先生たちの夏フェス!「Teachers'HUB」(7)pick up セッション②
〈3―C〉私立の一分〜理念と使命と、実践と〜
全国に約200校存在する、私立の小学校。会場の新渡戸文化小学校も含めた私立小学校では、どんな理念が語られ、どんな使命感のもとにどんな実践がなされているのでしょう。私立小学校コミュニティである「192Cafe」の中心メンバー、吉金佳能先生(宝仙学園小学校教諭)、秋山貴俊先生(成城学園初等学校教諭)、遠藤崇之先生(新渡戸文化小学校校長補佐)と特別セッションです。参加者との意見交換なども行われました。ここでは遠藤先生のお話を中心にダイジェストで掲載します。
新渡戸文化小学校について
新渡戸稲造さんはすごい人だったんですね。映画「窓ぎわのトットちゃん」に出てきた小林先生は、リトミックという音楽教育を実践した人なんですけれど、リトミックを作った人はエミール・ジャック・ダルクローズという名前の人で、小林先生に「ダルクローズに会いに行きなさい」と言ったのが、新渡戸さんなんです。
新渡戸文化学園では「Happiness Creator」という教育目標を掲げています。
子どもたちには「自律」という言葉をキーワードに、自分の周りをよく見て考えて判断して行動ができる人になろうと言っていますが、ただそういう人になるというイメージは、小学生には難しいので、小学校の教員と話し合って「Happiness Creator」になるための12の学習者像を掲げています。こういう人になることを目指して欲しいと。具体的に言うと、大きく2つの話になります。
プロジェクト型の学びというのが1つ。新渡戸では、総合的な時間をプロジェクト型の学びとします。修学旅行のことは「スタディツアー」と呼ぶんですけれど、小学6年生は普段なかなかいかない場所に行きます。
例えば、震災のことを学びながら、その震災の後の復興というか、新しい人生を切り開くためにどんな活躍があるか、仕事があるか、現場に行って理解する。プロジェクト型の学びの実践です。
もう1つが全校ミーティングです。学校の仕組みやルール、行事やイベントを子どもたちの発案で作ったり、変えたりすることを全校単位でやっています。クラスで話し合ったり、最終的には代表者が一堂に介してそのことについて話し合います。教員や保護者の意見もとり入れながら。
この2本を柱に新しい学校のあり方をしているところです。
私立だからできるという話、うまいことしか言ってないんじゃないかとも受け取られがちですが、実はそんなことはなくて、すごく悩んでいるし、うまくいかないこともたくさんあるんですよね。
悩みというところでは、ピンとこない方もいると思うのですが、私学あるあるで、子どもたちの少子化。
日々いろんな改善や実践をしていますが、子どもは減り続け、100万人どころか、2024年には70万人を切るんじゃないかと言われています。
東京都は2022年に91万人。結婚される人数も下がったということで、そんな時代に我々は教員をしています。
新しい学校も増えてきて、我々私学はどんな存在意義なのか、社会貢献ができるのか真剣に考えるようになっています。私学は何を強みにして何をするべきかを改めて考えないといけないです。100年前のビジョンから引き継ぐべきところもあるし、じゃあ次の100年に向けて何をするべきなのか、日々悩んでいるところです。
先生たちによって思うところがあると思いますが、私は公立の先生を経験してから新渡戸に移ってきました。公立の学校で感じていた苦しさや、もう少しこういうことができたらいいのにという思いが結集しているというのはありますよね。
同じ気持ちを共有してもらえたらうれしいなと思うんですが、今まで一人で頑張ってきた方もいれば、こういうことをやりたいという思いを持ってきた方もいるでしょう。皆さんの中には、公立の先生も多いと思いますが、みんな、苦しさというのはありますよね。
「新渡戸だからできるよね」をやりたいとは思っていなくて、それを公立に持って帰れるような実践をしたいと、新渡戸では、みんな本気で思っていて、ここを実験台として、公共に還元したいと考えているんです。
今年の3月に、うちの学校で合宿研修をしました。
3月の最終の金土で新しく今年度に入ってくる先生たちが先取りして、全員で1日中対話するという研修なんです。
そこでは今うちの学校が目指している方向性とそれに向かうにあたっての課題、今ぶち当たっている課題についてどう乗り越えていくのかということについて、それこそ1つポリシーを作ったんですね。その時もより話し合って。
私立だからできるのかもしれないですが、1つのビジョンに向かって進めることをやろうと思ったら、それができるという意味では、やりやすい環境かもしれないですよね。
自分が学校に入ってみたら、ほかの先生たちは本当に良い方が多いなということを現場で実感したんですね。そこで、自分がこれからいい先生を目指すよりも、この先生たちが輝けるような環境を作りたいと思いました。
この学校に出会ってしまいまして、いろいろと新渡戸で実現していくようになって、自分の中にそういうミッションを持っています。
公立でも私立でも、子どもを育てていくという同じ目標を持った仲間であることに変わらないと思っています。ぜひ皆さんと繋がって、より良い教育を作っていけたらと思っております。
参加者からのコメント
「公立も私立も子どもたちは特性があるわけですが、本来学校の中では子どもたちと協同する体制が作れないといけないのですが、私立も同じですよね」
「私は公立なのですが、公立からすると、私立はキラキラして見えます。私立の先生から見て、公立の先生はどう見えているのかというのは興味があります」
「私立は研修がないので、授業という意味では、公立の先生のほうがすばらしいと思っているし、正直、研修システムもうらやましいです」
「私立でしか働いたことがないですが、公立は自治体次第なところがかわいそうだと思います。キラキラしている人もいれば、横並びじゃないとダメですという人もいるし。頑張っている先生が頑張れる環境もあれば、『公務員だから』という環境もあるのかなって思うし。私立はいろんなことができて幸せだなと思うけれど、やっていることは、実はそんなに変わらないのかなと思います。公立の研修制度はやっぱりうらやましいなと思います。自分を出すというところで、公立で教えることに窮屈さや悩みを感じていたら、私学という選択肢もあるんじゃないかなと思ったりもします」
「公立です。ポリシーや理念のお話が出てきましたが、自律というのが、教員たちの対話の中で生み出されて納得されたものだということで、共通理解されているところにすごくパワーを感じました。なぜかというと、私たち公立は、その多くが校訓、教育目標にピンときてなかったり、覚えてなかったりしているからです。そういうところから、もう1回軸となるキーワードとか、理念とかそういうものを大事にしていくところからやっていくといいのかなと思いました。研究授業では、おっしゃる通り、単発ですごく魅力的な授業をする先生もいらっしゃいます」
「理念とかに関してですが、公立で教育目標とか、学校経営計画などを校長先生が最初に話されるんですけれど、みんな聞いていなかったりということもあるので、それを変えたいです。そういうメンバーの中でのポリシーメーキングには共通項があるんですね。その共通項って何っていうのをみんなで言葉にしていくんですけれど、例えば主体性を大事にしようとか、友達への思いやりを大事にしようとかっていうのをみんなで話し合った上で共通項を生み出していくんです。公立は異動などがあるので、メンバーが毎年結構変わるので、メンバーが変わったら作り直して、去年と今年で共通項はここだよねっていうのが理想としてはあるんです。でもやっぱりみんなピンとこないところがあって。しかもそれを定期的にやらないと、流れてしまうんですね。ポリシーを作ることはなかなか難しいんだなって。校長先生はみんなで話し合いをした後に、『じゃあ今年の学校経営目標は〜』って話すんですけれど、みんなの思いを汲んで考えたという話をしてくれたのが一筋の光明ではあったので、感謝はしました」■