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柔道家としての初めの一歩

 私が子どもの柔道指導を始めたのは、2019年の4月です。1人目のお子さんは、フランスから来た5歳の男の子。当時勤務していた「文武一道塾 志道館」(東京都)で約4ヶ月間柔道を教えました。帰国の関係で、一緒に稽古をした期間は短かったのですが、彼と一緒に柔道をした経験が子どもの柔道指導の原点です。
 彼は「さよなら」という言葉が嫌いでした。最後の稽古日にお別れするのがさみしくて泣きだした姿を今でも思い出すことがあります。彼が最後に言った言葉は「またね」。フランスで柔道を続けてくれていたら嬉しいなあ。柔道という道の上で、また彼と会いたいです。
 当時、彼との最後の稽古を「文武一道塾 志道館」のコラムで書きました。一部転載いたします。

【フランスから来たR君、母国に帰る~「道」はつながっている~】 
(略) 
R君は、いつも明るく陽気です。お別れの日も、笑顔で楽しく稽古をするだろうと思っていました。ところが、最後2回の稽古は、いつもと様子が違っていたのです。 

7月20日(土)の稽古中、「あと2回で志道館の練習は終わりだよ。一緒に頑張ろうね。」とお母さんを介してR君に言いました。すると、彼は泣きだしてしまったのです。私とお母さんは、その反応に驚きました。小さなR君も、お別れが近づいていることを理解していたのだと思います。「受身島の冒険」で何とかいつもの笑顔に戻りましたが、その無邪気な表情を見れば見るほど、私も涙が出そうになりました。

7月27日(土)、いよいよ最後の稽古です。この日は、いつも通り元気一杯でした。しかし、最後の最後にR君は普段とは違う行動をとったのです。着替えが終わっても、なかなか柔道衣をたたみません。最近、自分でたためるようになったのに、適当なやり方ばかり繰り返します。
お母さんは、「わざと終わらないようにしているのだと思います。これで最後だと分かっているので…。Rはきっと悲しいんです。」と彼の心中を教えてくださいました。その後、彼はお母さんの側で、そっと涙を流していました。

この2回の稽古は、フランスから来られていたお父さんも見学をされ、「日本で柔道ができてよかったです。Rは柔道の本質に触れ、柔道に対する意識が変わったと思います。」とおっしゃっていました。ご両親とも「柔道は躾につながる」というお考えで、「強くなること」より「相手に対する礼儀」を大切にされています。フランスでは教育的効果を期待して、お子さんに柔道をやらせるご家庭が多いそうです。これは、本当に素晴らしい考え方だと思います。
R君は、フランスでも柔道を続けるそうです。きっと将来、立派な柔道家になってくれるでしょう。

「Rは、『さよなら』が嫌いなんです。」
お母さんは、最後にそうおっしゃっていました。だから彼は、最後まで「さよなら」は言いませんでした。お別れの時に言った言葉は、「またね!」
日本とフランスは遠く離れていますが、「柔道」という「道」で私たちはつながっています。いつの日か、またこの「道」の上で、柔道家として大きく成長した彼と会いたいです。
短い期間でしたが、彼が志道館で学んだこと、そして私が彼から学んだことは数えきれません。この出会いに心から感謝をしたいです。本当に楽しい4ヶ月間でした。

フランスでも、君らしく笑顔で柔道を頑張って!
またね!

(文武一道塾 志道館 ホームページ 2019年8月7日の記事より引用)



 先月、4歳のお子さんが咲柔館で柔道を始めました。柔道衣を着る、礼をする、受身をとる、相手を投げる、彼にとって全てが初めてです。やること全てが新鮮で、とても楽しそうに毎回稽古をしています。
 最初に学んだことは、良いも悪いも一生残る可能性があります。安全で正しい技術を教えることはもちろん、柔道の心もしっかり伝えなくてはいけません。「初めて柔道を教える」というのは、とても責任が大きいことです。これからも、柔道の土台を作っているという責任感をしっかりと持ち、1回1回の稽古、1人ひとりのお子さんに心を込めていきます。


 お子さんが柔道を始めた時、責任感と同時に柔道家が一人増えたという喜びも感じています。初めて柔道衣を着た時の誇らしそうな顔、初めて受身や技ができた時の嬉しそうな顔、こういった子どもの生き生きとした表情を見る度に、道場を始めてよかったなあと思っています。お子さん達が柔道という道の一歩目を踏み出した瞬間に立ち会えていることは、本当に幸せなことです。「柔道が好き、楽しい、おもしろい」と思ってもらえるような稽古を心がけていきます。

 

 柔道を始めたお子さん達が、将来全国大会やオリンピックを目指して挑戦するも良し、自分のペースでのんびり柔道を楽しむも良し、柔道という道を自分の歩幅、ペースで歩き続けてくれたら嬉しいです。これからも、お子さん達の初めの一歩を応援し続けます。


「柔道家が増えることで、社会はより良くなる」      
文武一道塾 咲柔館


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