見出し画像

小説感想『自由研究には向かない殺人』

ネットフリックスでドラマ化した作品の原作です。


最後まで日常を忘れない

この作品で一番関心したのは、日常が最後まで重視されることです。主人公のピップは、夏休みの課題(卒業の資格を得るための自由研究EPQ)として、五年前に起きた事件を調査し始めます。

調査はあくまで自由研究の一つなので、日常の時間は普通に過ぎていきます。友達と遊び、家族と過ごし、イベントがあり……と、警察小説や探偵小説のように、ずっと事件にかかりっきりではありません。

そして、物語の最後まで日常がピップの傍にあります。事件が真相に大きく近づく時にも、学校があったり試験があったりします。

そんなわけで、ピップが日常から離れない存在であることで、探偵ピップが唯一無二として光り輝き、学生ピップが身近な存在して寄り添ってくれます。その感覚が、どうも僕の読む手を止めませんでした。

また、日常をしっかり描くことで、恐ろしい犯罪の数々がより浮き彫りになっているのも印象的でした。今作では、殺人だけでなく、監禁、性犯罪、薬物売買、ネットを使ったいじめなど、様々な社会問題が取り上げられています。それらをただ羅列しただけでは、一つ一つに対する深刻さがなくなっていくような感覚があります。日常の中にこれらを配列することで、より一層の恐ろしさや、考えさせることを促す効果をもたらしたと感じます。

安直ながら

この物語は現代が舞台です。安直ながら、その設定を生かした物語構成が新鮮で飽きませんでした。

文章を読みながら、ピップかスマホに向かって作業記録を録音しているシーンを想像できているのが不思議な気持ちになりました。

平然とスマホが出てきて、平然とSNSが出てきて、今までももちろん現代が舞台の小説は読んできましたが、ここまでがっつりと現代テクノロジーが日常に溶け込んだ世界観を小説で体験したことはありませんでした。

なんというか、バックトゥザフューチャーで描かれた2015年という遥かかなたの未来を、現実が追い越してしまった時に感じた、謎の「ここまできたか」という驚きと達観と似ている感覚です。小説がここまで現代に追いついたのか、と。大学の学部の都合上、スマホは愚か電話もままならない二十世紀や十九世紀の小説ばかりを読んでいたからそう思うだけなのかもしれません……。


面白い

かなり面白い作品でした。絶えずユーモアが溢れる文体も、同じイギリスだからか、ハリーポッターに通ずるものがあって、初めて小説が好きになった頃を勝手に思い出せた作品でした。

ドラマ版も見てみようと思いますし、二作目ももちろん読んでみようと思います。


いいなと思ったら応援しよう!