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小説感想『くらげホテル』

尾崎英子さんの小説です。

1 限りなく清潔で綺麗な文字

限りなく清潔で綺麗な文字で、オカルトやSFや異次元の話を盛りだくさんに描く小説でした。

文章はどこか常に現実に即しているような感じがしていました。なので、異次元やSFが突拍子もないような出来事には感じられず、むしろ今まで僕は異次元というもの遠いものとして考えすぎていたのではないかと教えられるかのような、手の届きやすい異次元小説でした。

2 やはり

とはいえ、最後のオチが弱い気はします。現実に即した文章は、視点の人物が本当に異次元の世界に行ってしまった後までは書けませんでした。

異次元の設定は興味深く、話の盛り上げ方も巧みだったため、実際に異次元に行ってみたエピソードをどこかで期待している自分が否が応にも出現していたせいで、、結局主人公の矢野が、異次元に行けるのに行かない選択をした時には興ざめして、この小説の限界を感じました。

ここで異次元に行ってしまえば、ファンタジーか、それこそ本物のSFです。ですが、そうではないから今作に独特の雰囲気とテンポが生まれているわけで、それらを壊さないためには、ある程度現実的かつ、ある程度読者を納得させるオチを用意するわけですね。するとまぁ、「異次元は本当にあるのだけれど、自分はいかない」に落ち着きます。

理解はしつつも残念な気持ちがかなりあります。

3 どう生きるか

異次元に行くと考えると、どうもファンタジーの雰囲気になり、現実から離れた思考回路になります。
しかしこの小説は、あくまで現実に沿ったトーンで話が展開されていくため、異次元に行くということが、僕には死とほぼ同義であるように思えました。そのため、先程はマイナスの意見として書きましたが、矢野が異次元に行かず、自分の人生を歩み続ける選択をとったのは、実はとても意味があることなんじゃないかと思います。

例え未来にあるのが恐ろしい「死」ではなく、あくまで時間を超越し、姿形をも変幻自在な異次元への「扉」だったとしても、それでも今生きているこの一秒一秒に自分という存在の証明があり、また、「戻れない。一回きり」の人生だからこそ、やりがいがあるのだと、僕は改めて人間であることを受け入れ、人間である限り精一杯今を楽しんで生きようと感じることとなったのです。

もちろん、異次元に行くことが悪いことでは決してありません。異次元に行った二人の覚悟と好奇心は、異次元を「死」ではなく、新たなる「挑戦」と考えた時にとても大切なことです。変わりたい、でもいいし、逃げ出したい、でもいいです。何かを成し得たければ、怖くても寂しくても悩んでも苦しんでも、行動しなければなりません。そして行動なんてもの、そんなに大それたことではなく、自分の気持ちにちゃんと向き合えば、簡単に出せるものなのです。

「異次元」をどうとらえるかによって、作品の受け取り方が異なってくると思います。何通りのもの解釈が生まれて当然でしょう。ただ一つ言えるのは、主人公たち四人の視点それぞれから「異次元」に触れたのは素晴らしかったということです。「異次元」に行く人、行かない人、行くにしてもそれぞれ理由があり、行かないにしてもそれぞれ理由があり、様々な考え方を提示する方法として適切でした。

終わり方だけ僕には物足りなかったですが、話の運び方や、各々が持つ「異次元」への考え方とアプローチは、なめらかかつ現実的で、読んでいて嫌にならない程度で考えさせられる小説だったと感じています。


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