テーマは『実践』#大工はセンスを磨くべし
私は元大工で起業から20年来、一貫して大工育成を継続してきました。そんな私が考える大工にとって最も重要な資質は『センス』だと思っています。もちろん、技術職としての技量や知識を身につける、現場での経験を積んで知見を得る事は不可欠ですし、良き意図を明確に持つ、主体性を持って自ら動く、人の想いを汲み取ると言った誰もが持つ人間力、才能を開かせることも重要です。しかし、大工(に限らず職人)と言う職業は創意工夫ができる事、それを実際に現場で表現するのが本領で、決められた通りに作業を行う作業員に成り下がってはならないと思っていて、クリエイティブな側面の強い職業であるべきだと考えています。そこで何より重要になるのが『センス』だと思うのです。
センスが未来を創る
社内でも常日頃から「一人前の大工になるにはセンスを磨くべきだ」と事あるごとに繰り返し言っており、木材の面取りの大きさや材料の寸法の縦横比など、事細かな事までカッコいい寸法を考えて施工する様に、ダサい仕事はするなと口にしています。私達モノづくりの会社は出来上がったモノとそのプロセスで評価を下されます、全ての結果、そして次の仕事の受注や未来に手にする結果の原因さえも現場にあると言っても過言ではありません。自社の社員大工のセンスが研ぎ澄まされることこそ設計図に表現され切れていない建築物の佇まいや雰囲気を作り上げ、建物に価値を付加する事業所の実力であり、そんな細部に心を配るのがモノづくりの本質だと思っています。
知識とセンスは別物
そんな、大工にとって欠かせない、とても大事な『センス』ですが、非常に曖昧で人によって基準がバラバラの概念です。大工を抱える工務店がその人材面での効果性を最大限に高めるには社員の大工たちのセンスを高める、鍛えるべきなのですが、それは残念ながら簡単ではなく、とても一筋縄でできるものではありません。もちろん、名建築を見て回ったり、書籍や文献で勉強したりとセンスを養う方法もありますが、知識とセンスは全く別物で、美しい収まりを知っているからと言ってそれを自分の仕事に転化させられるかどうかは別物です。センスとは知識や経験というより、感性や直感などの感覚に近くおいそれと身につくモノではありません。
実践あるのみ
しかし、江戸時代から大工は粋な職種の代表格であり、センスが良くて当たり前、センスがない職人に仕事を頼みたい人などいないと思います。それでは、大工にとって生命線とも言えるセンスを身につけるためにどうすればいいか?との問いに対する私の答えは「実践あるのみ」です。実践とは闇雲に行動すれば良いというモノではなく、まず理論を学び、概念を知ってからそれを実際の行動で裏打ちしてみることです。学ぶ→知る→やってみる→できる→出来ている。と、学習から成長、習得へのモデルの五段階の壁を乗り越える事こそ実践であり、この繰り返しで知識を肌感覚まで取り込み切ることこそがセンスを磨く唯一の方法論だと思っています。
「実践」で入選
その実践を最もわかりやすく体系化したものが、茶道や書道といったお稽古ごとだと思っており、私は茶道と書道のどちらも10年以上それぞれの先生に師事して教えを乞い続けています。ちなみに書道は若手の大工達と一緒にセンスを磨くべくお稽古に励んでいます。ただ、月に数回のお稽古程度で簡単に上達するものでもなく、未だに大して茶を点てられるわけでもなく、字が美しくなってもいない頼りない状態ではありますが、それでもお稽古を始めた当初の10年前の自分自身と比較すると、10年の歳月分は成長しており、その差は歴然です。少し前にひょんなご縁で毎日書道展に作品を出品してみるご縁に恵まれて、試しに出してみたところ、なんとは出品にして初入選することができました。私の場合はまぐれに近いのかも知れませんが、先週末に展覧会場に展示作品を見に行ってみたら、私と同じ入選の作品も素晴らしい書が数々あり、曲がりなりにもこのような人達と同等の評価を頂けたことを光栄に思いました。ちなみに、私が出品した作品のテーマは「実践」です。今はもう現場に出て大工として働く事はありませんがセンスだけは磨き続けたいと思っています。
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センスと人間力を磨く研修やってます。