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「誤字脱字ゼロの人」が意識しているポイントとは?

こんにちは!

出版の編集者にとって、寿命が縮む瞬間があります。
「誤植(印刷物における文字・記号などの誤り)」が見つかったときです。

ゾクッと心臓が縮まる気配がして、頭が真っ白になったあと、ものすごい勢いで不安と後悔が込み上げてくる。なんでこんな間違いしたのか、著者になんて言おうか、お詫び・訂正のお知らせをすべきか、回収が必要なレベルか、会社からなんて言われるか……あああああ、なんでもっとしっかりチェックしておかなかったんだ!

ぼくは編集者にあるまじき不注意な人間でして、書籍の誤植だけでなく、メールや企画書など、文字まわりの失敗は数え切れないほどしてきました。

ただその分というべきか、どんなときにミスを出しやすいのか、どうすれば減らせるのかについては、あれこれ考え続けてきました。

そこで今回は、「誤字脱字を減らす方法」をお伝えします。メールや資料作成など使えるシーンは多いので、ぜひ参考にしてください。


誤植・校正にまつわるあれこれ


歴史上、もっとも有名な誤植は、1631年にイギリスで印刷された「姦淫聖書(The Wicked Bible)」といわれています。

モーセの十戒の第七条「汝(なんじ) 姦淫するなかれ(Thou shalt not commit adultery)」の「なかれ(not)」が抜け落ちて「汝姦淫すべし」となってしまった。つまり、神が人々に姦淫を勧める聖書になってしまった。

想像するだけで冷や汗が出てくる誤植ですね。この聖書はすべて焼き捨てるように命じられたものの、絶滅させることはできず、これまでに6冊見つかっているそうです。

昔、キリスト教の権力が強かったころは、聖書に誤植があったら死刑で、実際どこかの国では誤植を出して死刑になった人もいたそう。ぼくがその時代に生まれていたら間違いなく編集者という仕事は選んでいません。

どんな時代でも、どんな国でも、誤植はタブーとされています。書き手(著者や記者)と編集者は繰り返しチェックするだけでなく、校閲者や校正者が誤字脱字、文法、事実関係、一貫性、リンク・参照などを確認します。とりわけ出版物は、複数のプロによる地道な努力によって支えられているといえるでしょう。

芥川龍之介は、新しい作品集を出すたびに「校正の神様」といわれていた神代種亮を指名して校閲を任せていたそうです。それだけ誤植にシビアだったわけですね。

とくに注意したい「誤字脱字の3パターン」


では、ビジネスシーンでは、どんな場面で誤字脱字が起きやすいのか。大きく3パターンに分かれます。

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1. タイプミス

  • 誤字:「初めて」を「始めて」と書く、「阪本さん」を「坂本さん」と書く

  • 脱字:「ご覧ください」を「ご覧ださい」と書く、「コミュニケーション」を「コミニケーション」と書く

  • 助詞の誤り:「は」と「が」、「に」と「で」などの間違い

2. 数字・データの間違い

  • 単位・日付の誤り:「500万円」とすべきところを「5,000万円」と書く、「3月31日」とすべきところを「3月13日」と書く

  • 引用元との齟齬:引用元は「3,200人」なのに、本文では「3,300人」となっている。

  • データの誤り:グラフの軸に誤ったデータを書いてしまう。たとえば「収入」の代わりに「支出」のデータを使用している

3. デザインの間違い(誤字脱字ではないが、注意したいところ)

  • 先祖返り:修正したはずのデータが何らかの原因で元に戻っている

  • 同じものが入っている:同じ図表やデータがページを挟んで入っている(似ている図だと気づきにくい)

  • フォント・文字サイズの不統一:途中からフォントや文字サイズ(級数)が異なっている

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いかがでしょうか。とくに「1. タイプミス」は経験したことがある人が大半ではないでしょうか。

「1. タイプミス」の中でもとくに注意したいのは、やはり「人名」です。坂上田村麻呂や山片蟠桃のように長かったり難しかったりする名前の場合、自然と意識が向くので案外ミスしにくいもの。間違えがちなのは「同音異字の名前」です。

たとえば、ぼくの名前(庄子 錬)だと、「庄司」や「圧子」と書かれたことは1,000回くらいありますし(昨日もあった)、ときには「庄司 練」と姓も名も間違えられたことも。あまりに間違えられすぎて気にならなくなりましたけど、ムカッとする人はいると思います。

経験上、名前の「真ん中」または「最後」の漢字は間違えがち。名前を間違えると信頼問題につながりかねないので、とりわけ注意したいところです。

誤字脱字を減らす3つのヒント


誤字脱字を完全にゼロにすることは難しいと思いますが、減らす方法はあります。次の3つです。

1. 時間を置いて読み直す

1回書いた文章を少し寝かして読み直す。理想は、一晩置くこと。カレーと同じですね。
脳がリセットされた状態で読み返すと、誤字脱字はもちろん、構成の矛盾に気づけたり、魅力的な表現を思いつけたりします。これは文章のクオリティを上げるためにも必要な工程です。

2. 「目」ではなく「音」で読む

とはいえ、メールやチャットなど時間をあける余裕がないときも多々あるはず。
そんなときは、目で読むのではなく、1文字ずつ音読するのがおすすめ。音読といっても声に出す必要はありません。心の中で読んでください。

このとき、脳は読むこと(音で追いかけること)で精一杯なので、前で紹介したような漢字の間違えはスルーしがちです。
なので、「音読したあとに、もう一度最初から漢字だけをチェックする」という二段階に分けるのもいいでしょう。

3. 「2つの視点」でチェックする

資料やレポートなどの場合、1回のチェックですべてのミスを拾うのは難しいものです。
「小さな視点」と「大きな視点」を切り替えて、最低2回は読み返すようにしましょう。

  • 小さな視点……頭から読んでいき、誤字脱字がないかをチェックする

  • 大きな視点……フォントや文字サイズ、図表、レイアウトなどに問題がないかをチェックする

たとえば、ぼくがこの記事を書いているときは「小さな視点」で文章を整えたあと、「大きな視点」で見出しの位置や整合性、連番のズレがないかなどを確認していきます。

書籍の校正の場合、「小さな視点」で個別の文章を校正してから、「大きな視点」で柱(余白に配置される章や節)をチェックしたり、目次と本文の突き合わせをし
たりします。この2つの視点を使い分けることで主要な誤植を減らせます。


最後に。誤字脱字は、人によってクセがあります。

たとえばぼくの場合、人の名前はほぼ間違えたことはありませんが、脱字や助詞の間違えはしょっちゅうあります。
クセを知っておけば自然と意識が向くので、自分の「誤字脱字傾向」を見つけておくのがおすすめです。

では、また次回の記事でお会いしましょう。


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