2024-11-25 【Manager's tweet】
経営者は孤独だとよく言われます。「自分は会社を正しい方向へ導いているのか?」 「刻刻と変化する未来に立ち向かうことのできる強い組織を育てているのか?」 経営者としての自分の資質や能力に不安を抱いても、まわりに気兼ねなく相談する相手がいないことがほとんどです。アイパークインスティチュートは小さな会社ですが、施設も顧客の規模も大きく、経営にそれなりのストレスがかかります。そこで私は定期的に外部の経営者と歓談する機会をいただき、視野を広げて、すこしでも経営の力をつけ、その幅が広げられるように努めています。先日はある大手医療診断薬メーカーの社長様と歓談しました。
その方は古風な社風をもった日本の会社のグローバル化を推進してこられました。その優しい目と物腰柔らかな外見からは想像できないくらい、会社を世界で戦えるように激しく変革してこられたようです。以前に買収したアメリカとヨーロッパの会社は、彼がCEOになるまで、同じ会社なのにそれぞれ全く別々の戦略で動いていました。彼は世界で戦略を一つにするために、賛同しない経営陣を入れ替え、日米欧の国際チームが一体となって取り組める体制を組みました。それまで同じ製品を市場に届けるために、それぞれの国のチームが別々に規制当局と交渉していましたが、この新しい体制によって、優先するべき市場順に、まずアメリカ市場に対して、すべての国のチームが一丸となって上市を目指すようになりました。「日本にはすばらしい技術を開発する力があり、それをきめ細かく製造に持っていく職人気質がある。一方で、アメリカのチームは規制との交渉能力、ビジネスを拡大する能力に長けている。ヨーロッパは学会や病院関連のオピニオンリーダーをまとめあげるのが上手だ。」 それぞれの力を組み合わせた結果、低迷していたその会社の売上は急成長したようです。日本発でグローバル化に成功している会社の一つの共通点は、会社として戦略が一つでありながら、内部で各国の得意分野に応じたすみわけと協力統合体制ができていることです。
日本の技術やものづくりの強さは、日本型の教育によって育まれたものですが、その教育が、グローバルビジネスや経営の足かせとなっているのではないか、と私たちは語り合いました。日本の従業員は課題ややり方を伝えると、そこまでやらなくていいのに、というくらい細かい仕事をするが、新しく問題を定義し、そこに意味を創造することできる方は極めて少ない。優れた技術があるにもかかわらず、日本がビジネスモデルで負けてしまう根本的な原因はここにあるのではないでしょうか。この話をしている際、何年も前にドイツに住んでいたときに出会った日本人ピアニストとの会話を思い出しました。彼女は日本の高校を卒業後、ドイツのエッセンにある有名な音楽大学に入学しました。「技術的には私の方が上だと思う」と彼女は話しました。「でも、ドイツ人のクラスメートの中には、テクニックではない自分の世界を持っている人がいる」。アジア人のクラスメートの多くは3歳でピアノを始め、技術的にも優れていましたが、他の国の生徒たちはもっと遅い時期から自分の意志でピアノを始め、限られた技術で自分を表現しようとしていました。「同じ楽譜を弾いていても、奏でられる音楽がまるで違う。私はミスなく楽譜通りに弾こうとしますが、彼らは楽譜を通じて自分自身を表現しているのです」。
企業においても、日本では技術スキルの熟達に重きをおいており、より深く技術を知っている方が昇進して上司になることが多く見受けられます。しかし技術スキルとマネージメントスキルは全く別物です。マネージメントスキルとは、人をみて、評価し、それを伝えられる能力であり、「企業のグローバル化の中で益々多様な人材に対処する上司の力が求められています」。また従業員側の仕事に対する態度も日本と欧米で異なっているのではないか、と私たちは経験を共有しました。業績評価において、欧米の従業員はその場ではハードな交渉をしますが、それが終わると、その会社で仕事を継続するか、退職するか切り替えがドライで素早い傾向があります。一方で、日本人は仕事に対してよりウェットで、言葉で納得して、評価を行動に落とし込むのが極めて難しいようです。そのため上司は普段からきめ細かく粘り強い対話が必要であり、「世界一人事評価が面倒な国民ではないか」、と彼は笑っておられました。日本の従業員の姿勢がウェットなのは、日本人にとって仕事とは人生そのものであり、生きがいである方が多いからかもしれません。日本の会社は、この日本人特有の仕事へのコミットメントの強さを生かしながら、急速に進化するグローバル産業に適したスキル、制度、組織を創造していかなければなりません。
企業のグローバル化に直面し、スキル、システム、組織の変革に取り組んでいる日本のビジネス・リーダーと話ができたことは、刺激的で励みになる経験でした。コストカット、効率化、人員削減、など今の日本は縮小均衡の罠に陥っています。大切なことは、従業員と共に経営者が成長して、この罠から抜け出して、新しい価値を市場に創造していく挑戦をすることではないでしょうか。解決策が決まっていない問題に挑み、その問題を新たに定義し、新たな意味を与えること。一見孤独な闘いのようですが、多くの方を巻き込んで協力し、予測できない未来を創っていく経営者の仕事は、とてもやりがいのある仕事に思います。それがアイパークでの仕事ならなおさらです。