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創業初期(プレシード)での資金調達:融資・投資のリアルな体験談
🎯 読者想定
プロダクトがない段階(プレシード)で資金調達を検討している方
資金調達を始めたばかり、または検討中の創業者
起業を考えており、資金調達について詳しく知りたい方
投資家や起業家とのつながりが少なく、頼れる人がいない方
🔍 背景
創業直後、資金調達に関する情報を調べながら模索していました。しかし、特にプレシード~シード段階の資金調達については、具体的な情報が少なく、試行錯誤の日々でした。同じような状況にいる方々の参考になればと思い、私の体験談を共有します。
この内容は、あくまで私自身の経験に基づいており、アプローチとしては正解ではないかもしれません。しかし、リアルなアクションの記録として役立てていただければ幸いです。
💡 前提条件
弊社は現時点では融資(デッドファイナンス)のみ受けており、投資(エクイティファイナンス)は受けていません。
早期にエクイティでの資金調達も検討しましたが、融資資金での運営が可能と判断し、まずは事業開発に集中しています。
📝 結論
融資で運営可能なら無理にエクイティ調達をしない方が良い
株式の希薄化を防ぐため。
投資家との対応に時間を割くよりも、顧客やプロダクトに集中すべき。
投資家とのコミュニケーションは早めに開始する
将来的なエクイティ調達に備えて、関係構築を進めることが重要。(いざ本格的に動くとなった際にすぐコミュニケーション取れるように)
資金調達が目的化しないよう注意
スタートアップの華やかなプレスリリースに憧れる気持ちは理解できる。
しかし、資金調達は事業の成長を目的とした手段であることを忘れない。
⚙️ 融資の体験談
私たちは創業初期に、日本政策金融公庫と信用保証協会(各自治体)の2つに融資を申し込みました。各制度のメリット・デメリットについては、以下の記事が非常に分かりやすくまとめられています。参考にしてください。
日本政策金融公庫
私の場合、WEBで申し込みを行った後、約10日後に面談の日程が確定しました。面談を実施し、その約1週間後に電話で審査結果の連絡を受けました。その後、必要書類を提出し、さらに1週間で入金が完了しました。申し込みから入金完了までの全体の期間は、約1か月弱と非常にスピーディーな流れでした。
融資額:1,000万円弱
流れ
創業計画書・収支計画書の作成
WEB申し込み
面談(約1時間)
審査結果の連絡(約1週間)
必要書類の提出
融資実行
面談から融資実行まで約1か月。迅速な対応が特徴。
特に重視されるポイント(他の融資でも基本的に同様と考えられます)は以下の通りです:
借入の状況
過去の借入履歴や返済遅延がないかを事前に調査されます。
事業の経験
申し込む事業に関連する経験がどの程度あるかが重要視されます。
自己資金の有無
自己資金が0でも申し込みは可能ですが、一定の自己資金を計画的に貯めることができる能力や計画性が評価されます。
面談で聞かれた主な内容
創業の動機
事業選定の理由
売上の根拠
事業の差別化ポイント
やってよかったこと
創業計画書に加え、下記内容をまとめたパワーポイント資料を作成
事業概要
ビジネスモデル
売上根拠
メンバー紹介(各経験の詳細について)
用語集
収支計画書(月次・年次)**の提出
素人目線を意識し、事業を分かりやすく説明
注意点
初回融資額の上限は1,000万円
支店内の決裁範囲が1,000万円まで
担当者の話から、1,000万円以上の融資は支店内では決裁できない仕組みのようです。そのため、計画書に2,000万円と記載しても、実際の会話や審査は1,000万円を上限とした前提で進みます。1,000万円以上を超える金額が必要な場合
担保や明確な根拠を提示し、1,000万円以上の融資の必要性を納得させることが求められます。(相当熱弁して担当者をまずは落とす必要あり)
私たちも1,000万円以上の融資を希望しましたが、会話は常に1,000万円を上限とした前提で進みました。(周囲の起業家に聞いても、初回融資で1,000万円を超えた例はなし)
担当者はその事業分野の専門家ではない場合が多いため、いかに担当者が事業を理解できるかが重要です。さらに、担当者が支店長などに承認を得る際にも、提出資料が役立ちます。
公庫の融資は「申込→面談→融資実行」というスピード感が特徴であり、1件ごとに詳細な吟味をする時間は限られています。そのため、担当者が短時間で事業の内容を理解できるよう、事前に提供できる情報は提供して情報を整理し、わかりやすくプレゼンすることが非常に重要だと感じました。
信用保証協会(各自治体)
信用保証協会とは、各自治体に設置されている機関で、金融機関から融資を受ける際に「連帯保証人」として支援してくれる制度です。この仕組みでは、実際の融資は銀行から行われますが、その融資に対する審査や保証を担当するのが信用保証協会です。
結果:審査落ち
流れ
自治体役所で承認取得
銀行で申し込み
計画書提出
保証協会との面談
審査結果通知
信用保証協会の融資は、面談に至るまでのプロセスが少し複雑です。主な流れとしては、書類の提出は銀行を通じて行い、銀行の担当者が保証協会と連携します。そのため、銀行と保証協会の間でのやりとりが発生し、手間がかかる印象を受けました。
公庫との違いと書類の手間
保証協会の書類要件は、公庫よりも細かく、追加の請求書やコスト明細、根拠資料などが求められました。
書類に対する修正依頼が頻繁にあり、これによって書類のやりとりが約2週間かかりました。
公庫のスピード感と比べると、保証協会のハードルは相当高いと感じました。
・公庫での融資をすでに受けている状態で保証協会に申し込んだため、追加の融資が不要と判断され、審査には通りませんでした。
・先に信用保証協会に申し込み、その後で公庫を利用していた場合、結果が異なっていた可能性があります。
💸 投資の体験談
実施したアクションとそれぞれの所感について整理します。
1. エンジェルポート(ANGEL PORT)
概要
スタートアップとエンジェル投資家をつなぐコミュニティです。登録投資家に対しアプローチを実施しました。評価:△
面談率:約5%
約100名にアプローチし、返信があったのは5名ほどでした。
所感
エンジェルポートの面談率は低い結果に終わりましたが、個別にメッセージを工夫するなどで改善の余地があると感じました。
2. HPへの問い合わせ
概要
投資家リストを活用し、シード段階に該当するVCへ問い合わせを送りました。評価:〇
面談率:約20%
約50社にアプローチし、10社とMTGを設定できました。
所感
最終的には、問い合わせから一定数のMTG設定できました。ただし、返信が来るまでに約2週間前後かかることも多く、すぐに返信がもらえたのは2~3社程度でした。各社とも問い合わせが多いと思われるため、ある程度気長に待つ心構えが必要です。
問い合わせ時には、事業詳細や資料など各社のFMTで情報の提出が求められることがあり、問い合わせを送る準備にも一定の時間がかかります。
投資家とのつながりが全くない初期段階では、積極的にアプローチを行うことをおすすめします。準備をしっかり整え、粘り強くアプローチを続けることで、徐々に面談につながる可能性が高まります。
おすすめリソース
投資家リストは以下が参考になります:
日本国内ベンチャーキャピタルリスト
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3. SNS(XやFacebook)でのダイレクトメッセージ(DM)
評価:〇
面談率:約50%
多く送付したわけではありませんが、一定の返信率がありました。
所感
なぜその投資家に連絡したのかと熱意を伝えることが大切
4. 起業家経由の紹介
評価:◎
面談率:100%
知人のスタートアップ起業家を通じて、VCやエンジェル投資家を紹介してもらいました。
所感
知人のスタートアップ起業家に相談することで、何名かのVCやエンジェル投資家を紹介していただきました。信頼できる知人からの紹介は、信頼度が高く、スムーズに面談へとつながるため、最も効果的なアプローチ方法だと感じました。
もし起業家とのつながりがない場合でも、VC主催のイベントに参加することで、他の起業家と出会いが得られます。その中で関係を築き、投資家の紹介をお願いするのも一つの有効な方法です。イベントは新たなネットワークを広げる場として非常に有用なので、積極的に活用することをおすすめします。
5. 投資家からの紹介
評価:◎
面談率:100%
面談した投資家に別の投資家を紹介してもらう形です。
所感
投資家の方とMTGをした際、ある程度の関係性が構築できていないと、他の投資家を積極的に紹介してもらうのは難しいと感じました。しかし、関係値を深めながら、貪欲に相談する姿勢を持つことが重要だと思います。
投資家同士は業界内で密につながっていることが多いため、具体的につながりたい相手や希望を明確にしたうえで、「他の投資家の方をご紹介いただけませんか?」と率直に相談することが有効です。特に、VC界隈は「村社会」のような特徴があるため大体つながっています。
6. イベントへの参加
評価:△面談率:0%(私の場合)
私の場合、イベント参加時にエクイティでの資金調達を一時停止する判断をしていたため、直接的に面談の打診は行いませんでした。しかし、名刺交換を通じて連絡先を得て、その後お礼の連絡をすることで一定のコミュニケーションを取ることができました。
ポイント
イベントでは名刺交換を積極的に行い、簡単な事業説明をして反応を見ることができます。
名刺交換後は、Facebookなどでお礼の連絡をし、面談を設定するのが効果的です。
投資家とのMTGで話した内容と目的(私たちの場合)
投資家とのMTGでは、資金調達を直接お願いするのではなく、将来的な資金調達を見据えた準備や、事業の改善を目的としました。以下は具体的な内容や流れについての整理です。
投資家とのMTGの主な目的
将来的な資金調達に向けた関係構築
本格的に資金調達を進める前に、早い段階から投資家との信頼関係を築くことを重視しました。
資金調達は準備とタイミングが重要であるため、現時点で関係を作ることが将来の動きをスムーズにすると考えました。
事業のブラッシュアップ
投資家との議論を通じて、事業の課題や改善点を見つけ、より良いビジネスモデルに磨き上げる機会として活用しました。
資金調達の準備状況の明確化
将来的に資金調達を行う際、何が不足しているかを整理し、改善するきっかけとしました。
MTGの具体的な流れ
(投資家側の会社紹介)
投資家によっては、冒頭で自身のファンドや会社の特徴について紹介してくれる場合がありました。
自己紹介
私たちの経歴やこれまでの事業経験を簡潔に説明しました。
事業説明(ピッチ)
ビジネスモデルや事業概要、ターゲット・市場・競争優位性などをプレゼンしました。(あくまで現段階で整理できている内容のみ)
投資家からの質問
事業内容についての詳細な質問や懸念点を聞かれる場面が多くありました。
投資家視点での指摘や助言を受け、事業の見直しポイントを把握できました。
ヒアリング・深掘り
投資家に「今後明確にすべき点」や「資金調達時に重視されるポイント」について質問し、具体的なアドバイスをもらいました。
その他:バリエーションについて
資金調達を進める中で、初回のMTGで投資家からいただいたフィードバックや、複数の投資家との会話を通じて得た「バリエーション(企業価値)」についての情報を整理しました。これはあくまで私の体験と所感に基づくもので、事業内容や経営メンバーによって大きく異なる可能性がありますが、一定の目安として参考にしていただければと思います。
事業構想段階・プロトタイプのみ(プロダクト未完成の場合)
バリエーション:1~3億円程度
多くの投資家の所感では、感覚的に「1億円に近いイメージ」が多かったです。
どちらかというと事業より起業家に対して投資するイメージです。
プロダクトローンチ済み・初期トラクションがある場合
バリエーション:5億円前後
プロダクトがリリースされており、一定の顧客が確認できる場合。
特に初期の成功事例や継続的なトラクションが見えると、この水準に評価されやすいと感じました。
所感
何十社もの投資家と話した中で、大体同じようなバリエーション感覚が共有されていると感じました。このような基準感を理解しておくと、資金調達の際に自社の適切なバリエーション設定や交渉がスムーズになると思います。
最後に
私自身の経験を通じて感じた、資金調達における重要なポイントを以下にまとめます。
資金調達で心に留めておくべきこと(自戒の意味を込めて)
資金調達は手段であり目的ではない
資金調達そのものが目的化しないよう、資金をどう活用し、事業を成長させるかを意識
無理にエクイティを選択しない
融資(デッドファイナンス)で一定の運営が可能であれば、株式の希薄化を防ぐためにもエクイティ調達を無理にしない
特に創業初期は、投資家対応よりもプロダクト開発や顧客対応に集中すべき
早期の投資家との関係構築
将来的な資金調達を見据え、投資家との信頼関係を築くことが重要
初期段階のMTGでは、「今すぐの調達」ではなく、「事業ブラッシュアップや準備のための壁打ち」としてコミュニケーションをおすすめ
その他
参考程度にですが私はファイナンスの知識が皆無だったため下記2冊読んである程度のファイナンスの知識をつけることができました。