【人間観5】左脳は誓いを破る理由を簡単に作り出す
分離脳患者の実験を詳しく見た。
左脳は「知ったかぶり」である。「自信満々」に行動に理由をつける。本当の理由を知らなくても、もっともらしい理由を簡単に作り出す。
これは分離脳患者に特有の傾向と思われるかもしれない。
しかし、同様の傾向は一般の人にも見られる。右脳と左脳が分離していない人にも見られる。
先に挙げた中村うさぎ氏の事例を詳しく見てみよう。
中村うさぎ氏はシャネルに入店した途端に服を買いたくなる。しかし、中村氏は「もう二度と、シャネルでムダ金を遣いません」と誓っていた。服を買う行動はその誓いに反する。絶対に服を買わないと誓ったのである。(さらに、予約していた服をキャンセルすると決めたのである。)
左脳はどうするか。服を買うための理由を作り出すのである。
「このジャケットを買えば、もうひとつのヤツをキャンセルしやすくなるわ。そうよ、あれをキャンセルするためにも、ここでひとつくらい買い物を……」
(中村うさぎ『ショッピングの女王』文藝春秋、Kindle本のためページ数不明)
服を買う行動は自分の誓いに反する。しかし、左脳は買う理由を作り出すことが出来る。〈他の服を「キャンセルしやすく」するために買う〉のだと。〈それは「キャンセルしやすく」するためだから誓いには反さない〉のだと。
左脳は困らない。左脳は服を買う行動に理由をつけることが出来る。自分の誓いに反する行動にすら簡単に理由をつけることが出来る。
この事例は分離脳患者の事例に似ている。
分離脳患者は、左脳が見た「にわとりの足」とそれと関係ない「シャベル」とを簡単に関係づけた。
「ああ、それは簡単なことですよ。にわとりの足はにわとりに関係があるし、シャベルはにわとり小屋の掃除に必要だからです。」
(M・S・ガザニガ『社会的脳』青土社、98ページ)
「シャベル」は本当は「雪景色」と関係あった。しかし、左脳は全く関係ない「にわとりの足」「にわとり」と「シャベル」とを簡単に関係づけた。「シャベルはにわとり小屋の掃除に必要だ」と「分かる」のである。
中村うさぎ氏も〈他の服を「キャンセルしやすく」するために買う〉のだと理由をつけた。
まず、中村氏に服をもの凄く買いたい情動が生じる。それに合わせて、意識は理由をつける。服を買うという行動が決まっているのだから、理由づけがとんでもなく不自然でもいい。〈服を買わないために服を買う〉という不自然な理由でもいい。
行動の原因になる情動がある。情動が原因になった行動に意識が理由をつける。意識は、本当の理由を知らなくても、理由をつけることが可能である。本当の理由と関係なしに、理由をつけることが可能である。
例えば、「ダイエットをする」と誓ったとする。ところが、仕事帰りにケーキが目に入ってしまう。食べたい情動が発生する。すると、意識が理由を作り出すのだ。
「今日は仕事を頑張ったから、ケーキは食べていい。ダイエットは明日からにしよう。」
そして、ケーキを食べる行動が生じる。
このように、「食べていい」理由は簡単に作り出せる。誓いは簡単に破ることが出来る。
多くの場合、永遠に「明日」は来なくなってしまう。
似たような経験は多くの人にあるだろう。
意識(左脳)は誓いを破る理由を簡単に作り出す。
私達も、誓いを破る理由を作り出すことが出来る。もっともらしい理由を簡単に作り出すことが出来る。
だから、誓いは守られない。
だから、ダイエットは成功しない。
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