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『メアリー・スーを殺して』乙一【小説】
乙一、中田永一、山白朝子、越前魔太郎という4名の作家によるアンソロジー…に見せかけた全編乙一による短編集。
乙一以外のみなさんは乙一の別名義だそうです。解説もご本人という乙一欲張りセット。
乙一以外の名義の作品は初読みでした。
それぞれ色が違っていて面白かったです。
愛すべき猿の日記 (乙一)
父の遺品のインク瓶を受け取ったことから人生が動き出す話。
インク瓶を開けたところからアクセルベタ踏みの感。そこから最後まで段落が変わらないので、どんどん押し流されていくようです。
人生って目まぐるしいよね、でも書きとめずにはいられないんだよね、とじんわり温かい気持ちになりました。
山羊座の友人 (乙一)
いじめに耐えかね相手を殺したクラスメイトと遭遇してしまったら、という話。
未来の新聞がベランダにひっかかる、というファンタジー要素のあるお話で、その未来が実現してしまうのか主人公と一緒にハラハラしながら読みました。
「もっと早く」という言葉が重い。もっと早く声をかけていたら。もっと早く相談していたら。そうしたら、違った結末になったのかもしれません。
前半の何気ない描写が再読すると心を突き刺してきます。しみじみ文章がうまい。
宗像くんと万年筆事件 (中田永一)
万年筆盗難の犯人にされたところ、宗像くんが疑いを晴らそうとしてくれて、という話。
そもそもの話、万年筆なんて小学校に持ってきちゃダメだよ、と思ってしまいました。トラブルの元じゃん!
宗像くんの小学生ばなれした推理力に脱帽です。
同時に、年相応のところもあって宗像くんを好きになってしまう。
ミステリとボーイミーツガールがぎゅっと詰まってて、この本の中で一番好きなお話でした。
宗像くんのシリーズが書かれたら是非読みたいと思いつつ、行く先々でボーイミーツガールしてたらちょっとモヤモヤしちゃう(笑)
メアリー・スーを殺して (中田永一)
メアリー・スーとは、作者の願望を過剰に投影したご都合主義的なキャラクター、という理解でいいでしょうか。
二次創作を心の拠り所にしていた少女が、自分の作品からメアリー・スーを排除しようとする話。
なんというか、若さ‼︎青春のキラメキ‼︎ そういうものを感じます。眩しい……。
お気に入りのキャラクターと脳内会話できる時点で才能に溢れてますよね。スタンかな。
彼女がゼロから紡ぐお話を読んでみたいと思いました。
ところで主人公の少女、スタート地点こそ他人が羨む状況ではないものの、努力をはじめたらやることなすこと全部上手くいっててメアリー・スーみたいで可笑しみがあります。
トランシーバー (山白朝子)
亡くなったはずの息子の声がトランシーバーから聞こえてきて、という話。
山白さんはホラー系統のお話を書く人のようなので、怖い話かとドキドキしました。
こういうお話があってもいいよな、と思います。
ある印刷物の行方 (山白朝子)
実験で出た廃棄物を焼却する仕事をすることになった女性の話。
廃棄物は箱に入って運ばれてきます。どう考えてもヤバいものが入ってますね、と言わんばかり。
中身は察しがついてましたが、実際描写されると精神的にキツいものがありました。
確かに印刷物と言えるかもしれないけれども。そうか、印刷物なのか……。
彼女の行為はどこか母親を思わせます。
後味は悪いのですが、それだけではない不思議な読後感のあるお話でした。
エヴァ・マリー・クロス (越前魔太郎)
大富豪の遺品に人体楽器というものがあり、その謎を探ろうとする話。
かなりグロテスクなお話で、バッドエンドが口を開けて待ってるのがありありと分かります。
でもこういうの、嫌いじゃないです。
楽器にはある種の美しさすら感じます。おぞましいとは思っているし、あのコンサートに行けますよ、と言われても絶対に行きたくないけど。
別名義のことを知らなくても、あれこれは乙一では?と気がついたかもしれません。なんとなく。
久々の乙一でしたが、やっぱり好き。面白かったです。
うちにある本読み返そうかな。
別名義で出ている本も読んでみたいです。