産業の「布」の終わり、創作の<布>の始まり〜分解的創造のアクション〜
「属性の転換」というフィルターを通して物事を眺めることがあります。
私は、今、巨大化していく一枚布を制作しているのですが、その素材にあたるのは「布」です。近代以降、「布」は今よりも貴重でより価値が高いものとして認識されていたのではないかと思っています。産業革命を経て、たくさんの「布」が私たちの手に行き渡りました。現在、家やお店で多くの「布」が余っていることだと思います。
これらの状況を受けて成立しているものが、現在制作を続けている一枚布です。
一枚布の素材は、関わりが生まれた方々に手放してもらった「布」です。それらはもともと一枚布の制作のために生まれてきたものではありませんが、「(人の認識における)属性の転換」が起こり、一枚布の<布>として生き始めます。
*
一枚布の制作をしていて、これは新しい回路をつくる行為だと感じています。回路は流れていくところですが、流れていくには溜まりがちなものを分解し、それを流れるようにしていく必要があります。
今、社会に次々に生産され、溜まっていく「布」を分解し、作品の素材の<布>にし、一枚布を作っていく。
そのプロセスに関わってくださっている方々は、現在、私を含め、ほんの数人です。「布」の分解能力(および<布>の創造力)は微々たるものではありますが、協力者が増えていく段階になれば、その分解と創造の力は高まっていきます。
一枚布の回路は、産業界の生み出した「布」が命を終える流れづくりであり、新しい属性と共に<布>が命を始める流れづくりです。私は、繊維産業などをはじめとした産業界の発展のために制作をやっているわけではありませんが、それらの産業の存在を前提にしつつ、産業界の「布」だけではなく、<布>があることによって、世界がより多様に、色鮮やかになっていくことに貢献できたらと思います。