自分のために怒ってくれる人(ルイの9番目の人生)
この中の一体誰に感情移入したらいいのだろう。
そんな奴いいからほっとけよ、って言われる人でも
むしろそんな人こそ
どういうわけか取り巻きができてたりするもので。
9歳になるまでに9回死にかけた男の子、ルイ。
主人公だし子供だし、って
ルイに心奪われるかというとそうでもない。
口は悪いし、可愛らしさを感じない。
ママかというと、これは絶対にない。
けど恐ろしいことに途中までママに同情してしまうんだ。
パパはルイを大切に思ってるから
いつ離婚してもおかしくない夫婦仲なのに
離婚も別居もしないで頑張ってる。
そのうち別居にはなるのだけれど、
ママの連れ子であるルイを心から愛し、別れを惜しむ。
でも浮気して別れてからこの家に来てるからね。
セラピスト、担当医、刑事、私は誰も好きになれなかった。
一人一人にそれぞれの世界があって
関わり方が変だ。
ビー玉を一つの袋に入れたときのように
それぞれが独立したままで、冷たくて。
そんな寒々しい相関図において
ルイのおばあちゃんは息子家族を見ている。
私には、このおばあちゃんだけが救いだった。
夫婦仲に立ち入るもんじゃないし
自宅からは距離がある。
でもちゃんと見ている。
そしてついにこんなことが起こってしまった。
感情を出してくる。
愛と、怒りと、哀しみを。
この女優さんどこかで見たな、それも頻繁に見た顔だなと思ったら
ドラマ「ワンス・アポン・ア・タイム」のコーラだった。
悪の女王レジーナのお母さん。
コーラは悪かった!恐ろしいママだった!
レジーナが気の毒になるほど・・・ってレジーナも相当悪なんだけど。
この女優さんが怒ったり憎んだり悪態をついたりすると
怖くて、でも揺さぶられてしまう。
怒り、憎しみ、悲しみ、嘆き、叫び、傷ついた側の反撃。
炎のように美しい。
(ああ私はこういうおばあちゃんになりたいと思っているんだ!)
この映画での出番はそう多くないけど
血が通った暖かさを保証する役どころとして
誰もがホッと見終わることができるだろう。
ルイは9歳まで苦難続きだったが、
謎が解けてここから本当に彼の運試しだ。
9回も死にかけて死んでないから、生命線強いんじゃないかとさえ思えるけれど。
たとえどんな親でも、子どもはそれを糧に生きていかなければならない。
ルイはきっと、ママのこともパパのことも好きなままで生きていくのだろう。
その時にルイの代わりに怒ってくれる人が側にいてくれるなら
観客の私も安心だ。
自分のために怒ってくれる人がいてくれるなら
得体の知れない人生が多少はマシなものになるだろう。
それは友人でも、家族でも、今会ったばかりの人でも。
そういう人がいてくれたなら。