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牛丼に裏切られた

僕は牛丼というものが好きです。中でもすき屋のネギ玉牛丼が好きで、しばしば夢にも出てくる程です。

毎日食べたいくらいですが、もちろんそんなにお金に余裕があるわけではないですし、ちょうどいい場所にすき家もないので、なかなか食べる機会がありません。

(近所に吉野家はあるんですけど、吉野家はダメです。すき家の足元にも及ばないからです。僕は圧倒的すき家派です。これまでの人生、どれだけ吉野家派の人間と争ったかわかりません)

一時間の残業を終えて疲労困憊になったその日、僕は自分にご褒美をあげようと決めました。がんばりすぎです。がんばって残業しても、会社の人は誰も褒めてくれません。むしろ、あれができていないこれができていないと、悪いことばかり言われます。もう心身ともに限界がきていました。

自分に牛丼をプレゼントしなければ。

時刻は深夜零時を周り、周囲は閑散としていました。やっているお店はほとんどありません。ただ、すき家は違います。貧弱な吉野家と違い、すき家は二十四時間食べ放題なのです。

僕は車をニ十分程走らせ、すき家へと向かいました。今すぐお風呂に入って寝てしまいたい気持ちもありましたが、そんなことをしたら、また明日が訪れて、仕事をする羽目になります。明日を迎える前に牛丼を食べることで、明日を生きる原動力にはならなくとも、今日を生き抜いた祝福を自分に投げかけることができると信じていました。

夜中でも煌々と光るすき家を見た時には、思わず頬が緩んでしまいました。意気揚々と車を停め、やや駆け足で重い扉を開けます。

おかしいなと思ったのは店に入った時です。いらっしゃいませ、という言葉がないのです。すき家に行くとだいたい挨拶がくるので、いらっしゃいませがないとどうにも寂しい感じがします。ただ、深夜なので店員さんも眠いでしょうし、挨拶がない店だってよくあるので、気にする程のことではありません。牛丼を食べることができれば全てOKです。

すると、店員さんが不愛想な表情でやってきたのです。
「ご飯た炊けるまで30分かかります。それでもいいですか?」

それでもいいわけありません。時刻は既に十二時を過ぎ、今すぐ食べたいのです。すき家で三十分待つのは、さすがに、できません。僕が牛丼が大好きですが、「こいつ、牛丼のために30分も待つんだ」と店員さんに思われるのは耐えられません。

僕は文字通り涙を呑んですき家を後にしました。空腹と疲労が体を襲います。まさか、たかが牛丼で涙を飲むことになるとは思っていませんでした……。

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