2024.2.29 アポロニウスの円
とおいとおーい星のある国で、すごーくすごく、たくさんのビルやおうちが並ぶ大都会に、身長の低い兄と、身長の高い弟の、変わった双子がいました。
背の低い兄は、お兄さんなので威張ります。トンネル探検ごっこをする時、頭をぶつけない兄はぐんぐん前に進めるので、隊長のように先頭をいきました。
背の高い弟は、背が高いので威張ります。壁の向こう側に何があるかを知りたい時、台に乗らなくても遮るものもなく見渡せる弟は、いつも得意になって兄に何が見えたかを教えるのでした。
ある日優しいお母さんの抱っこをどちらがしてもらうかでケンカをしました。お母さんは困ってしまいます。兄は背が高くないから抱っこできるけど、弟は背が高いのでお母さんには抱えきれません。優しいお母さんはこう言いました。
「お兄さんなのでがまんをするべきか、背が高いからがまんするべきか、2人でよく話し合いなさい。そうすればケンカではなく、仲良しになれるわ。」
「それができたら抱っこのかわりに、2人ともやさしく抱きしめてあげる。」
そう言われて双子は、よく理解できずにその場に立ち尽くしてしまいました。お母さんはお夕飯の買い出しに出ると言って、出かけてしまいました。
その時、玄関をノックする音がしました。が、双子はまだこんらんしていて、その場で唸っています。するとお客さんは痺れを切らしたのか、コツコツと独特のブーツの音を鳴らしながら中に入ってきました。
「やぁ、いるんだろ、きみたち。」
──隣に住むアポロニウスさんでした。
「こんにちはアポロニウスさん。」
「僕たち今、どっちがお母さんに抱っこしてもらうかで喧嘩してたんだけど、どっちががまんをするか2人で決めろって言われちゃってよくわかんないや。アポロニウスさんはどう思う?」
アポロニウスさんはニカっと笑い、立ち尽くした僕たちを見回して、人差し指と親指をあごにあてるいつものポーズをしました。
「きみたちの中で、お兄さんであることと、背が高いということの、どちらがえらいかを2人して決めあぐねているんだね。」
双子は口を揃えたように、「えらくないとお母さんに抱っこしてもらえないからね。」と口をとんがらせています。そう言い終わらないうちにアポロニウスさんは立ち上がり、少しらくがきの残る床に、双子をそれぞれ囲むように新たに円を描き始めました。
「何をしてるの?」
─答えるそぶりもせずに、
「きみたちの身長はそれぞれいくつあるんだい?」
─そうアポロニウスさんが尋ねると、双子は少し気まずそうに耳打ちでそれぞれの身長を答えました。
するとまたアポロニウスさんは、今度は色んなところに小さな点を記し始めました。
「きみたちの身長差は30cmあるんだね。おっと、変な意味じゃないよ落ち着いて。」
「いいかい、きみたちの身長比率に基づいて小さな点を記していったよ。これをたどると間違いなく一つの円が描けるんだ。」
突然何を言ってるんだろう。双子はそう思いながらもへぇ、と感心をしました。
「大事なのはここからだよ。その円上から君たち2人の方を見ると、どこから見てもおんなじ背の高さに見えるんだ。」
──まさか!
こんなに身長差があるのに、アポロニウスさんはすぐ好き勝手言うんだから。この間もいちごがどれだけ好きか語りながら、おやつはキャロットケーキばっかり食べちゃってて。
「きみたちは2人ともいい子だ。威張り合う必要なんてないよ。」
「自然はね、必ず美しい答えをくれるものだから。数字やコンクリート、機械、お母さんだって自然なのさ。」
そう言われてきょとんとしながら、双子は美しい円の上から、同じ背丈で見つめ合っています。そろそろお母さんが帰ってくる頃かと思い、双子はアポロニウスさんを夕食に誘うことにしました。
ここではお好きに。