『学問のすゝめ』福沢諭吉【名著】
現代日本人がある意味もっとも好きと言っても過言ではない福沢諭吉。
そんな彼が日本一でいる間に著作を読んどくかなーなどという不純な動機で読み始めました。
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という冒頭は誰でも知ってると思いますが、正直私はそこしか知りませんでした。
ところがこれはアメリカの独立宣言からの引用らしく、福沢自身の言葉ではないとのこと。
人は生まれながらに上下の区別はなく、自由自在であるという意味だそうです。
しかし現実には貴賤の差が存在し、その差は学問をするかしないかにより生まれると続きます。
というわけで、学問は大事であると説くのがこの本なのでした。
ここでいう学問とは、読み書きそろばんを始めとして、地理歴史、経済や道徳、物理科学といったところ。残念ながら文学は入っていません。
そして、ただ本を読むことではなく、実生活で活用させるものだというのが大事なところです。知識を得て、意見を交換し発表する。そこまでがセットです。社会に生かさなければならないということでしょう。
そして学問をする目的は、個人が独立することにあります。
福沢は江戸時代までの封建社会を否定します。
国と人民との関係は、御恩・奉公ではなく規則・約束を用いるべきであるといいます。
そのために法律が存在するのです。
そして法に不便があれば議論をもって対処すれば良いのだとします。
そうするためには国と人民とが対等の力を持っていなければなりません。だから個人が独立している必要があるのです。
国に対して能動的に関わればこそ、国のことを自分事として引き受けられましょう。
個人の独立が国の独立を保つことにつながるのです。
学問は大事だよ、ということが国の独立まで一続きになっていたのでした。
欧米の文明に触れて、日本は独立を保てるかどうかの瀬戸際にいるのではという真剣な危機感があったのだろうと思います。
これからの時代を築いていくのは我々だという気概や自負も感じました。
明治初期という時代を思わせます。
「勉めざるべからず」=努力しなさい、と何度もくりかえし書いていました。
私が読んだのは学術文庫版で、解説に当時の時代背景の説明がありました。それを踏まえて読むと面白かったです。
それに、社会や権利といった現代ではあたりまえの単語も、当時は定着していませんでした。
例えばほとんどの文章で、社会をあらわす言葉として「人間交際」が使われていて、和訳の苦労が偲ばれました。
また、新しい時代の人間、民衆の先頭に立つ人間としてどう生きていくべきかも説いています。
現代のビジネス書なんかに書いてありそうなこともありました。
時々は人生の棚卸しをしなさい、はどこかで見たことある気がします。
全体的な印象として、福沢諭吉は「陽」の人だったんだろうな、と思います。
どちらかというと陰の私からすると眩しい。
広く人と交わりなさい、それには言語能力とふるまいが重要だよ、両方とも必ず上達するものだよ、と書いてあります。
丁寧に諭されているようで甘えを禁じられているような圧を勝手に感じてしまいました。
正直人付き合い面倒なタイプなので、自戒のために本文の締めの文章を書いておきます。
人にして人を毛嫌いするなかれ。