おめでとうキリアン・マーフィー『オッペンハイマー』
私、一番好きな映画ジャンルは「ゾンビもの」で、その中でも1番好きなのが、2003年公開 ダニーボイル監督『28日後…』です。
病室で目覚めるとあたりの様子がおかしくて、外に出てみると街は荒廃し、
人の気配がなく…なんてところから始まるベタなストーリーなんですけど、ゾンビ映画にしてはめずらしくロンドンが舞台で、古めかしく仄暗い街並と、恐ろしくもどこか切ないゾンビという存在がとてもマッチしています。
恐怖も緊張感も切なさも希望も、とにかくゾンビ映画の良いところがギュッと詰まった作品。
その主人公役に抜擢されたのが、当時無名だったキリアン・マーフィー。
これまたロンドンの街に似合う、ちょっと影と弱々しさのあるイケメンで、股間丸見えのオールヌードシーンなんかもあって、以来、私は心密かにずっと応援していたんですけど、ちょいちょい良い映画の助演ポジションで出てくるものの、いまいちパッー!!とはせず…。
ですが、ついにクリストファー・ノーラン監督作品で主演かと思ったら(キリアンはノーラン監督作品の常連だったけどいつも助演)、あっという間にオスカーに輝いちゃって、いやー、甥っ子の活躍をずっと見守ってきた叔母の気分で泣けます。
ロバート・ダウニー・Jrやエマ・ストーンのアジア人ヘイト(?)が注目された今回のアカデミー賞でしたけど、キリアン・マーフィーは自分の名前が呼ばれると、ゆっくりと壇上に上がり、5人のプレゼンター全員と右から順番に丁寧に握手をして感謝を述べ、スピーチも立派で、叔母さん、本当に鼻が高かったよ(ノイローゼ)。
ま、そんなわけでキリアンの勇姿が早く観たくて公開を待ち侘びていたんですけど、その反面、クリストファー・ノーラン監督っていうのは「わかったよ、アンタがすごく頭の良い人間だっていうことは!」と、嫌味のひとつも言いたくなるような、ややこしい映画の作り方をする監督でして。
その上、核融合とか核分裂とか原子力とかプルトニウムとか、私、とりあえず今回の人生では理解することを放棄してしまった人間なので、「クリストファー・ノーラン監督のよるオッペンハイマーの映画、しかも3時間!」となると、物理のテストを受ける直前の高校生みたいな感情になってしまいましてね。
せめて体調の良い日にということで、公開から1週間経って、ようやく観に行きました。
実際、登場人物が多いし、みんなが早口で喋り倒して、3時間すらあっという間なほど展開が早くて、多分、私、半分くらいしか理解できてないと思うんですけど。
なので、ちゃんと理解したい人は、史実や登場人物の相関図などをそれなりに事前勉強してから観た方が良いと思います(それに適したnoteを書かれている親切な方もいらっしゃいます)。
私は、事前情報をあまり入れないまま観たいタイプなのですけど。
でもね、半分くらいの理解でも、多分、大丈夫。
結局のところは「原爆の父と呼ばれた天才物理学者ロバート・オッペンハイマーの功績と苦悩」のお話なわけです。
そして私くらいの世代の日本人だと、やっぱりその「苦悩」の部分に注目してしまう。
どのくらい苦悩しているのか?
ちょっと多めに苦悩してて欲しいな。
いや、全く苦悩していないのが事実であるならば、全く苦悩していない人間の物語というのも観てみたい気はするけれど、やっぱり幼い頃から「原爆の悲惨さ」を見聞きしてきた日本人とすれば、せめて苦悩してて欲しい、という気持ちにどうしてもなってしまうものです。
実際にオッペンハイマーがどのくらい苦悩しているのかは、これから観る方のために言いませんけど、物理が不得意でも、人物相関図がざっくりしか把握できなくても、オッペンハイマーの苦悩の総量はきちんと伝わってくる作品です。
それだけでも観る価値がある。
ま、この映画、
カラーのオッペンハイマー視点
・1954年に国家反逆を疑われたオッペンハイマーに対する聴聞会でオッペンハイマーが過去をついて語る
と
モノクロのストローズ視点
・オッペンハイマーと敵対するストローズが1959年の米国商務長官に任命された際にその是非を問う公聴会でオッペンハイマーとの過去について問われる
という2つの視点による映像をコラージュしながら、1920年代からのオッペンハイマーの半生が描かれていく、という時制の複雑さだけ頭に入れてから鑑賞すると良いと思います。その心構えがないと序盤からちょっと置いていかれちゃうかも。
っていうか、私みたいに不勉強な人間は、難しい映画だから全部理解できなくてもいいや!くらいの軽い気持ちで観にいっても良いと思います。それでも演出にしろ、音響にしろ、出演者の演技にしろ、「こりゃあ稀に見るすげー映画だ!」っていうことは十分に理解できると思います。
あ、あとね、ジョシュ・ハートネットやマット・デイモンが普通におじさんになった姿も見ものです。キリアン・マーフィーも含めて、なにげにこの映画、かつてのイケメンたちの夢の共演。
みなさんも、ぜひ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?