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【②手話対応できこえない方を受け入れ難いジレンマ】聴覚障害者とスキューバダイビング(プロダイバー✖️手話通訳士の目線から)
今回はダイビングサービスの経営者目線で、きこえない方や手話を使うお客様の予約を受けたくても受け難いジレンマについてです。このジレンマは、多くの人が気づいていない、とても難しい問題なのです。
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私はおそらく、全国でただ1人のプロダイバーで手話通訳士の資格所持者と思います。(関田昌広の手話通訳とダイビングの活動などはコチラもご覧ください。)
過去記事【①ほとんどの方が気がつかない課題】聴覚障害者とスキューバダイビング(プロダイバー✖️手話通訳士の目線から)
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まず大前提、私が手話通訳士の資格を取得したのは、きこえない方や手話を使う方が、ダイビングを安全に、楽しく、そしてストレスなく学んでほしいと思ったからです。
手話を学ぶことは、ろう者やきこえない方の文化を学ぶことにもなりますし、言語が使える使えないこと以上に、スムーズに接することもできるようになります。
ダイビングは、やり方を間違えると生死に関わるレジャーです。できるだけ信頼をもって講習を受けてもらいたい。そういう気持ちで、手話を学んできました。
ですから、きこえない方や手話を使う方をなるべく多くお受け入れしたい気持ちは強いです。
ただ、とはいえ、それができ難い事情があるのです。それが「ジレンマ」です。
具体に入ります。
「全国からお客様が来る」「日本で唯一の手話通訳士のダイビングインストラクターがいるショップ」と人にお話をすると、「人気店で良いですね〜」「儲かりますねぇ〜」「商売繁盛」と喜んでくれます。
でも、正直なところ、それは大きな誤解です。
何が誤解なのか?結論からリスクを恐れずストレートに言うと、きこえない方や手話を使うお客様を手話対応でお受け入れすることは、わりに合ってないのです。儲かってないんです。
まずそもそも私のお店は正直、人気店です。(偉そうにすいません…)ただでさえ混んでいるんです。いつも賑わっていて、特に夏や秋はすごく混雑します。そのため、予約のお申し込みの半分くらいは、お断りせざるを得ない状況です。週末ともなると、予約お申し込みの70%くらいはお断りしています。
きこえない方や手話を使う方も、夏や秋にダイビングを楽しみたいですよね。でも、現状では、混雑がひどくて、なかなか受け入れられないのが現状です。
私のお店は上記理由から、ダイビング業界でも珍しく、曜日や時期によって料金が変わるシステムを採用しています。これは、航空券やホテルと同じように、週末や繁忙期は料金が高くなり、平日や閑散期は料金が安くなる仕組みです。
このシステムによって、混雑状況を調整し、できるだけ多くのお客様に快適に楽しんでいただけるようにしています。
またこの他に、スタッフ指名やマンツーマン対応にするとUPチャージがかかるシステムもあります。こうすることで、一般のお客さまをできるだけ快適にご案内したいと考えています。
じゃ、手話対応はどうでしょうか?
「あ、ろう者の方ですね!手話対応でご希望ですね!スペシャルニーズ対応になります。そうしますと、弊社の代表関田が講習を担当します。マンツーマンとスタッフ指名、手話対応についての特別プラスUP料金を1人1日1万円いただきます〜」
コレ↑って理解されるでしょうか?
このUPチャージをお客様に請求できるでしょうか?
ろう者やきこえない方から理解を得られるでしょうか?
またそうする事を、私が望むでしょうか?
答えは、ノーです。
価格転嫁し難いのです。だからこそ、「ジレンマ」と記載したのです。
少し話の角度を変えます。
日本では、手話は「福祉」の面から語られることが多いです。つまり、手話を使うろう者の多くは、障害者とみなされ、公共機関では割引が適用されることが多いのです。
例えば、車椅子を使う人が駅や電車でサポートを受ける場合、追加料金は発生しません。また、盲導犬を連れた人がレストランに入っても、盲導犬分の料金は請求されません。
このように、福祉の観点から考えると、特別なニーズ(そのような言葉表現をお許しください、ここでは分かりやすく使います)に対応する際に、割引はあっても、追加料金を請求することは一般的ではありません。
実際、ろう者のお客様から一番よく相談を受けることが、「障害者割引ありますか?」です。
さらに下世話な話ですが、私は手話通訳士になるために少なくとも6年間は猛勉強をしました。地域の手話講習会などにももちろん参加させていただきましたが、有料の手話塾にもたくさん通いましたし、ある意味で本業を削って時間を割いて、手話を学んできました。同僚やスタッフにも協力してもらって、なんとか時間を作りました。社長という立場だったので、周りの理解も得やすかったのかもしれません。
そうして手話通訳士になり、ある意味で特別なスキルを持ったダイビングインストラクターになった。で、それを身につけるのに多くのコストがかかっているんだから、価格転嫁するのはビジネスの世界では、当たり前ですが、現実にはなかなか難しいんです。
もっと掘り下げると、私のお店は一般私企業です。お客様に本来あるべき価格転嫁がなされない場合、受け入れる企業側に負担がのってくるということです。
正当な価格転嫁と、正常で適切なシステムではないと、持続可能(SDGs)なビジネスモデルにならないし、後継者も作れません。たまたまそこにいるスーパーでミラクルな人材(自分自身で言って…ごめんなさい)の個人負担に頼るような仕組みは、良いとは思えません。
次回の記事では、このことを踏まえてさらに私のお店がこれまでやってきた対応や今後の課題解決へのプロセスについて考察を深めていきます。