるんだけどよ。あのジェイムソンってクソ野郎は、お前について嘘ばっかついてんな!」という、独自の会話が発生するそうです。確かにバッツは原作でもスパイダーマンのファンなんですが……いや、芸が細かすぎるのでは!?


口の悪い名犬バッツ。相手が神だろうが魔王だろうが吠えつく、ド根性ドッグだ。

余談ですが、『ドクター・ストレンジ:ゴッド・オブ・マジック』(小社刊)の翻訳の際に、バッツの台詞は意図してべらんめえ口調に翻訳したのですが、『マーベル・ライバルズ』でのバッツの声質が解釈一致してて少し嬉しかったです。

と、こんな具合に、ゲームに何の影響もないところで、こうした小ネタを充実させているので、コミックファンとしては嬉しくなる……どころかやりすぎじゃない? 大丈夫?と心配になります。

もっとも、ここまでやっておいてドクター・ドゥームやドゥーム2099を相手に戦うモードはないどころか、二人がプレイアブルキャラクターになってもいないのはどういうことなんですかね!? キャラクターは随時追加していくということなので、気長に待てということ受け止めましょう(それに、よく考えたら『フォートナイト』の方でドゥームとは散々殺しあったので……)。

また、戦いの舞台となるマップも、おなじみのアスガルドから銀河帝国ワカンダ*、シンビオートの惑星クリンターなどコミックに登場したロケーション揃いです。それぞれのマップで、なぜヒーローたちが戦っているかの理由づけがしっかり演出で説明されているのもまた面白い。

「対戦ゲームなんだからストーリーなんか要らんだろ」で済ませず、対戦後の勝敗を演出するアニメーションにも活かされています。

*銀河帝国ワカンダ……ブラックパンサーが送り出した宇宙探検隊がワームホールを通じて過去に漂着してしまい、2000年間かけて築いた星間国家。2018年創刊の『ブラックパンサー』誌でフィーチャーされた。

さらに1月から始まったシーズン1は、吸血鬼の王ドラキュラの台頭がテーマになっており、これに合わせてファンタスティック・フォーが参戦するということで盛り上がっています。今後も、ゲームのアップデートに合わせてマーベルの世界をどう料理していくのか、要注目です!

永劫の闇がマンハッタンに降りる時、あの“一家”が立ち上がる!


ド派手なデザイン!大迫力の演出!


『マーベル・ライバルズ』のキャラクターデザインは、肉体を極端に強調したデフォルメスタイルが基本なんですが、どこか懐かしさも覚えるシルエットになっています。

この懐かしさの正体は何かと思ったら、90年代にマーベル・コミックを中心に一大トレンドを巻き起こしたスーパースター・アーティスト、ジョー・マデュレイラのアートを彷彿とさせるんですよね。それが意図されているかはわかりませんが、そういう目で見るとあの時代の勢いが思い出されます。

90年代のコミックファンはだいたい買っていたマデュレイラの『バトルチェイサーズ』。
途中で20年くらい休刊していた。

一方で爆笑してしまったのは、ウルト(必殺技)発動の際の掛け声など、マーベルキャラたちの喋りが異常なまでにテンションが高いことです。コミックでも映画でもアニメでもそんなこと言わんやろ!みたいなクサイ台詞がどんどん出てくる。


映画『ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス』でスカーレット・ウィッチの運命に涙した方には、このゲームで彼女が「ピュアーーーーーーッ...ケイオーーーーース!!」と元気に絶叫している様を是非見てほしい……。何もかもどうでもよくなります


また、パニッシャーがリスポーン(一回倒されてから戦場に復帰すること)する際に「ボーン・アッゲイン!」と叫ぶんですが、これもよく考えたらおかしい。それってデアデビルのフレーズじゃん!そもそも、デアデビルだろうがパニッシャーだろうが、作中でそんなこと言ってたっけ!?

極め付けはスター・ロードの掛け声。何を叫んでいるのか全く聞き取れないので調べたら、英語圏でも「スター・ロードが何を叫んでいるかわからない……」という投稿が複数見つかり、それに対して「“レジェンダリー”をレーーーージェーーーーンーーーダリーーーー!って変なふうに発音してるんだ」という回答があって、やっと理解しました。わかりませんって!

ジェフ、なんでお前がそこに...


ジェフ、お前いつのまに足の裏に肉球ができた……

また、プレイアブルなキャラクターのラインナップにどう考えてもオタクが選んだとしか思えないキャラがちょいちょい入っているのが面白いところです。特に、陸ザメのジェフ(ジェフ・ザ・ランドシャーク)が参戦するという情報が出た時は、筆者は頭から信用してませんでしたから……。

ロサンゼルスを爆走する爆走するサメたち! アベンジャーズの出番だ!

ご存じない方のためにご紹介しますと、ジェフは悪の生体コンピューター、モードックが遺伝子操作で作り出した陸ザメのうちの一頭です。
まず陸ザメって何なの……という話になりますが、そもそもは『ウエスト・コースト・アベンジャーズ:あぶない!? 新チーム誕生』(小社刊)に登場した、ただのモブキャラでした。

ホークアイ(ケイト・ビショップ)とホークアイ(おじさんのほう)をはじめとするヒーローたちが、この陸ザメの集団に対処する...…という導入だったのですが、担当ライターのケリー・トンプソンによると、この時限りのネタのつもりだったそうです。

ですが、コマの隅にいる困った(ように見える)顔のサメに、何か感じるものがあったトンプソンは、さらに当時自宅で預かっていた保護猫2頭からもインスピレーションを得て、“ジェフ・ザ・ランドシャーク”を誕生させるに至ったとのこと。

記念すべき、ジェフの初登場コマ。この頃はヒレがあった。

ジェフはシリーズ最終巻の『ウエスト・コースト・アベンジャーズ:怒りのサンダードーム』(小社刊)で登場し、その後はトンプソンが担当する『デッドプール』誌(未訳)に登場し、カルト的な人気を集めてきました……と思っていたら、カルト人気どころか商品化はするわ、個人タイトルのコミックを持つわ……と急激にスターダムにのし上がっていったのです。

今回、『マーベル・ライバルズ』への登場で、また一段と知名度が上がったことと思います。

ケリー・トンプソンの語るジェフ誕生秘話(原語版)


自分のベイビーがグッズ化されて喜んでいるトンプソンのブログ記事(原語版)


なお、ゲーム内のジェフは「ストラテジスト」というカテゴリーの中にいるキャラクターで、仲間の体力を回復させたり地面に潜って泳ぐ能力があります(コミックでそんなことやってないけど!)。

必殺技の「ジェフ参上!」は、一定の範囲内の敵をまとめて吞み込んでから吐き出すという技なのですが、リリース当初は複数の敵を飲み込んでから場外にジャンプし、まとめて道連れにするというハメ技が流行りました。おかげでジェフはプレイヤーたちの間で悪魔のように恐れられていたものです(今は対策方法が浸透済み)。

ジェフはゲーム内の動作もとてもかわいいので、対戦していると下の画像のような気分にならなくもないのですが、ジェフを放置しているとこっちが殺されるので、ためらっている余裕はない! 

これは対戦ゲームなんだよ、ケイト! 撃つんだ!


新アイアンフィスト、リン・リー


もう一つ驚いたのは、格闘ヒーローのアイアンフィストが参戦しているのですが、ダニー・ランドではなく2022年に襲名したリン・リーのバージョンが採用されていることでした。

ソードマスターことリン・リーは、2018年にマーベルとNetEase社によるコラボレーションの一環として、風を操るヒーローのエアロと共にデビューしました。

彼は中国神話の英雄、伏羲(ふくぎ)*の子孫であり、その力を帯びた神剣を振るって戦争の神である蚩尤(しゆう)**と戦う使命を持つヒーローです。彼は『ソードマスター』誌で英語圏のコミックに初登場したあとは、『エージェント・オブ・アトラス』シリーズで活躍していました。

*古代中国神話に登場する神または伝説上の帝王で、三皇の一人に挙げられることが多い。その姿は、蛇身人首の姿で描かれることがある。

**中国神話に登場する神。獣身で銅の頭に鉄の額を持つとされる。

父の残した謎の剣と共に、少年は古代神の戦いに巻き込まれていく!


しかし彼は、2021年に韓国の妖狐ヒーロー、ホワイト・フォックスと共闘した際に、魔物によって伏羲の神剣を砕かれたうえ、崖から落とされて行方不明になってしまいます。

自分が妖狐一族の最後の生き残りと思っていたホワイト・フォックスは、
ソードマスターと共にある謎に挑む!

一方で、アイアンフィスト(ダニー・ランド)に力を与えていた神龍ショウ=ラオは、卵となって眠りについていました。その龍が再誕し、瀕死のリン・リーに“気”の力を与え、新たなアイアンフィストに選んだのです。

崑崙(中国の古代神話に登場する霊山)を揺るがす戦いの中、
ダニー・ランドはある決意を固める!

しかし、リンの両腕には伏羲の神剣の破片が食い込んでおり、彼は2つの力のあいだで苦しみながら戦うことに……こうして、2022年に新アイアンフィストの物語が始まりました。

アイアンフィストとしてのデビューから2年で、大作ゲームのプレイアブルキャラクターとして採用されたので、かなりのスピード感で出世したと言えるでしょう。

謎の新アイアンフィスト登場! ダニー・ランドはその正体を追う。

この紹介で気付いた方もおられるかもしれませんが、マーベルとNetEase社が中国・東アジア圏のために作ったキャラクターが、4年かけて(かなり大きな路線転換はありつつ)やはりNetEase社の大ヒットゲームの一つの顔となったわけです。つまり『マーベル・ライバルズ』は、ここ数年のマーベルが取ってきたアジア戦略の結実と言えるかもしれません。

今回は詳しく紹介できませんでしたが、『マーベル・ライバルズ』で活躍しているK-popアイドルヒーローのルナ・スノウも、韓国のNetmarble社とマーベルが共同で作った、ゲーム出身のキャラクターです。

ルナ・スノウのオリジンを描くコミック。
スターク社の超低温反応技術を使ったコンサート会場で歌うことになった彼女は、
A.I.M.のテロ攻撃から人々を守ろうとする……!

こうした、他メディア出身のキャラクターたちをマーベル・ユニバースに取り込むため、コミック側の試みも進んでいます。彼らの導入初期は、マーベル最初のアジア系ヒーローであるジミー・ウーを中心としたチーム、エージェント・オブ・アトラスがその受け皿となっていました。

「ウォー・オブ・ザ・レルムス」勃発に伴い、ジミー・ウーはアジアのヒーローたちを結集!
 新たなるエージェント・オブ・アトラスが戦いに挑む!


※上記リンクの『ウォー・オブ・ザ・レルムス』(小社刊)は『WAR OF THE REALMS(2019)』 #1-6を収録したコミックのため、エージェント・オブ・アトラスが登場する『War Of The Realms: New Agents Of Atlas』のエピソードは収録しておりません。ご注意ください。(編注)


マーベル/ディズニーは、コミックを発祥としつつメディアをまたぐキャラクター産業となっているのが実態です。アメリカ型のコミックブック文化が根付いていないアジア圏において、映画をまず足がかりにしてから、ゲームを通してキャラクターの浸透を図る手法は、非常に興味深い試みと言えます。

メインテーマのPV。これも非常にかっこいいのに、ゲーム内にない……!

SNSで流れてくる投稿を見ると、『マーベル・ライバルズ』で興味を持った人がコミックショップを覗くようになったという現象も局地的に起きているようです。これを機会にコミックに興味を持つ人が出てくると嬉しいですね。

また、この記事はコミック読者向けに書いているので、ゲームからマーベルの世界に興味を持った方が読んでいたら何が何だかわからないかもしれませんが、これをきっかけにコミックを手に取ってもらえればなによりです!




◆筆者プロフィール
吉川 悠
翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。訳書近刊に『エクストリーム・ヴェノムバース』『マイルス・モラレス:ブリング・オン・ザ・バッドガイズ』『ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・キャプテン・アメリカ』(いずれも小社刊)など。X(旧:Twitter)では「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。


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