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#1 ハートに火をつけて…… Light My Fire


「レコードを残しておくか、処分してしまうか……」 部屋の大掃除をすると、いつも悩む問題だった。音楽ソースの中心がアナログからデジタルへと移り変わっていくとともに、僕のコレクションからもレコードがどんどん少なくなっていった。

僕は一時期オーディオに凝っていたことがあり、かなり本格的なレコードプレイヤーを持っていたが、数年前にちょっとした故障から破棄してしまった。それ以来、どうしても捨て切れなかった100枚ほどのLPレコードが、書棚の隅にひっそりと置かれたままになっていた。

今回の大掃除で僕はついに意を決して、これらのレコードを処分してしまうことにした。かつて何度も針をトレースさせた愛聴版を捨てるのには抵抗があったが、買い取ってくれる店もある。また誰かの手に渡って聴いてもらえるなら、それはレコードにとっても幸せなことに違いない。

そんなふうに考えながら、僕はオフィスの近くにある中古レコードの専門店に入った。お店の人に買い取ってもらう方法などを聞くためだった。その前に、どんな音楽を扱っているのか気になってレコードの棚をのぞいた。そこには独特の匂いとともに懐かしいジャケットの数々が並べられていた。

最初はただ何となくパラパラと眺めていたが、しばらくすると夢中になっている自分に気がついた。僕はいつのまにか60年代から70年代にかけてロックの一時代をつくったアルバムのコーナーにくぎ付けになっていた。多少はノスタルジックな思いがあったかもしれない。いまさらレコードの必要性を感じることなどないはずだ。でも、圧倒的な存在感をもつジャケットのアートワークを見ているうちに、僕のなかの何かに火がついた。

店を出たとき、僕の手にはレコードの入った袋があった。中身はドアーズとヴェルベット・アンダーグラウンド。中古だから安かったけれど、とても楽しい買い物だった。

次の週末、ネットショップで購入した新しいレコードプレイヤーが自宅に届けられた。僕はターンテーブルにレコードをのせ、ゆっくりと針をおろす。チャリチャリと針が進むノイズのあと、アナログ音源ならではの懐かしいオルガンの響きがリビングルームいっぱいに広がり、ジム・モリソンの歌声がよみがえる。曲は、ハートに火をつけて。僕は踊り出したい気分に包まれながら「やっぱり、レコードっていいじゃん」なんて軽く言ってみたりした。


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