魚の使い方
本日は魚の使い方のお話です。
一尾の魚をいかに使いきるか、それも無駄なく適材適所に振り分けながら使い切る事を楽しめるかというノウハウをお伝えいたします。
1尾の魚、廃棄率で言えば45%位が一般的な認識です。
その廃棄率を下げるのが良い料理人の仕事・・・と言うのが私の仕事を覚えてきた頃からの教えであります。
使える部位を無駄なく使う。
そんな事を日々心掛けながら魚を扱ってきました。
まずは鱗(うろこ)を落として、内臓と鰓(えら)を抜いて水洗い。
三枚に卸して腹骨を漉き取り、背と腹に分けて血合いと骨を除く。
皮を引いて刺身に造る。
これが一連の流れですが、まずは内臓。
鱗や鰓も魚によっては仕立てられない事もないのですが、第一歩としてはハードルが高いです。
多くの魚で、肝や真子・白子、肝臓や卵巣・精巣ですね、加えて食道や胃が食べられるのですが、無駄になっている事が多い。
魚を使う量が少ない店では、僅かな内臓をいちいち調理して少量の一品を仕立てるのは、かえって人件費率と生産性が悪くなり利益率を落とす可能性も考えなくてはなりません。
心を鬼にして捨てている職人もいますが、多くの場合は見て見ぬふりを決め込む職人が多いのが、残念ながら現状でしょう。
幸いなことに魚を使う量が多い。
つまりは一度の仕入れで案外、大量の内臓が出るという前提でのノウハウですが、知識として持っていれば必ず役に立ちます。
また意識として念頭に置いておけば調理に対して、また違った世界観が広がる事と思います。
さて、先に挙げた内臓を塩漬けにして塩辛に仕立てたり、地漬けにして燻製や唐揚、はたまた旨煮・辛煮に仕上げて珍味として、箸休めとして、突き出しとして利用するのが一般的な調理法と利用法です。
私は割烹仕事出身なので内臓を抜き出したら、そのままゴミ箱に捨てる事はほぼ、ありえません。
また頭や尾、刺身に造って薄くなる腹の先端や、血合いの骨なども、わざと身をつける様にして、アラ煮やアラ汁に使いまわす。
と言うのは、やはりアラ煮が私の仕立てる料理の中では人気の一品に育っているからです。
アラにするのをケチって全てを刺身に回すと、アラ煮のアラが足りなくなる。
この部位の配分が、緻密な計算で成り立っています。
1尾の魚の原価を計算しつつ、アラ煮で使う量と、刺身で使う量を計算して採算が合うように振り分けるのがプロの仕事です。
ですから尾を切り離す位置、頭の外し方、血合いの骨の身の厚さなどは、素材によって日々変わります。
場合によっては三枚に卸す時に、故意に骨から包丁を浮かして卸し、中骨に身をつけてアラに回すことがあるほどです。
こうすれば中骨も無駄にならず、全てが食材となる。
特にクエの様な原価が高く鍋材用にアラを消費するのが決まっている魚では、こう言った工夫が必要なのです。
そして皮は、職人であれば誰でもするであろう、湯引きして酢物や、煮凝りなどに仕立てるのが常套です。
刺身に造った時の屑も叩いて醤油に浸し、濃い味付けのヅケにして、お茶漬けに仕立てるのも非常に味わいの良い一品となります。
上身(可食部位だけの身)ですから、何にでも使い回しが利いて、便利な素材であります。
こういった使い回しを仕入れた魚から瞬時に判断して、適材適所に振り分け、使い道ごとの専用の仕込みを施す。
それこそが職人の経験や技術と管理能力が問われる要素であり使命です。
刺身で使える部分を、アラにするのは勿体ない。
さらには、アラをゴミとしか見ていない。
寿司店(特に回転寿司)や、宴会メインのホテルの料理人の中には、こう言う感覚の者もいます。
しかし、割烹仕事の職人、さらには多くの仕事を習得した職人であれば、適材適所の用途という引き出しを数多く持っています。
それは割烹店の場合、アラを上手に使えるか否かで利益率が決まる、というのが通説でした。
現在では否定的な意見を持つ経営者も少なからずいますが、基本は変わりません。
もし、ご家庭で魚を1尾、料理すると言う事がありましたら、どの部分を何に使おうかと真っ先に、お考え下さい。
これはゴミだなと思われるものでも少しだけ使い道を考えてから処分して下さい。
ちょっとした工夫で新しい発見があります。
僅かな手間で多くの楽しみが生まれます。
少しの意識改革で、限られた素材に無限の可能性を見いだせる事でしょう。
では、本日も良い一日をお過ごしください!
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