そろそろ自分なりの「基礎トレ」を考えるときではないでしょうか。
本当ならオリンピック開会式だった4連休、どのように過ごしましたか。私は娘の影響で、今更ながら「Nizi Project」を最初から最後まで一気に見ました。これまでK-POPもアイドルもほとんど興味がなかったですが、そんな私でもとても楽しめました。
プロとして長く続けるためには、基礎トレが重要である
簡単に「Nizi Project」を説明すると、TWICEなどをプロデュースする韓国の大手芸能事務所「JYP」による、日本人ガールズグループのオーディション過程を番組化したものです。2019年の1月ごろから各地で行われたオーディションには約1万人が参加。2020年7月に最終審査を通過した9人が発表となり、「NiziU」としてデビューすることが決まりました。
K-POPに詳しくない私でも楽しめた理由は、オーディションに登場する、JYPの社長であり現役のアーティストでもあるパク・ジミョンさん(J.Y.Park)にあります。オーディションや強化合宿で、パク社長がアイドル候補生を褒めたり叱ったりするのですが、いつも良いことを言うんですよね。
例えば、シーズン1の第2話と第3話で、パク社長が「基礎トレ」の大切さを強調するシーンがあります。今でも現役のアーティストとしてステージをこなすパク社長は、毎日30分間、キーボードを使って歌の音程を合わせる「スケールトレーニング」を続けているそうです。
地味な基礎トレですから、面倒に思う日もあります。また、そんなトレーニングをしなくても歌が上手な人もいるかも知れません。しかし、そのような人は、一時的には活躍するものの、長く続けることはできないのです。
パク社長は、夢に向かってオーディションに参加した若い彼女たちに、こう説きます。弱い自分にムチを打って、地道な基礎トレをコツコツとこなせることが、プロとして長い間活躍するための秘訣なのだ、と。
「プロとして長く続けるためには、基礎トレを継続することが重要である」
これは、歌手やアイドルに限らず、すべてのプロフェッショナルに言えることではないでしょうか。そこで今回は、プロとして長く続けるための「基礎トレ」について、考えてみたいと思います。
なぜPRプランナーは新聞5紙を読み比べるのか
私は、一番最初のキャリアをPRプランナーとしてスタートしました。PRプランナーとは、クライアント企業の商品やサービスを、新聞社やテレビ局などメディアの人たちに売り込んで、記事や番組で取り上げてもらうための企画を考える職種です。
先輩から教わったPRプランナー基礎トレは、毎朝「新聞の中央5紙」を読み比べることでした。新入社員の私は、「中央5紙ってなんですか?」というレベルからスタート。ちなみに中央5紙とは、朝日・毎日・読売・日経・産経の全国紙と呼ばれる新聞のことです。毎日5つの新聞を読み比べ、世の中のニュースがどのように報じられているかを観察します。
大きなニュースがあれば、中央5紙すべてが取り上げます。一見すると同じような記事なのですが、読み込むと新聞社のスタンスや視点によって違いがあるのが分かります。また、先輩には「記事に書かれなかったことを読め」と言われて、最初はなんのことやらと思ったのですが、徐々に、実際に起こったことと、限られた紙面で報道される内容には違いがあることも分かってきました。
このように毎朝中央5紙を読むことで、メディア特有の「フィルター」のようなものが体に染み付いてきます。これが、PRプランナーとしての企画力につながるのです。「中央5紙読み比べ」のような基礎トレを続けることは、PRプランナーとしての「スケールトレーニング」だと言えるのではないでしょうか。
誰もいない教室で行われる、先生の基礎トレ
このように、どんな分野にも、基礎トレが存在するのではないかと思います。
ある時、小学校の先生に「学校の先生が毎日続けている基礎トレって何ですか?」と聞いたことがあります。その先生は、こんな風に答えてくれました。
この話を聞いて私は、教師というのは、30人の生徒に教える存在ではなく、1対1の関係性を30組持っている存在なのだな、と感じました。誰も居ない教室で行われる先生の基礎トレ、すごく素敵ですよね。
このように、プロの方に基礎トレを聞くことで、プロとして成功するための本質が見えてくる気がします。
PRプランナーの本質は、メディアのフィルターを持つこと。教師の本質は、一人ひとりとの関係性を保ち続けること。基礎トレは、小手先のテクニックではなく、長くプロとして続ける上で大事なことを思い出させる効果もあるように感じます。
意外と苦戦した、自分の基礎トレ探し
では、今の自分の基礎トレは何なのか。改めて自分に問いかけてみると、これが意外と難しい・・! 私の仕事は、ブランディングやマーケティング分野のコンサルティングですと言うことが多いのですが、本質的にはファシリテーター(プロジェクトチームの促進役)ではないかなと思っています。
ファシリテーターとして、日々行っている基礎トレは何か?と問われれば、その答えは「次の日の会議を事前にシミュレーションすること」です。1日の終りに明日のスケジュールを見て、会議のテーマや参加者を頭に描き、どのように進みそうか、何が必要か、どこまで行けば会議が成功かを、頭の中でシミュレーションするのです。
私は、会議の時間が意味なく伸びるのがすごく嫌いで、例えば3時間以上ワークショップを行う際は5分単位の細かなタイムスケジュールをエクセルで作るタイプです。日々の会議ではそこまではやりませんが、シミュレーションしないとなんだか落ち着きません。あえて言えば、この「会議シミュレーション」が自分にとっては基礎トレかな、と思いました。
ジョブ型雇用時代に大事な、自分の「基礎トレ」探し
最後に、強引に日経COMEMOのテーマ「#ジョブ型雇用で変わることは?」に結びつけて、今回の記事を終わろうと思います。
「ジョブ型雇用」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。私は日経で読んで、初めて知りました。
ジョブ型雇用は、働く場所や裁量の自由度が高まる一方で、自分自身でスキルを磨き続ける必要があると言われています。これまでは会社が研修や昇進など、成長の機会を用意してくれました。
しかし、ジョブ型雇用では、プロとして社会で戦うためには、自分で自分を成長させる必要があります。パク社長の言葉のように「弱い自分にムチを打って、地道な基礎トレをコツコツとこなす」ような、自分を律する力が重要になるのです。
その時に大事なのが、自分なりの基礎トレです。文章のプロになりたければ、noteを書き続けるのも基礎トレになるかもしれません。アイデアのプロになりたければ、毎日一つアイデアをTwitterに書き込むのもよいかもしれません。
これからは、どの会社に就職するのかではなく、何のプロとして生きていくのかを自分で考え、その道を長く続けるためにどのような基礎トレが必要なのかを、一人ひとりが考える時代になります。基礎トレを早いうちから見つけて習慣化することができれば、大きな武器になるでしょう。
「プロとして長く続けるためには、基礎トレを継続することが重要である」
Nizi Projectでパク社長に教えてもらったこの言葉を胸に、私も、会議の事前シミュレーションと、月2回のCOMEMOの連載を続けていこうと思います。
(Twitterも平日は、ほぼ毎日投稿し続けています)