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奇跡のような瞬間

音楽の演奏では、
ほんの稀に奇跡のように素晴らしい演奏に出会うことがある。

それは、誰かの演奏会を聴きに行った時だけでなく、自分が演奏している時でも出会うことがある。

まるで音楽の神様が降りてきたような瞬間で、

僕はその瞬間に出会うたびに
「なんだこれは」「一体どうしたんだ?」
と心の中で思うのだ。

今回は、今まで僕がいくつか体験した中の
ひとつを話したいと思う。

僕の通っていた中学校では、学内の生徒たちだけで行われる合唱コンクールが毎年あった。

僕がその奇跡を体験したのが、3年生の最後の合唱コンクールだ。

うちの中学校の3年生は、クラスが全部で4つあり
僕のいたクラスは、20人弱しかいなかったと記憶している。

その中で、ソプラノのパートを歌う女子は5人しかいない。

ソプラノのパートは、メインのメロディーを
担当することがほとんどなので、
そんな少人数で合唱をやるにはかなり難しい。

合唱コンクールは、9月の文化祭の後に行われる。

文化祭で自分がエレキギターを弾いたのを、
うちのクラスメイトや担任の先生も見ていたからか、

合唱コンクールではピアノ伴奏だけでなく、
クラス全体の指導まで任されることになった。

その当時、僕はロック少年だったので、

「ロックと合唱曲じゃ結構違うものだから、
自分に仕切れるのか」と少し不安に思った。

ピアノだって、そんなちゃんと弾けるわけじゃない。

でも担任の先生に、「大島、頼むよ」と言われたので頑張ることになった。

僕がピアノ伴奏したのは、あの有名な「旅立ちの日々」という曲だった。

クラス全体の練習で、歌うたびに
先生が「大島、今の演奏はどうだった?」って聞くので、

「ここはだんだん大きくしたほうが良い」とか
「ここは小さくしたい」とか
「ここの音がハズれてる」とか

結構色々意見が多いから
僕のことを厳しいと思った人もいたはずだ。

僕は、その時に「教えるのって難しいな」と思った。

だいたい合唱コンクールを練習するクラスでは、男子と女子が対立する現象が起きる。

真面目にやろうとする女子と、
反抗したくなる男子とで。

ひょっとしたら世間では、
共通のことなのかもしれない。

仕切ることを任されてる自分は、
真面目にやろうとする女子側にいて、
それ以外に協力的だった男子もいたから
助かったことが多かったが、

いつもは仲の良い友達と、対立することもあった。

よく覚えていないが、
うちのクラスでは大喧嘩が起きた。

記憶にあるのは、
何人かの女子が泣きながら怒っていたことだ。

残念ながらそれしか覚えていない。

そんなことがありながら、僕らは本番に向けて徐々に団結していった。

ついに本番の時になると、
僕らは緊張していたと思う。

次の出番を待つ舞台裏で、クラス全員が集まり
そわそわしていたが、僕はみんな1人ずつハグや握手をしてお互いの緊張を解こうとした。

演奏の本番というのは
そのために準備して頑張った時間が多いほど
気持ちが強くなるものだ。

今回は、すごい長い時間を練習に費やしたし、
その中で辛いこともあったので、かなり強い気持ちで挑んだと思う。

みんなドキドキだった。

僕は、みんなにこう伝えた。

「数えきれないほど何回もみんなで歌ったけど、
もうこのメンバーで歌えるのは、
これが最後だよ」

「あんなに頑張ったんだから、
最後は楽しくいこう」

逆に友達も僕を励ましてくれた。

いざ舞台に上がると、客席には1000人くらいの人がいた。

伴奏をする自分は、ピアノの前に座ると
「もうあとは、どうにでもなれ」と心で言う。

演奏はあっという間だった。

最後の歌のフレーズを歌い終えた瞬間は、
僕はピアノを弾きながら「これは奇跡だ」と思った。

あくまでも僕にとっての奇跡かもしれないけど、その感覚は今でも覚えている。

合唱特有の歌い方じゃなく、
音程もきっちりしていたわけではない。
専門家が聴いたらそういうところに耳がいってしまうと思う。

でも僕が良いと言っているのは、
すごく人間味があって、
何より歌声に気持ちがこもっているところだ。

僕は、
ちゃんと心の底から本気でそう思って発する言葉には、魂がこもっていると思う。

そしてその気持ちが、
地声という普段しゃべるような身近な声で歌うことによって、
すごく自然に伝わってくる。

足りないことはあるけど、
すごく良い歌声だった。

僕は、ピアノで伴奏しながら思わず感動してしまった。

これからの人生で、そういう瞬間に何度か出会うかもしれないが、

この中学3年の合唱コンクールの記憶は、
一生消えることはない。

幸運にも、その時の音源が見つかった。

音質のせいで、生で聴いた時の感覚がちゃんと伝わるかは分かりませんが、

イヤホンだと少し伝わるかもしれません。

せっかくなので、
聴いていだけたら嬉しいです。

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