カスハラとこれからの工務店必要な3つのこと。
桜も満開の4月、新しい年度が始まり、様々な団体でも総会が花盛り。私が理事を務めている京阪神木造住宅協議会でも本日総会と第45回研修会を開催しました。総会では、今年度の事業計画が示され、新しい取り組みもチャンチャンと承認されいつも通りに滞り無く終了、引き続いての研修会では建設業界に特化した弁護士事務所として有名な匠総合法律事務所の秋野卓生弁護士に登壇頂き、先行き不透明、混迷を極めるこれからの時代に私たち建築業者が留意すべきリスクとその回避についてレクチャーを頂きました。時代の趨勢を見極めて新しいビジネスモデルを模索すべきだと秋野弁護士から指摘され、改めて気付かされることがありました。
カスによるハラスメント?
秋野弁護士の講演では、従前のコロナリスクへの備えだけではなく、インフレ懸念による契約後の仕入れの変動リスクや戦争による影響で工期の遅延によるトラブル、オンラインによる商談や打ち合わせがすっかり定着した中での電子契約等のDXへのシフトを推奨されたりと法律家の見地から幅広く、具体的な事例を混ぜ込んだ非常に分かりやすいお話を頂きました。中でも、最近は「カスハラ」が大きく注目浴びているとのことで、厚生労働省が今年2月に発表された「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」の紹介と要点の説明は最新の企業が準備しておくべきリスクヘッジだとご案内頂きとても勉強になりました。ちなみに、カスタマーハラスメントとは顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為のことで、厚生労働省が実施した「令和 2 年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、企業に対する調査では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業の割合は 19.5%、また同調査の労働者に対する調査では、過去 3 年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験したと回答した割合は 15.0%となっているようで、こうした行為に悩む企業、労働者は少なくない現状が浮き彫りになっています。
カスハラよりも状態管理
上述の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、本来、顧客等からのクレーム・苦情は、商品・サービスや接客態度・システム等に対して不平・不満を訴えるもので、それ自体が問題とはいえず、業務改善や新たな商品・サービス開発に繋がるものだと書かれています。しかし、クレームの中には、過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつけるものもあり、それらの不当・悪質なクレームは、従業員に過度に精神的ストレスを感じさせるとともに、通常の業務に支障が出るケースも見られるなど、企業や組織に金銭、時間、精神的な苦痛等、多大な損失を招くことが想定されると書かれています。これからの世の中では、企業は不当・悪質なクレーム(いわゆるカスタマーハラスメント)に対して従業員を守る対応が求められますとのことで、そういえば、と思い当たる節もあり、顧客との健全な関係性を構築する上でも、クレーム、苦情とハラスメントの線引きをしておくべきなのかと思いました。ただ、その線引きは非常に難しく、主観と主観のぶつかり合いになりそうな気がして、やはり絶対にクレームを出さない、顧客満足度を100%に保つための予防的な取り組みが必要なのだろうと、スタッフとの目的意識の共有をさらに深める必要を感じた次第です。やっぱり全ては状態管理に尽きるということですね。。
リスクだらけの建築業界
秋野弁護士による講演を聞いていて私が感じたのは、建築会社の今後はなかなかタフな状況が加速して行くとの予想です。冒頭にも書いた価格の高騰、材の納入遅延、インフレによる金利の高騰と景気の低迷、情報革命でのクレームの増加など、リスクヘッジに心を砕かなければならないことが多すぎます。アキノ弁護士が言われる通り今まで通りの業務体制や、組織、ビジネスモデルでは対応しきれなくなるのは目に見えています。まさに、時代の趨勢を見極めて、事業全体を再構築しなければならない時期に差し掛かっているのだと思うのです。その準備を整えると言う意味で、今回の京阪神木造住宅協議会の総会で承認された3つの事業計画案は未来に対するアプローチのヒントになるものだったのではないかと思っています。
1.和のデザインと暮らしの提案
今期の新しい事業として事業計画に盛り込まれ、承認された案は大きく3つあります。1つは国交省と文化庁の後援を受けての和の住まいの良さを再確認するフォーラムの開催です。木造の家づくりに強みを持つ工務店の存在を再確認する場を建築士会等の地域の他の団体を巻き込んで大々的にイベントを開催するのはエンドユーザー向けにも波及効果が期待されるとともに、工務店が今一度、モノづくりの本質に向き合うきっかけになるのではないかと感じています。大手ハウスメーカーとは違う価値の創出を目指さなければ厳しい経営環境を乗り越えることができないと考えれば、その意義は深いと思っています。
2.地域貢献と課題解決
2つ目は兵庫県や神戸市と災害協定を結んで進めている災害時の応急仮設住宅の建築計画です。気候変動のリスクが年々高まっていると言われる現在、いつ大きな災害が起こってもおかしくありません。天災は忘れた頃にやってくる、と昔から言いますが、いつ災害が起こってもいいような備えをしておく事は非常に重要で、現在応急仮設住宅の建設の選定やそこに建物建てる配置計画、資材の手当てや職人の確保、資金調達までを綿密な計画を練っており、地域に対して私たち工務店が貢献できるリソースを見える化しています。地域密着のビジネスを行う上で、地域の課題解決や潜在的なニーズに対する提案は非常に重要で、このような取り組みをきっかけに工務店は地域課題解決型モデルへのシフトするべきだと思います。
3.モノづくりの担い手育成
3つ目は、私が主幹となって行っている若手職人の育成事業です。この事業は昨年度から国交省から助成を受けて入職してから3年以内の若い大工を集めて技術指導を行いながら、自分でスケジュールを組み立て、段取りをすることの重要性を実際に建物を建てながら教えています。単純に、言われた作業を行うだけではなく、自分で目的や目標を考え、計画を立てて実行する力を身に付ける場として居続けをしており、単なる作業員から知的労働者としての職人へのきっかけづくりだと考えています。京阪神木造住宅協議会のメンバー内で自社で職人育成を行っている会社はまだ少ないですが、このような教育の場を作ることで職人の正規工場へのハードルを下げる効果があると思っています。今後加速する職人不足時代への布石を打つことで、厳しい時代での持続可能性を高めてもらえると考えています。
まとめ:工務店のビジネスモデル刷新の方向性
VUCAと呼ばれる先行き不透明、不安定、複雑、曖昧な世の中を生き抜いていくために建築会社は今までの販売戦略一辺倒のあり方を見直し、ものづくり企業としての本質に立ち返る、地域に根ざした企業として地域課題の解決に積極的に向き合う、そして実際にものづくりを高い品質で行える施工力を身に付けることが不可欠だと思います。地域の同業者が集まるコミュニティーで、情報を共有し、国と連携しながら1社ではできない事業を行えるのは非常に恵まれた環境だと思います。運営メンバーの一員として実りある事業を進めていきたいと思うとともに、コミュニティーとしての力をもう少し発揮できるような環境作りに尽力したいと思う総会となりました。ちなみに、築地メンバーを募集しておりますので、興味がある方は京阪神木造住宅協議会の事務局までお気軽にお声掛けください。
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現場を基軸にしたビジネスモデル再構築の手伝いをしています。