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答えのない数学#4 【津田塾大学 学芸学部 数学科 原隆先生 ロングインタビュー】

「大根を正宗で切る」

編集者:突然こんなことを言うと変かもしれませんが,原先生は私なんかが気軽にお話してよい方ではないと,私は自分自身を戒めておりまして.

原先生:いやいやいや,そんなことないですよ(笑).なにをおっしゃいますか(爆笑).

編集者:そのことは最近,はっと気づいたんですけれど,本の宣伝として小社のX(旧ツイッター)のアカウントで手を動かしてまなぶ 群論のことをポストさせていただいたんですね.そうしましたら,東京理科大学の加塩朋和先生(東京理科大学創域理工学部数理科学科教授)がですね.

原先生:あー,加塩さん.ええ.

編集者:加塩先生が手を動かしてまなぶ 群論の存在を知ったときに,群論というテーマで原先生が書籍執筆することを「大根を正宗で切る」と喩えておられるのをたまたま見つけまして.もしや,私はとんでもないテーマをとんでもない方に雰囲気を読まずにお願いしてしまったのではないか,と冷や汗が出ました.

数学者・加塩朋和先生(東京理科大学創域理工学部数理科学科教授)のXでのポスト.

原先生:とんでもない(笑).そんな大層な者ではございません(笑)

編集者:原先生のご研究のテーマは岩澤理論数論幾何というものですので,そのようなご専門の方に初等的な群論の本をお願いしてしまい,大丈夫だったかなと(汗).

原先生:いえいえ.

編集者:数学者の方が最先端のテーマについて講演されたりですとか,論文を書いたりといったことに注ぐ情熱はよくわかるのですが,今回,手を動かしてまなぶ 群論のような教育的な本に,これほどまでに情熱を注いでくださり,加塩先生のお言葉をお借りするならば,見事な「切れ味」を持って書いていただきました.

原先生:いえいえいえ.

『手を動かしてまなぶ 群論』では原先生ならではといえる解説が迸る.

編集者:人に伝えることですとか,普段から学生さんの様子をご覧になられている中で,原先生のモチベーションがよく伝わってきました.私にとっても,原先生の熱意をすごく感じることのできた一冊でした.

原先生:本当にありがたい限りです.

編集者:本づくりの過程では,原先生からも積極的にいろいろなご提案をいただいて,素晴らしいまとめ方で書き上げていただき,私はただただ感服しておりました(恐縮).また,これほどまでに豊富な話題を本に取り込んでいただいて大変嬉しいです.

原先生:いえいえいえ.

『手を動かしてまなぶ 群論』の実際の校正刷.
原先生に入れていただいた赤字と編集者の赤字入れやマーカーでいっぱい.
校正で誤植を潰していくとともに,内容に磨きをかける.

どうして数学をやろうと思ったか

編集者:それでですね,先生のいろいろな中高時代のお話を伺いまして,そこから数学をやってみようという風に,まぁ,数学に目覚めたというか,その後,東大数理の数学科に進学されたわけじゃないですか.

原先生:ええ,はい.

編集者:それは東大に入ってから数学科に行こうと決められたのですか.それとも高校を卒業するくらいのときから,数学者になるといいますか,数学を本格的に学ぶことを意識して過ごされていたのですか.

原先生:数学科は考えてはいたんですけど,まさか本当にやるとはという感じではあったんですけどね.やっぱり東大っていうのは進振り(※ 進学振り分け制度)が有名で,入学してから専門を決められるということで,この制度は最大限にいかそうと思っていろいろと見てみたんですけれども.

編集者:はい.

原隆先生の研究室の本棚(写真の続き).面白そうな数学書が並ぶ.

原先生:結局,数学になっちゃったんですよね.数学をやりたかったのは,研究者になるとかそういう感じよりは,やりたいことがひとつあって――それがまさにガロア理論だったんですけど――,ガロア理論の話は作図問題が,ええと,正17角形が定規とコンパスだけで作図できるっていう有名な話があるんですけど,そういう話ですとか,有名な5次以上の代数方程式は解の公式を持たないとか,そういうのがあるんだよっていうのは聞いてたんですけど,それがなんか――たぶん塾かなんかのアドバンスコースかな,ちょっと覚えてないんですけど――,それらの話が全部ガロア理論から出るんだよっていう話を聞いたんですね.

編集者:それは塾のコースかなにかですか.もしかして,河合塾のK会でしょうか.

原先生:いえ,そっちじゃなくて.私,SEGに行ってたので,たぶんSEGのなんかでしょうね.ちょっと覚えてないですね.SEGも数学科を出ている結構バリバリの先生も多いですし,うん.

編集者:はい.

原先生:それでガロア理論は絶対やってみたいなというのはあったんですよね.

編集者:それは高校のときですよね.

原先生:高校とか大学,うん,高校ですね.もちろん数学科に行かないとやれないという話になって,でも,それだけのために数学科に行くのもなと思って,ちょっと考えてたんですけどね(笑).最終的には,なんだろうな,実験系よりこういうもの(=数学)の方が合ってるんだろうなと思ったんでしょうね.

編集者:実験は大変ですものね.

原先生:ええ.理系だとどうしても実験があるじゃないですか.1, 2年の時の実験の授業で,毎回,夕方の6時~7時までかかってしまって.これは自分には合ってないなと思ったのもあるのかもしれないですね.そういうこともあって,最終的には数学を選びました.ただ,やっぱり周りの反応はあんまりよろしくなかったですけどね(笑).数学科って駒場キャンパスから動かないんですよね.

編集者:本郷キャンパスに行かないと.

原先生:うん,本郷にもいかないし,「駒場の片隅でなんかやっている人たちだからやめた方がいいよ」みたいな,よく分からないことを言われたりとか(笑)

編集者:(笑)

原先生:でも,結局,やりたいなというのが勝って数学になったいう感じですね.

黒板をバックにした原隆先生

編集者:大学に入学されて,進振り前の教養学部のときになにかサークルとか部活はされていたんですか?

原先生:いちおう,テニスのサークルに入っていたんですけど,あんまり真面目にはやってなかったですね.あんまりサークルのノリが合わなかったというのもあって.高校でテニスをやってたんで,そのままその続きでという感じだったんですけど.

編集者:そうなんですね.いろいろな人生といいますか,いろいろなご経験をされてこられたのですね.

原先生:こうして振り返ってみるといろいろありますね(笑).

【津田塾大学 学芸学部 数学科 原隆先生 ロングインタビュー】
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(文責: 裳華房 企画・編集部 久米大郎)

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