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ライブハウスでココロオドル

電車に乗って、全く行かないような場所に行ってきた。

音楽スタジオだ。家族ともよべるくらいの友達がワンマンライブをしたからだ。

つい最近までエンタメって、一番遠いところにあった気がする。
医療従事者として、コロナ禍を駆け抜けた。
規制があって、感染対策があって、楽しむことよりも守ることが優先される日々を送り続けた。
ライブなんて、行くことすら考えなかった。
そもそも、行ける状況じゃなかった。行ってもよかったのかも知れないけど、私はプロでありたかった。

日常が、ようやく戻ってきた。
会場にはマスクをしている人はいなかった。

それに、誰も「マスクしてください」なんて言わない。
病院ではまだマスクをお願いしているから、その違いが妙に新鮮だった。
お客さんの声も、ちゃんと聞こえる。
確か一時期、声出しって禁止だったよね?
私はそれをメディアを通してしか知らなかったけれど、その時期を経て、今、ちゃんと「声を出せるライブ」があることにじんわりきた。

音楽が鳴って、歓声が上がる。

楽しんでいいんだ。
ああ、こういう時間を、私はずっと遠ざけていたんだなと思った。
最大の娯楽はエンタメだと思う。日常とは違う、感情が揺さぶられる時間。
心の奥にある何かが、ふっと解き放たれる感じ。それを、やっと取り戻せた。
帰り道、寒い中まだ耳に残る余韻が嬉しかった。

コロナ禍のあいだ、私たちは多くのものを諦めてきた。
食事に行くこと、旅行をすること、人と会うこと、そしてエンタメを楽しむこと。
感染リスクを考え、医療従事者として最前線にいた私は、特に慎重にならざるを得なかった。「医療者なんだから」という目が光っていた時期。
個人的な楽しみはすべて後回しになった。ライブなんて、もってのほかだった。
でも、その間もエンタメは形を変えて存在していた。
配信ライブ、無観客公演、リモート演劇。
メディアを通じてそれを知ることはできたけれど、自分が体験することはなかった気がする。心のどこかで、「今はそれどころじゃない」と思っていたのかもしれない。
ちがう。思い込ませなくちゃ立っていられなかった。

けれど、ついにその「体験」が戻ってきた。
生の音楽、響く音、歓声、熱気。
それらすべてが、私に「今を楽しんでいいんだ」と教えてくれた。

会場に入った瞬間、懐かしい感覚が蘇る。
人のざわめき、ライブ前の高揚感、開演を待つ時間のそわそわした空気。
久しぶりに感じるこの雰囲気に、思わずココロオドル。
ライブが始まると、一気にその世界に引き込まれた。
表情、ステージの照明、音の迫力。
スクリーン越しでは決して感じることができない、生のエネルギー。
音楽と一緒に体が揺れる。周囲の人たちの歓声。
それは、あまりにも久しぶりで、あまりにも心地よかった。

思い返せば、コロナ禍以前は当たり前のように楽しんでいた時間だった。

週末にライブへ行き、思いっきり声を出して、終演後には友人たちと感想を語り合う。
そんな日常を送っていた人は多いはずだ。

それが突然、奪われた。
そして、その日常を取り戻すまでには、長い長い時間がかかった。

ステージに立つ彼らは、どんな気持ちなんだろう。
私にはわからないほどの悔しさともどかしさを抱え続けたかもしれないあの期間。

それでも、今、ようやくここまで来たんだ。
ライブ中、なんとも言えない気持ちになった。

理由はわからない。ただ、嬉しくて、切なくて、いろんな感情が湧き上がる。

音楽って、こんなにも心に響くものだったっけ?それを、こんなにも長い間忘れていたなんて。
帰り道、スマホで今日の曲を聞きながら電車に揺られる。
今日のライブを思いっきり噛み締める。
この時間すら愛おしい。
もう、エンタメを遠ざけなくていい。
またライブに行こう。また音楽に浸ろう。
ようやく、そんな気持ちになれた。

帰り道、ふと今日の曲を口ずさんだ。なんだか久しぶりの感覚だった。

おかえり。

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