しょむ系です。 ~泡沫候補じゃないってば。orz~

目次

◎毎日が個人演説会
◎たんぽぽ党
◎命懸けの選挙戦
◎スポーツマンシップ、「さわやかに」散る
◎二院クラブの政党助成金受領 ~政治参加を否定する供託金制度~
◎泡沫政党に求められる事 ~日本民政党全国大会~
◎ファンシーな街宣車
◎岡山刑務所糾弾活動
◎岡山右翼・街宣車事情
何故「しょむ系」に注目するか?~あとがきに代えて~

まえがき

 「しょむ系候補」とは、諸派・無所属候補を表す、「泡沫候補」に代わる造語である。「泡沫候補」の言い換えの言葉としては、「インディーズ候補」等も有名である。

 しょむ系候補・政党の中には、現職の議員を輩出し、決して泡沫とはいえない勢力も存在する。今回は主にこれらの候補・政党をクローズアップしていきたい。又、地方に蔓延る右翼勢力についてのレポートも付記する。

 尚、編集には「あくべん」(北方1号)氏が協力してくれた。この場で感謝の意を表したい。

◎毎日が個人演説会

 2009年松江市議選に、異色の候補が現れた。彼女の名は渡部美津子。「税金の無駄遣いを無くす」をスローガンとする市民オンブズマン出身の議員だが、ポスターは袴姿の全身写真、そして個人演説会は、選挙事務所で毎日やっているという。しょむ系候補観察家としては、行かない訳にはいかなかった。

 渡部は八雲村議を経て松江市議に当選。八雲村から松江市に引っ越し、引き続き市議選に出馬し当選したという異色の人物で、特に市長の交際費問題では、行政訴訟を連発してローカルニュースを賑わせ、全県的に一定の知名度があった。

 しかし、個人演説会に参加したのは自分1人。マンツーマンの個人演説会は、先ず少数会派の批判から始まった。1人会派の彼女にとって、会派の部屋の割り当てには相当不満があったようで、採決行動が比較的一致している共産党に対しても、批判の矛先は向けられた。

 「では1番信頼出来る市議は誰ですか?」と聞くと、彼女は真っ先に自民党の市議会議長を挙げた。「意外でしょう。でも彼が1番信頼出来るのよ。」と明るく答えた。水道料金値上げに関しては自民党と共闘するなど、「税金無駄遣い一掃」だけではなく、議会内では現実的対応をしていた様である。

 結果は再選ならず惜敗。当日選挙事務所を訪れてみると、さぞ落ち込んでるかと思いきや、カラッとした口調で「後継者を育てられなかったのが唯一心残りだけど、これでやっと肩の荷が降りたわ!」と明るく答えた。自分は2年後の県議戦への出馬を強く勧めたが、「余り気が進まないけど、まあ考えとくわ。」と答えるに留めた。

 今後の活動が期待されたが、落選直後に彼女は急逝。サバサバした性格に見えたが、内心には重圧を抱えていたのかも知れない。


◎たんぽぽ党

 岡山県和気郡和気町は、県の南東部に位置する人口1万5千人程の町。和気清麻呂や閑谷学校、棚田などで名高い、歴史ある町である。そこに『たんぽぽ党』という、不思議な名前の政党が活動している事を知った。しかも現職町議会議員が居るという。これは是非とも取材したいと思い、一路和気町へと向かった。

 駅を降りると、そこは一面に広がる田園風景。「和気行っても和気行っても青い山」と、種田山頭火の句で駄洒落てしまいそうな程だ。

 『たんぽぽ党』の党首は柴田淑子(昭和10年生)。党首にして唯一の党員、つまり一人一党である。幼少期に戦争を体験し、平和憲法の大切さと、軍の権威主義への反感を思いながら育ったという。岡山大学法文学部専攻科修了後、社会科・商業科教員を22年間務め、その後共産党町議として活動するが、締め付けの強い党組織と反りが合わず、1期で離党し『たんぽぽ党』を結党した。現在は町議会副議長も務める。党是は平和憲法の堅持や国際協調主義など。党名は「人々に身近で、踏まれても倒れない力強さを持った政党」という意味で名付けたとの事。

 彼女の元気の源は『実践倫理宏正会』主催の『朝起会』。毎朝5時から(教育勅語に基づく)家庭のあり方について学んでいるという。又、岡山大学法学部科目等履修生として、町政研究にも余念が無い。

 国政については、「政党は何処も良い事を言うが、結局は自由が無い。自民党も民主党も小沢新党も変わらない。」とバッサリ。「町議が1番地域に密着しており、住民のための政治が出来る」と、町政に意欲を燃やし続けている。福祉・教育関係は言うに及ばず、生活道路についても視察を徹底し、図面を用いて改修に努めている。一方で、利権や腐敗が横行する議会で、多数決で物事が決まる事にもどかしさを感じているという。

 彼女の選挙戦は、積極的に連呼はせず、土日は街宣車を使わないという独自の方式。連呼のみのドブ板選挙はやりたくないのだという。しかし次回の選挙は、「定数削減で厳しくなったため、ドブ板選挙をやらざるを得ない」と、悲痛な面持ちで語った。

 政党の枠組みに捉われない自由な議会活動と、お金を使わない静かな選挙活動を貫く姿勢は、市川房枝の「理想選挙」を引き継ぐものにも思われた。風に揺られるたんぽぽの様な爽やかさを感じながら、和気町を後にした。


◎命懸けの選挙戦

 1993年7月18日、第40回衆議院議員総選挙。「当国会で必ず政治改革関連法案を通す」と公約していた第2次宮澤内閣が、東京佐川急便事件などの政界疑獄には手付かずのまま、羽田グループの謀反によって不信任案を突き付けられた。後に『嘘つき解散』と呼ばれたこの選挙は、政治不信から細川連立内閣による38年振りの政権交代へと繋がる。

 当時の島根全県区は、リクルート事件以降無所属扱いの竹下登元首相以下、自民党現職が4名、候補者を1名に絞り必勝を期す社会党現職の石橋大吉(当選挙より本名の操から、大吉の通名を使用)、一時は「よし子旋風」を巻き起こした共産党元職の中林よし子(佳子)、「新党ブーム」の追い風に乗る新党さきがけ新人で日弁連常任理事の錦織淳、『左派・護憲派・市民派』と見なされ社会党の公認を外された、社会保険労務士で無所属新人の阪本清らが争う激戦区であった。

 そんな中、見た事も聞いた事もない候補者が突然現れた。彼の名は南悦雄。政党から推薦・支持を受けている訳でもなく、いわゆる「地元の名士」でもない。他候補の妨害目的で立候補する右翼という訳でもない。全く無名の新人である。

 島根という所は、政治的にはやたらと保守・反動傾向が強い。おまけに現職5名は、自民党は元首相、衆院議長、党機関紙局長、「地元の名士」、社会党は労組幹部と、どれも有力政治家ばかりである。共産党の元職でさえ元商工団体役員だ。それ故、島根で組織も知名度もない候補の出馬は、無謀な挑戦と言う他はない。そんな選挙区情勢にも関わらず、敢えて立候補した彼を注目せずにはいられなかった。

 南の選挙公報は手書きで、糖尿病と人工透析について綴っているのだが、議員になって何をするのかと言う、具体的な政策がない。第一印象は正直言って「何だこりゃ?」であった。選挙公報とは議員になって実現したい政策、すなわち公約を著わすものとばかり思っていたので、かなり違和感を覚えた。

 政見放送でも、やはり人工透析について延々と述べていた。そして、結局のところ人工透析に関する苦労話以外は、殆ど語られる事はなかった。ただ、余り良くない顔色で、たどたどしい口調ながらも懸命に原稿を読む姿と、最後に語った「皆さん、今回の選挙はしっかりいい人を選びましょう。自民党の政治を転換しましょう。」という言葉だけは、強く印象に残った。

 彼はなぜ、勝てる見込みが全くない選挙に出馬したのか。それは確かに当選目的とは言えないが、単に自己満足の為でもない。ただ、重病を抱え、なかなか思うように生活出来ない状況、重病患者対策・福祉政策の不備など、社会的弱者切り捨ての矛盾に満ちた政治、そして、そんな社会を変えよう、その為には積極的に投票しようと、自ら立候補するという手段によって訴えたかったのである。ただそれを主張し、有権者に知らせる為に、莫大な供託金を積み、病躯を酷使し命を懸けて立候補したのである。

 南は結局1255票しか得られず落選、供託金300万円も没収されてしまった。しかし、1度は自民党以外の保守政党により政権交代がなされた事(その政権の政策などが、自民党と殆ど変わらなかった事はともかくとして)、そして現在、自民党やその亜流政党・政治家に対する強い批判・不満が広がっている情勢を見ると、彼の行動は決して無駄ではなかったと言える。

 数ヶ月後、新聞地方面の『御悔やみの欄』に、ひっそりと「南悦雄(49)」の名が載っていた。彼はまさしく「命懸けの選挙戦」を戦い抜いたのだった。


◎スポーツマンシップ、「さわやか」に散る

 1995年、第17回参議院議員選挙。参院比例区(旧全国区)は昔から多数の泡沫政党が出馬する、マニアにはたまらない選挙区である。当選挙でも23もの政党・団体が立候補した。

 選挙期間まっただ中の7月半ば、東京有楽町界隈をぶらついていた私は、アヤシい街宣車に出くわす。

「さわやかさわやかさわやかね~♪」という訳の分からぬ唄を流す、黄色いハデな街宣車。そして黄色地に青文字で『さわやか新党』の幟。芸能人政党『さわやか新党』(略称:さわやか)の選挙運動であった。

 『さわやか新党』は、小林繁(当時プロ野球解説者)と高田延彦(プロレスラー)のイケメン2トップを看板に、参院選直前に予告なく結党。「政治にフェアプレーを!」「総ての小学校の校庭を芝生に!」をキャッチフレーズに、川上哲治・藤田元司(共に元読売巨人軍監督)、堀田力(元検察官、弁護士、現『さわやか福祉財団』理事長)ら、錚々たるメンバーで結成された政治団体『さわやか国民会議』を母体とする。

 しかし結党が突然で、何を目指すのか非常に分かり難く、その上どう見ても『スポーツ平和党』(プロレスラーの猪木、プロ野球の江本らによる芸能人政党。89年結党)の二番煎じで、競合するだけの感が否めず。何故このような無謀な戦いに打って出たのか、誰からも訝られた。

 その高田による街頭演説は、第一声で早速「私たちは『スポーツ平和党』ではありません!」とクギをさす。やっぱそれか。まあ中心人物2人の職業がスポ平と全く同じだから、有権者が勘違いする可能性は十分あるわな。肝腎の政策の方はどうかというと、教育問題が中心の様子。

「虐められている子どもは、スポーツをすればよいのです!スポーツで強い体と心をつくり、虐めに負けない人間を育てます!」

 何とも武道根性丸出しの精神主義。スポーツ万能の子どもでも、虐めで自殺しているというのに。虐め被害者への責任押しつけが、どれだけ被害者を追いつめているか全く理解していない。こういう実態を全く無視した考えが、教育問題の解決を阻んどるんだっつーの。

 横ではバイトのビラまき要員たちに混じって、にこやかにビラを手渡しする向井亜紀(タレント、高田延彦の妻)が。「私のこと知ってる~?」と声を掛けられた。選挙運動中に自分の宣伝するなっつーの。

 そしてヘンな王冠風のかぶり物と、派手なスーツ姿のローバー美々(NTV『どんまい!!スポーツ&ワイド』の名物コーナー『ロバの耳そうじ』で世に出たセクシータレント。ミニスカで大開脚しパンツを見せながらニュースを読んだり、ブラジャーを外し乳を見せながら天気予報したり)も。これは応援としては却ってマイナスだろ~。

 正直中身も見た目も趣味に合わないこの集団の話を、まともに聞くのは無駄と判断。しかし田舎モンの弱さ、「芸能人が生で見られる」という誘惑に負け、つまらないと思いながらも、結局最後まで演説の場にいてしまったのである。やれやれ。(^^;)

 とにかく芸能人を前面に押し出した無意味にハデなパフォーマンスと、アナクロ極まる精神主義だけが目立った『さわやか新党』の得票数は325106に留まり、候補者の高い知名度も活かせず、供託金没収の惨敗。政策も活動スタイルもスポーツマンらしからず、ちっとも「さわやか」ではなかったが、散り方だけは「さわやか」だった。

(後日談)
 高田が実話誌のインタヴューで直近に語ったところでは、元来政治には関心が薄かったものの、面識ない数名の男達(選挙ブローカー)によって昼夜を問わず尾行され、自宅に幾度も押し掛けられ、執拗に立候補を要請され続けたため、身の危険を覚え、遂に根負けして渋々出馬しただけで、『さわやか新党』の主導者が誰で(表面上の党首は小林)、選挙資金が何処から提供されたのかさえ、未だに不明のままだという。

 読売グループの組織的関与による『スポーツ平和党』への減票工作説も囁かれたが、真相は藪の中。


◎二院クラブの政党助成金受領
 ~政治参加を否定する供託金制度~

 1999年10月15日、参議院の院内会派「第二院クラブ」は政党助成金受領を決定した。供託金引き上げと所属議員の減少等による資金不足で、次期選挙への出馬が困難になった事を理由としている。

 政党助成金は全国民一人当たり250円を基準とし、議員数と得票に応じて税金を活動資金として支給する制度であり、企業・団体献金に伴う財界と政治家の癒着・腐敗を防止するという口実で導入された。しかし、

①私的団体である政党・政治団体に対し公金を支給する事は国家機関が団体の活動に介入する口実を与える可能性がある、

②国会に議席を持つ団体のみを「政党」と規定し公金を支給する事はまだ議席を持っていない政治団体と資金面で著しい差別が生じ、優劣の差を拡大する、

③支持していない団体に対しても税金によって賄うことは政党支持・不支持の自由を侵害する、

等の問題が指摘されており、「二院クラブ」は受領を拒否してきた。

 今回の路線転換は先進国内でも異常な供託金の高さがもたらした出来事と言える。「当選の見込みのない泡沫候補の出馬を制限する」事を目的として導入された。現在比例代表区への立候補には一人当たり600万円も必要とし、一定数の得票を取らなければ没収される。

 「泡沫候補の制限」というが、実際は「金の無い者の立候補を禁止」する制度である。先進国でこれだけ高額の供託金を必要とするのは日本だけで、欧米では無料か、高くても20万円程度である。この供託金制度は選挙への立候補という最も基本的な政治参加の方法を資金面で制限し、実質的に金のある者にしか政治参加を許さないという、非常に差別的な制度であると言わざるを得ない。

 選挙への立候補は全くの自由意思で行われるべきであり、思想・信条・財産などにより「制限選挙」を行う事は民主主義とは合致しない。どの候補が「泡沫」かは、投票者が決める事であり、選挙管理委員会が決めてはならないのである。

 一般市民の政治参加を否定し、新しい政治勢力の進出を著しく妨げ、現在の政治を固定化する供託金制度と政党助成制度は即刻廃止されるべきであろう。


◎泡沫政党に求められる事

 ある日、岡山市内をぶらついていると、異色な立て看板を発見。そこには「あなたが創る福祉の輪 日本民政党第4回全国大会 9/11(土)ロイヤルホテル」と書いてある。これはッ!地方ではまずお目にかかれない、泡沫政党のイヴェント告知ではないか!

 この地方でミニ政党といえば、新社会党と青年自由党くらいしか見かけなかったので、こういう得体の知れぬ政党の催しと聞いて、泡沫政党観察家としては看過できない。「党大会だから部外者の参加は不可能かな~?」と躊躇したものの、「岡山みたいな片田舎で、党大会なんて滅多にない。今回を逃せば一生コンタクトが取れんかもしれん!」と、潜入を決断した。

 立て看の告知に従い、9月11日の午前中に大会開催場所のホテルへ行ってみる。会場入口のみならず、周辺道路に至るまでド派手な巨大看板、林立する幟り旗の数々。泡沫政党の割に、随分やる事が派手だな~。宣伝に金を惜しまぬ共産党はともかく、大政党で金持ちの自民党や民主党でさえも、演説会程度でここまで派手なパフォーマンスはしない。一体どこからそんな金が捻出できるのだろ~か?

 とりあえず外部の人間が入れるかどうか、案内役のおっさんに確認したら、多分入れるとの事。よっしゃ、来た甲斐があったでぇ!ホテルに入るなり、ロビーには党章(黄色い丸に緑でMの字を抜いたもの)の入ったキンキラキンの御輿が…。なんか成金趣味くさいなぁ~。それになぜ御輿???

 趣味の悪さに軽い眩暈を覚えながらも、会場まで足を運ぶ。結構人がいる。ざっと50~60人ってところか?40~50代のおばはんが中心だ。しかし10人ほど、40代位と思しきおっさんや、何故か『日本民政党』の文字入りたすきを掛けた女子高生の姿も…。

 少なくとも見た感じでは、柄が悪そうなのはいない。名前のイメージで真っ先に思いついた、右翼系ではなさそうだ。ま、「福祉の輪」なんて言ってる所だしな。マスコミらしき人物も数名いる。何らかの形で報道されることを期待しよう(注:翌日の地元紙及び主要紙を全面調べたが、予想通り党大会に関する報道は一切なかった)。

 全国大会というだけあって地方ブロック毎に受付があり、入党相談所のみならず、何故か観光案内まで併設されている。「これはいける!」と思いつつ、総合受付で交渉を始めた。

「済みません。外部の者なんですけど、大会に参加してもよろしいですか?」

黄色いスーツに身を固めた受付のおばはんは、予想外の出来事だったらしく、一瞬戸惑いながらも、

「ええ、別に構いませんよ。」

と応える。よっしゃぁっ!

「入場料が1万円となっております。」

「1万円!?!?!?」

 な、何を~っ!?余りの金額の高さに一瞬ブチ切れそうになる。イヤ、待て待て。ここでいざこざを起こしたら、折角のチャンスが台無しになるではないか。少々腹ワタを煮え繰り返しながらも、何とか気を落ち着かせながら交渉を続ける。

「1万はちょっと払うには財布が辛いんで、せめて今日のプログラムやビラ、綱領といった政策資料などを頂けると、有り難いんですけど…。」

「ちょっと待って下さい、責任者を呼びますんで…。」

 暫くして現れたのは、50歳前後の地味な感じのおばはん。何とか望みをかける。

「何かしら?」

「え~と、外部の者なんですが、党大会に参加したかったんですけど、お金がないんで、何か資料を頂けたらと思いまして…。」

「あなたフリーの方?」

「ええ、そうですけど。」

「なら入党なさいよぉ。1万円ね。今日はパーティもあるんよ。」

 成る程…。政治資金パーティね。あの多数の広告物もド派手な御輿も、これで稼いで捻出してたっつーわけか。それにさっきから金払えんと言っとろーに。

「いや、1万円はさすがに持ってないんで、ビラとか綱領とか、何か政策が分かる資料を頂けるだけでいいんですが。」

「今日は資料とかは一切用意してないのよぉ。大会のプログラムはお金払ってもらわないと渡せないからねぇ。ごめんなさいね。」

 ちょっと待てコラ!入党相談所まで用意しときながら、党を知るための資料がないっつーのはどーいうこっちゃ!?

 内容よりパーティ出席にこだわる姿勢から見て、どうやら党大会の目的は政治資金集めだと思われた。広告物だけはド派手にばら撒きながら、政策を知らせる物を一切用意していない、そして参加希望者にとにかく金を払わせる事のみに固執する態度に、怒りを通り越して呆れ返った。

 ここで引き下がるのは、いささかプロ根性(何のプロだっつーの)に欠けると思ったが、金集めが主目的の感が拭えないこの政党に、金を払って何か価値がある事が聞けるとも思えず、その場を立ち去った。

 泡沫政党が泡沫たる主因は、言うまでもなくマスコミ等に取り上げられる機会が極めて少なく、大衆にその実態が伝わりにくい点にある。しかし、政党側にも努力を求められるものがあろう。それは至極当然だが、政策の広報宣伝である。

 活動に先立つ資金が必要なのは、分からないでもない。しかし政策を語らずに、先ず金稼ぎありきで、それが活動の主軸となってしまっては本末転倒だ。政党は何らかの政治的目的を実現するための集団であって、営利目的の企業ではない。「日本民政党は営利を目的としません」とわざわざ断わっているが、却って胡散臭さを強調していて皮肉だ。

 政党の活動資金集めは、政策の宣伝で党員・支持者を増やし、党費やカンパ、機関紙誌収入を増やすというように、広報活動と一体で行うのが筋だろう。全うでない方法で資金だけを荒稼ぎし、表面だけ取り繕ってみても、俗物ぶりを露呈し、大衆の支持を失うだけで逆効果である。このようなスタイルの政党は、その思惑とは裏腹に、決して泡沫から脱け出せないと思う。

(追記)
 毎年8月に高知市で行われる『よさこい祭り』に、日本民政党は団体参加している。あのド派手な御輿は、その時担がれた物なのか?今考えれば、県内の連絡先だけでも聞いておくべきだったよなぁ…。しまった~。

(後日談)
 悪徳商法系の掲示板で、彼らの手口が暴かれていた。「入党させた人数に応じて特典が得られる」システムで、先に摘発された福祉標榜ネズミ講の『国利民福の会』や『年金たまご』その他に類似している。どうやら政党を隠れ蓑にした、新手のマルチ団体か。

(後日談の追記)
 日本民政党は東條哲也代表の下、1996年結成、翌97年に自治省(当時)届出。東京都文京区に本部を置き、政治団体の体裁を取るものの、公式サイト上で「政治や選挙活動は行いません」「社団法人より設立手続が簡単で、法的規制も緩い政党にしました」と明言しており、誰の目にも不可解。

 「民間独自の福祉を実現」「定年やリストラのない社会」「党員は一人残らず高齢者ホームに入居できるようにする」等、逃げる余地を微妙に残した甘言で入党を勧誘しているが、結党から15年を経ても何一つ具体化していない。党費は1口1ヶ月3千円で、政治資金報告書を作製した事務担当者の氏名は「樋口恵子」、偶然の一致か?

(後日談のその又追記)
 しかも近年は公民館規模の小集会のみで、本文取材当時のように盛大な党大会が開かれた様子もなく、それどころか公式サイトには党費滞納に対する警告文や、「本当に大丈夫なのでしょうか」というQ&Aすらある。破綻は時間の問題と言って差し支えなかろう。


◎ファンシーな街宣車

 『赤旗まつり』や党幹部の演説会など、日本共産党関係の集会に必ず付物なのが、右翼団体による妨害街宣だ。そんな訳で、共産党の集まりは、その支持者や、政治・社会について真面目に考えている人(支持・不支持に拘らず、政治団体の集会に参加する意思のある人というのは、その人なりに政治・社会の事を真面目に考え、知る努力をしている人である言える)だけでなく、「國粋趣味者」にとっても一大イヴェントなのである。

 1998年10月24日、岡山市内にて『岡山赤旗まつり』が挙行された。岡山という所は、田舎にも拘らず何故か街宣右翼が活発で、平時でも大音量で軍歌を流しながら走り回る街宣車を散見する。そして岡山で左派政党関係の催しがある時は、各地から集結した街宣車軍団による妨害も、更に熱を帯びるのだ。

 バス用車両を分厚く装甲し、巨大スピーカーを何台も積んだ重装備の街宣車軍団が、

「日本~共産~党をぉ~っ、粉~砕ぃ~せよぉ~っ!!!」

「日本~共産~党はぁ~っ、日っ本~からぁ~っ、出ぇ~てぇ~行ぃ~けぇ~っ!!!」

「共っ産っ党っっ!!!粉っ砕っっ!!!」

などと、決まり文句を只管大音量で絶叫し続ける姿は、迫力があると同時に、滑稽だったりもする。

 その中に、珍妙なデザインの街宣車を発見した。『大日本維新党岡山県本部』なる団体の物で、他の一般的な右翼街宣車と同様の改造バスながら、機動隊車輌のように赤色灯を載せ、スカイブルーのボディにメタリックイエローで「政治結社 大日本維新党」の巨大な筆文字、更にその横には『キティちゃん』(著作権処理は大丈夫なのか!?)のイラストを描いた、右翼には似つかわしくない、何とも派手で、尚且つ何処となくファンシーさを感じる街宣車であった。

 右翼の街宣車といえば、艶消しの黒や國防色(カーキ色)など威圧的なカラーが基本で、敢えて大人し目にする場合でも、白(「日の丸」「旭日」っぽく見せる為に、赤のワンポイントが入る場合も有り)が御決まりのパターンであった為、此のデザインは衝撃的だった。此んなデザインの街宣車から、どんなに威圧的な台詞を大音量で絶叫された所で、聞く方は最早爆笑する以外に無かった。

 「恐い」「カルトっぽい」「訳分かんない」というイメージが強い右翼だが、此の「ファンシーな街宣車」は、右翼に「親近感」を覚えてもらいたいという、敵対する日本共産党と同様の「ソフト化路線」を感じた。敢えてピエロ役を買って出ることで、恐さの中にも笑いを齎した『大日本維新党』を「行動する『國粋趣味者』」と呼びたい。

(追記)
 その後、沖縄にある関連団体の摘発を受け、団体名から「大」を取って『日本維新党』に改称。同じ岡山県内に『岡山県本部』と『総本部』が併存し、街宣車は総て岡山ナンバーだという。
軍歌に限らずモーニング娘。の曲まで流していた『キティちゃん街宣車』は1台限りで終わり、河川敷に打ち捨てられて朽ちたらしい。


◎岡山刑務所糾弾活動

(注:旧字体を含んでいる為、読み難いですが御了承下さい。)

 壱千九百九拾九年参月弐拾五日、岡山刑務所に勾留中の知人を激励するため街宣車で乗りつけた、指定暴力団二代目侠道会井出組幹部で、愛媛の右翼団体『皇国憲政党』の総裁が、刑務所職員に所内で組み伏せられ、急死する事案が起きた。街宣車の路上駐車を巡る口論が発端で、死因は窒息死。当初は「入れ歯が外れ咽に詰まった」と発表されたが、後に「取り押さえた際胸を圧迫された」に変更された。其の日以来、多数の街宣右翼が「糾弾活動」と称し、岡山に全国から集結した。

 壱週間後の参拾壱日、此の日も糾弾行動が行われるとの情報を聞きつけ、岡山刑務所に向かった。行く途中何拾台もの街宣車を見かけた。どの車も一様に御経のテープを流している。どうやら死亡した憲政党総裁への供養の意味らしい。

 刑務所に近づくと、鋭い目つきの機動隊、警官、公安等が周辺警備を固めていた。無関係で後ろめたい事は一切無い私も、其の異様な雰囲気に緊張してしまう。本当は正門前まで行きたかったが、警察関係とは揉め事を起こしたく無いし、面が割れたり色々聞かれたりするのも嫌なので、散歩を装って遠巻きに観察するのが精一杯であった。

 私が現地に着いた壱拾壱時頃には、警備は物々しかったが、街宣車の台数は未だそんなに多くなかった。そこで、先ずは周辺をグルグル回り地理を把握、見通しの良い場所を確認した後、壱拾弐時頃コンビニやレストランで腹拵え&観察。特攻服にサングラスの男達が、威圧的な雰囲気で買い物や食事をしていた。

 昼過ぎ頃から、街宣車が続々と集結した。北は北陸から南は九州まで、あらゆる団体が押し寄せてくる。『皇国憲政党』が所属した『西日本獅子の会』の代表で、竹下登に対する「褒め殺し」で一躍有名に為った宅見組系の『日本皇民党』。元総裁の没後四散した『大日本愛国党』の残党を名乗る者。自民党とも関係深い指定暴力団『稲川会』傘下の『大行社』。石原慎太郎と尖閣問題で連携する一方「ニセ有栖川宮」を名誉総裁に戴いて失笑を買った指定暴力団『住吉会』直系の『日本青年社』。長崎市長射殺未遂事件を起こした『正氣塾』。キティちゃん街宣車で有名な『大日本維新党』。同じく桃太郎イラスト街宣車の『大和塾総本部』。其の他数え切れない程(後日新聞で調べると六拾台前後)の街宣車が見られた。総て任侠団体直系の所謂街宣右翼、警察用語では右翼標榜暴力団である。

 それにしても「糾弾活動」の醜悪は、目に余る物であった。巨大な改造バスで公道を真横に塞ぎ、大音量スピーカーで「どかんかっ!こらぁっ!轢き殺すぞっ!」と一般車両や通行人に怒鳴り散らし、耳を劈く程の音量で御経・軍歌・突撃喇叭を撒き散らし、抗議内容も「刑務所長○○は左遷を繰り返し、家庭でも相手にされず、不倫迄している不道徳極まる奴で…」と、胡散臭さ極まる個人攻撃に終始。一体何の為の「糾弾活動」なのであろうか?

 当事件の問題は飽くまで「密室犯罪の隠蔽を図った官憲体質」の筈だ。然し彼等は任侠団体的な恫喝を繰り返し、市街では騒音公害のみならず交通渋滞を惹起して、一般市民の日常生活に迷惑を掛けるばかり。

 此から何れだけ「糾弾活動」がヒートアップするのか、國粋趣味者として密かに期待していた部分もあったのだが、統一地方選挙が四月初旬に始まるや、摘発を恐れて全団体が一斉に沈黙してしまった。それどころか、自ら選挙に出て官憲の不当を訴える者も誰一人現われず、選挙後に活動再開する団体も無かった。何とも拍子抜けで、尻窄みに彼らの「抗議」は幕を閉じたのである。

(後日談)
 法務省矯正局は、憲政党総裁の変死に際し岡山刑務所職員側の非を認め、裁判外で「弔慰金」六千万円を遺族に即日支払い、強引に幕引きを図った。権力犯罪の閉鎖性を露したと同時に、右翼団体の発言権を強める隙を与えた「汚点」とも言える事件であった。

(余談)
 刑務所周辺では、街宣車以外にも面白い物を発見。先ずは、地域自治会掲示板に貼って在った『思想新聞』号外。内容は「御家芸」とも言える日本共産党(通称「代々木」)批判だった。此の新聞が、世界基督教統一神靈教會(通称「統一協会」)と表裏一体の反共組織『国際勝共連合』機関紙である事は周知の事実で、其んな物が公共の掲示板に堂々と貼られて居るのは、大問題ではないか。

 御次は『極東新聞社』。岡山地域限定の右翼系新聞社だったが、事務所に人の気配は無かった。後で調べてみると九十六年以降休刊と為って居たらしい。う~む、一度読んでみたかった。

 最後は『大日本旭日社』。土建会社兼右翼団体で、代表者には衆院選の出馬歴がある。本社屋上に鳥居と祭壇が有るのは御愛嬌か。自民党の金権腐敗を糾弾して居たにも拘わらず、何故か「自民党支部掲示板」と、某国会議員後援会連絡所の看板が…。保守政党と任侠右翼は、矢張切っても切れない関係なのであろうか。その後創業社長の引退に伴い、弐千七年末で解散した。

(注:個人名は伏せてあります)


◎岡山右翼・街宣車事情

(注:旧字体を含んでいる為、読み難いですが御了承下さい。)

 岡山といふ處は、だういふ訳か街宣車が非常に多い。縣南部工業地帶の發展に對し戰前朝鮮から勞働力が多く流入定着為た亊、戰後は仁侠團軆の抗爭中心地たる兵庫と廣島に挟まれながら、兩縣に比べ岡山縣警の取締が甘く侠客のシェルタア化為た亊、行政當局が左翼運動や同和問題の解決に任侠右翼の手を借りた亊等が増長の原因とも言はれてゐるが、何れも定かではない。

 その岡山で改造大型観光バスを聯ねて街宣為るのは、大抵『西日本獅子の會』(竹下登の譽め殺しで有名な『日本皇民党』が束ねる、任侠右翼の聯合組織。香川に本部を置く)の加盟團體だ。

 『ジャングル大帝』の主人公レオの横顔(『西武ライオンズ』のペットマアクと同一)を遇った「レオ街宣車」(白が基調)の『神皇同志会』、「キティちゃん街宣車」(青ラメ)の『大日本維新党岡山県本部』、「桃太郎街宣車」(國防色)の『大和塾総本部』等、ソフト化路線團軆も『西日本獅子の會』所属で、軍歌若しくは「君が代」を垂れ流す丈の、街宣右翼の典型的な活動形態に準ずる。

 黒塗りの大型バスに「英」の一字を描く政治結社『英志會』『狼党(狼連合)』『民政同友會』『社会悪を摘発し市民社会を守る会(摘発青年行動隊、通稱:摘発)』等は、『四代目山健組』最高顧問妹尾英幸氏の名を冠す物で、菊花章に「英」の代紋を掲げる任侠團體(玄關には監視カメラ有)の組亊務所に常置為る。反共聯合『大日本平和会』由來の傳統を誇り、逸早く公式サイトを開設為る等(當局の壓力で何れも直ぐ閉鎖)一頃は相当隆盛で、民亊介入や公共亊業の入札妨害等も行ってゐたと言ふ。

 關西各地の暴走族を傘下に置く『全国天祐連合会(天祐同志會○○支部)』は、喜多郎氏作曲の『シルクロオド』主題曲をBGMに演説テエプを流す。此は喜多郎氏の御連れ合いが、本邦最大の任侠組織『山口組』三代目の實娘で在る亊に便乗為た物で、固より堅氣の御本人は甚だ迷惑為て居られると傳へ聞く。此處の各支部の街宣車はワゴンかマイクロバスと言った中小型が殆どで、壱臺しか無い大型観光バスは必要に應じて關聯團軆間で融通為てゐるらしい。

 『大日本愛國黨西日本總本部』(旧稱:岡山縣支部)もバスではなく、ジイプ型若しくはRVを改造為た小型街宣車を主に用ゐた。赤尾敏元衆議院議員の創始に成る由緒正しき「純正右翼」の姿と大きく異なるのも道理で、福島・岡山・福岡以下各地の侠客に依る「支部」は『大日本愛国党』の押し掛け弟子のやうな形で、昭和末期の混亂に乗じて半ば勝手に「愛国党」を名乗ってゐた為、特に岡山等は繁體字で『大日本愛國黨』と表記し、同じ「ダイニツポンアイクワクタウ」でも東京の本部とは微妙に別團軆だと為てゐた。從って生前赤尾総裁が固く禁じて居られた軍歌も構はず垂れ流し、女聲に拠る演説テエプを回し、稀にマイクを握り生でアジテエシヨンも敢行為た(但し車中から絶對に出て來ぬ)。八拾年代には選擧にも出て、革新政黨の候補者の妨害に狂奔為たが、其頃は黒いワゴン車だったと言ふ。亊務所は任侠團體(矢張玄關に監視カメラ付)と兼用で、後に『大日本愛国党』から改めて絶縁處分を受け、餘儀無く看板を下ろすに至った。

 軍歌を垂れ流し町中を練り歩く丈の街宣車が多い中で、唯一定期的に辯士が驛前で辻立ち為るのは、全國組織の政治結社『大行社』で在る。自らを「武士道精神を貫く皇道維新派」と名乗るが、正體は自民黨を始めと為る保守反動政黨と非常に深い關係に在り、元衆議院豫算委員長濱田幸一氏も在籍為た任侠團體『稲川会』なのは周知だ。街頭演説前后には「社歌」と思しき決まった曲を流為て告知し、続いて「君が代」を合唱し乍ら架臺に「日の丸」を立て、其て第一聲に「我々は道路交通法及び公安條例に基づき…。」と述べ、当該活動の「合法性」を念押し為る、一聯の儀式を必ず執り行ふ。内容は拉致問題、自主憲法、教育勅語復活等で、演説中は制服の社員が無言で大擧整列し、極めて威圧的な雰囲気を醸し出す。街宣車は目にも鮮やかな空色。

 同じく全國的任侠團體『住吉会』傘下の『日本青年社』岡山支部は、主に縣北部で活動し、銀色の改造バスから軍歌をBGMに演説テエプを流為てゐるが、此處での勢力は餘り強く無い。彼の「ニセ有栖川宮識仁殿下」が一時名譽総裁を務め、隣の廣島支部の祝典にも幾度か御臨席遊ば為れてゐたので、道中來岡も為れた筈と思ふ。

 『二代目松浦組』系の『大日本新政會岡山縣本部』は倉敷に本拠を構え、構成員の山磨豊氏は倉敷市長選に出馬經驗が有る。總會屋活動にも熱心で、鼠色の改造大型観光バスから實録ヤクザ映畫『仁義なき戦い』の主題曲を流為ながら、繁華街を走り回る。若い女性が辿々しい口調で吹き込んだ演説テエプ(内容は倉敷市政非難、朝鮮民主主義人民共和國及び中華人民共和國非難、占領憲法破棄、國軍創設、教育正常化、竹島奪還等)を流す場合も有る。

 蹴球選手中田英寿氏が國際試合で「君が代」を歌はなかった亊に憤慨し、日本蹴球協會に殴り込んだ亊で有名な『日本同盟』は老舗『護國團』の分派で、縣本部代表は「日本太郎」の通名で衆院選にも立候補為た。街宣車は黒塗りバス若しくは「日の丸」入りの白いRVで、乳母車を押し歩く若い親に對し「御子樣連れの方には大變御迷惑を御掛け致為て居ります!」と大音量で叫んだり、茶目っ気も見せてゐた。

 變った處では『福祉団体生活環境を守る会』『自然環境を守る会』等と稱す一聯の街宣車が在る。菊花章の中に「福祉」と書いた、自民黨章に良く似た紋章を使ふ。福祉團體と言う割に他の任侠右翼と遣る亊は全く同じで、黒い改造観光バスから軍歌を垂れ流し回る丈に過ぎぬが、希に若手を扱き使ひ、取って付けたやうな驛前掃除を實施し、以って之を社會貢献活動と為てゐるやうだ。任侠團軆系の産業廃棄物處理業者が、近年設立の容易な「環境NGO・NPO標榜總會屋」に成る場合も少なくなく、警察廳も註意を呼び掛け監視取締を強化為てゐる。

 『維新政党・新風』の街宣車は九拾八年の参院選の折見た切りだが、普通の輕自働車に拡聲器を載せた丈の簡素な選擧カアだった。機関紙「新風」は『古本ハウス』と言ふ古書店に置いて在る。此處は右翼活動家の經營らしく、『一水会』機關紙「レコンキスタ」、地元右翼團體の機關紙「愛國通信」も取揃へてゐる。然し都會の大書肆では大抵見掛ける『大行社』機關誌「大吼」は、『山口組』の縄張(シマ)たる岡山の書店では見當らぬ。縣内で政治團體・結社の機關紙誌類を在架為る書店を御存知の方の御聨絡を乞ふ。

 財界系右翼『日本會議』は、年壱度「全國キヤラバン」と稱し街宣活動に來岡為る。街宣車は自民黨の選擧カアの中古の樣な感じで、提供企業の名は表に出さず、現職議員の政治資金宴會を兼ねた有料の時局講演會が主體だ。人脈的には『日本青年協議会(旧稱:反憲法学生連絡会議)』『日本政策研究センター』『新しい歴史教科書を作る会』等と殆ど重複為るが、彼等が蛇蠍の如く忌み嫌ふ左翼勢と同樣、セクト化・カルト化に由る内ゲバが絶へない。

 大韓民國の謀略機関KCIA(日本の公安調査廳に當る)と極めて緊密な關係を持ってゐた、擬似反共宗教右翼『世界基督教統一神靈教會』(統一教會)の政治組織たる『國際勝共聯合』は、自前の街宣車も無く、表立った活動は基本的に為無い。然し莫大な資金力と組織力を擁し、國會議員の後援會等を介して政財界に信者を送り込み、保守反動政黨の幹部を傘下組織の役員・會員に聯ねる等為て、政治を内側からコントロオル為てゐる。『日本共産党』に大打撃を與へた違法謀略怪文書を、『創価学会』『生長の家』『幸福の科学』等の宗教右翼勢と結託為て、大量に作成為散撒いた亊も有る。嘗ては「一日一善」の笹川良一名譽會長が「顔」だったが、安倍晋三政権以降はネトウヨ時流に乗り地方議會への浸透も著しく、勞働組合殲滅を掲げる『大阪維新の会』にも早速接近し、配下の幹部信者を市区長と為るに成功為てゐる。但し本國の統一教會は、現在最も尖鋭的な親北團軆に豹變し、北朝鮮國内での合辯亊業も盛んに行って『金王朝』體制維持に躍起なのだから、自己矛盾も甚しい。

 少々本章の趣旨から外れるが、岡山では聯日聯夜風俗店やパチンコ屋の街宣車が街中を走り回り、其を見ぬ日は無い。然し乍ら、此は「性」風俗店が條例で禁止(他縣では長野のみ)為れてゐる岡山独特の物で(ミリオン出版『ダークサイドJapan』での松澤呉一氏の記述に拠る)、「性」抜きとは云え此の手の地下産業が街宣車を用ゐて大々的に日中から宣傳活動を行ふ亊は、倫理上も教育上も問題が多いと思はれるが、現段階で之を規制為る方法は無いらしい。

 五月蠅く垂れ流為れる「君が代」や軍歌に耳を塞ぎ、風俗産業の街宣を鬱陶しく思い乍らも、街宣車・街頭演説マニアの私は今日も其を求め、街をぶらつくので或る。


何故「しょむ系」に注目するか?~あとがきに代えて~

 さて、「政治に無関心な人でも楽しめる、笑いの取れる政治サイトは作れんもんか?」というなかなかフザケた、しかし大いなる(と自分では思ってる)志で「しょむ系政治勢力研究会」(しょむ研)サイトを立ち上げ、色々紆余曲折を経ながらも随分経つ事になるが、ここで改めて何故「しょむ系」に注目するかについて問い直してみる事にする。

 何故「しょむ系」に注目するか?それはズバリ「笑いと愛」である。

 しょむ系候補の人々はとにかく突拍子もない事を選挙公報に書き、政見放送で話す。選挙公報に自分の経営する企業の広告を載せてみたり、「マッカーサーから日本の領有権をもらいました」「にしんを食べると怒らない」「一億円下さい」「ミニスカート・ホットパンツ・タンクトップ禁止」「現市長を助役にします」など、世間一般の常識では考えられない「公約」を掲げる。政見放送では自己紹介のみを延々と行ったり、突然歌い出したり、人形劇のおばさんのような語り口で政策を述べたり、いきなり収録中のカメラマンに怒りをぶつけ出したりする。しかも本人は大真面目にそれらの主張を行うのである。

 大半の既製大政党の公報は包括的な政策カタログ、しかもごく一部の党を除いては極めて抽象的キャッチフレーズを並べただけで、ある程度の政治的知識がないと非常に分かりにくい物ばかりである。又、政治に余り関心のない人々の心をつかむ事もなかなか出来てはいないのではないかと思う。しかし、一点特化で突飛である事が多いしょむ系候補の主張は政治的関心・知識が無くても非常に楽しめる。これが「笑い」の要素である。

 又、彼らはそんなぶっ飛んだ(しかし大真面目な)政策を、無視され、馬鹿にされ、笑い者扱いされながらも訴え続ける。一切のプライドを捨て、私財をなげうち、時には命がけで、当選を勝ち取り自らの政策を議会活動を通じて実現するためひたすら立候補し続ける。そんなしょむ系候補の人々にある種の愛情を感じずにはいられない。これが「愛」の要素である。

 更に、そんな彼らの中には磨けば光る「原石」が絶対存在する、そう信じずにはいられないのだ。

 例えば戦前においては、国会議員としては唯一の左翼系議員とも言える山本宣治(労働農民党公認、日本共産党推薦)は「実に今や階級的立場を守るものはただ一人だ、山宣独り孤塁を守る!だが僕は淋しくない、背後には多くの大衆が支持しているから…」の言葉を残し、死刑や拷問・虐殺を伴う思想・言論弾圧が横行する社会の中で、軍国主義・国粋主義推進の天皇・政府・議会・軍部・右翼テロなどのあらゆる反動勢力と命がけで闘った(後に39歳の若さで右翼テロリストに暗殺される)。赤尾敏(建国会、のちの大日本愛国党)は翼賛議会の中で親米反共の立場から対米開戦反対を唱え、自らの主張を当時の首相東条英機に直訴した。

 戦後では、戦前より女性参政権獲得運動を行ってきた市川房枝(無所属、日本婦人有権者同盟)が「理想選挙」を提唱し、金権腐敗政治・選挙の根絶を訴え、自らそれを実践した。青木茂(サラリーマン新党)は「クロヨン課税」などのキャッチフレーズで不公平税制を批判し、都市部のサラリーマンから支持を得た。

 又、当選には至っていないものの、東郷健(雑民党)らがかねてから訴え続けてきたセクシャルマイノリティや性表現の自由の問題は、現在においては最早単なる「笑いの種」としてではなく、当然のように議論や社会運動のテーマとなっている。

 しょむ系候補は、現段階では嘲笑・蔑視の対象でしかなくても、将来的には社会を動かす人物に「化ける」事も十分考えられるのである。

 同時に、そんなしょむ系候補をことごとく排除し、既製大政党のみが議会を独占し続けられるよう巧妙かつ狡猾に仕組まれた現在の選挙制度・議会制度の欺瞞性をえぐり出したい。そして、どんな人でも自由に立候補する事が出来、当選の可能性が保障される選挙制度・議会制度に変えるための大きな運動を起こしていきたい。そんな思いからこのサイトを運営している訳である。

 てな訳で、軽~い気持ちで肩肘張らず、しかしほんのちょっとだけ真面目に政治を語ってみるサイト「しょむ研」を、どうか今後とも宜しく御願い致します。


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